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Dolls  作者: 夕凪秋香
第1章 クロッカス村
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クロッカス村2-3


・最初シリアスなのに、後半ギャグです







「先ほども言いましたが、私に用があるのでしょう?カミィラには用は無いですよね」


零香は壁に倒れていた男を唖然としたまま立っている男達の方へ投げて、表情は笑みを浮かべたまま言った。男達は無言で頷く。


「カミィラ、家の中へ」


「でもっ」


「大丈夫だから安心して。今日の晩御飯でも作って待ってて、楽しみにしてるから」


零香が優しく微笑みながらそういうと、カミィラは「…わかった。待ってるからね?」と言って家の中へ入った。零香は扉が閉じるまでカミィラに手を振る。扉が閉まると零香は男達を睨んだ。男達はその視線にビクリッと肩を震わせたが、すぐに怒りの表情になった。倒れて気を失っていた男も目を覚まし、零香の首元に剣先を突きたててきた。内心驚いたが、顔には出さない。


「お前、俺達が誰かわかってやったのか」


「貴方達のような人なんて知りませんし、知りたくもない」


そういうと剣先が皮膚に触れて少しだけ痛い。血が出ているのかもしれない。だけど視線は目の前の男を睨んだままだった。


「生意気だな。アイツみたいに体に教えつけてやろうか?」


男の子を踏みつけ、蹴った男がいきなり零香の腕を掴み顔を近づけてきた。あの子供の顔が頭に浮かび、零香は掴まれた腕を払い落とす。


「アイツとはあの広場の子供のことですか」


男達はニヤニヤと不快感を与えるような顔を浮かべながら「そうだ」と答えた。


「何故あんな小さな子供にあんな事をするんですか」


「アレは俺達の所有物だ。所有物をどう扱おうと勝手だろう?」


「あの子にも意思はあります」


「意思なんて関係あるもんか。アレは物だ」


男は笑いながら零香に「お前もアイツと同じ俺達の物になるんだよ。光栄に思え?」と耳元で囁いた。背筋が冷たくなり、零香は首に深く傷がつくのを無視して男達から離れた。首を右手で押さえながら零香は笑い続けている男達に凛とした表情で答えた。




「貴方達の物になるなんて、死んでも嫌です。権力を私利私欲のために使う人は嫌いです。

 ……それ以上に……奴隷だとしてもその人の意思を無視する人の物になど、なりたくない」




その言葉は男達の怒りを爆発させるには十分だったようだ。

男達は腰につけている剣を抜き、いきなり襲い掛かってきた。零香はそれを避け、広場の方へ全速力で走った。後ろを時々振り返ると、男達は馬には乗らず走って追いかけてきていた。男達が馬に乗って追いかけてきてない事と足が遅い事に心の中で感謝すると、零香は広場の中心にある井戸の目の前で止まった。周りを確認してあの男の子がいないのに気が付くとエリミアに心の中で礼と謝罪の言葉を思い浮かべる。そして、昨日考えていた事を実行する。

まず、瞳を閉じて頭の中で『あるモノ』を思い浮かべる。

すると、自然と体から力が湧き上がって来るのがわかる。ここまでは思っていた通り。零香は瞳を開け手を追いついてきた男達の方へ向ける。そして、唱えた。


「束縛せよ」


瞬時にそれは現れた。

地面が一瞬揺れたかと思うと、男達と零香の目の前に土色の巨体の人形が地面から現れた。体長は10m以上はあるだろう。零香が思い浮かべたのは、ある話では脅威の怪物、ある話では遺跡の守護者。『ゴーレム』と呼ばれる人形だった。

ゴーレムは自分を創った零香に視線だけ向けるとゆっくりと歩き出した。男達はいきなり目の前に現れたゴーレムに怯え、腰を抜かす者もいた。ゴーレムは自分に一番近い男の体を片手で簡単に持ち上げると、恐怖で涙を流す男の顔をまじまじと見つめた。


「なっ、なんでお前なんかが魔法を使えるんだよ!俺でさえ出来ないのに」


ゴーレムの傍で懸命に仲間を助けようとしている男は零香にそういった。零香はその言葉にただ何も答えず、ゴーレムに次の命令をだした。


「他のやつも捕まえて」


ゴーレムは命令を聞くともう片方の手でもう一人捕まえる。じたばたと暴れる男の襟を掴むと零香が予想していなかった行動をとった。


「えっ?」


ゴーレムはそのまま自分の顔の上まで男の体を持ち上げ、口?を開いて男を飲み込んだのである。その行動にその場にいた全員が硬直した。

ゴーレムは男を綺麗に飲み込むと、最初に捕まえた男も飲み込んだ。男はなすすべなくゴーレムの体の中へと姿を消した。


「うっ、うわぁあああああ!!」


腰が抜けた男が悲鳴を上げる。そして体を震わせながら持っていた剣でゴーレムを切った。だが、ゴーレムには傷一つ付かなかった。男はその場に剣を落とし、恐怖が感情を埋め尽くし逃げ出した。

零香は混乱し後ずさりしながら体を震わせていた。


(なんでっ…!)


自分で自分の体を抱きしめながら零香はその場に座ってしまった。何も考えられない。零香は残っていた男達に視線を向ける。男達はゴーレムを見ていた。その表情に恐怖というものはなかった。


「へぇ~、珍しい。魔術師でそれも女か。魔力も俺以上有るようだし……いいな」


そう言ったのは男の子に暴力を振るい、零香を同じようにするといった男。


「久しぶりに刃向かう奴が出てきたな。これは楽しめそうだ」


そう言って笑ったのは、零香の首に剣先を突き刺してきた男。


「……」


今まで一言も話さず、状況を遠目から見ていた男。


零香はゴーレムよりもこの男達のほうが恐ろしいと思った。

仲間をゴーレムに食べられてなお、恐怖ではなく興味を示した男達を。


「グォ」


「やっ!!」


零香はゴーレムが自分の傍に来ていたことに気づかず、不意をつかれて捕まってしまった。しまったと思って、手から逃れようと必死に体を動かそうとするがビクリともしない。


「やめて!」


そう言ってもゴーレムは止まらず、その口を開き零香の体を高く持ち上げた。

零香は自分もあの男達と同じ様に食べられてしまうのかと思うと、自然と目から涙が出た。だが、ゴーレムの口の奥に見えた物に零香は驚いた。そして、零香の体から手が離れた。








零香は驚く男達を見ながら、綺麗にゴーレムの口の中へと消えていった


その表情に恐怖はなく、ただ優しげに微笑んでいた

























一方その頃


リュナミスとパルサーシャは村で今何が起きているのか知らず、王子を迎えに行くために馬を走らせていた。リュナミスにとって自分で走るほうが速いのだが、魔力をあまり消費すると何日間も眠らなくてはならないため、仕方なく馬に乗っていた。


「もうそろそろか?パルサーシャ」


もう一頭の馬に乗っているパルサーシャのほうへ目線だけ向けながらそういった。

パルサーシャは片手に王子からの手紙を持って手綱を引いていた。


「あぁ、あと少しで騎士団のテントに着くよ。久しぶりだねぇ、リュナ坊の部下を見るのわ」


パルサーシャがそう言って前を指差した。リュナミスはそのほうを目を凝らしてみた。遠くに白いテントのような物が3つほど見えた。


「あそこか」


二人は歩ける距離まで馬で走ると、木に手綱をつなげテントのほうへと歩いていく。

テントの入り口では沢山の騎士と兵士達が訓練をしているところだった。

二人は邪魔をしないように横を通り過ぎようとしたが、


「あっ」


兵士の一人に気づかれてしまった。


「おーい、皆!!副隊長が戻ってきたぞー!!!」


そこからが大変だった。

王子のいるテントに向かおうと歩き出すたびに兵士達が群がり、


「副隊長!お帰りなさい!」


「村、どうでしたか?変わってなかったですか?」


「副隊長の住んでる村って初めて行くんです!!それで聞きたいことが」


「副隊長!かわいい女の子っていますか!?できれば独身がいいんですが!」


「カミィラちゃん置いてきたんですか、残念だなぁ」


「カミィラちゃんをお嫁にください!!」


と色々と質問を投げかけてくるのだ。答えられる限り答えるが、女関係は「知るか」と言ってやり過ごし、カミィラ関係の質問をしてきた奴には睨むか頭に拳で一発殴る。


妹は誰にもやらん。


こう言うと以前「妹馬鹿だー」とか「シスコンだ!」とか最終的には「副隊長ってロリコンなんですね~」と言われたため、その言葉だけは胸にしまっておく。

その時は怒りで隊の半分以上の兵士を素手でボコボコにしてしまい、怪我を負わせてしまいその後の任務に支障がでてしまったため、自分でも少し反省しているのだ。



パルサーシャもリュナミスと同じ様に兵士達からの質問に答えていた。

パルサーシャはここの兵士達と、とても仲がいいのだ。ここの隊の兵士達と騎士達は大体が10代から30代で、青年が多い。3人ほど回復役として女性魔術師がいるが、それ以外は全て男達だけだ。パルサーシャは「リュナミスがお世話になってるんだから…」と昔から物資を自分で送り届けてくれる。男達には特に優しいパルサーシャは隊の人気者だった。


「パルサーシャさん、少し聞いてもいいですか?」


「ん、なんだい?」


兵士の一人に引き止められたパルサーシャは、真剣な表情で何故かこちらを見てくる兵士に子供のような好奇心溢れる目で見つめていた。


(……嫌な予感がする)


「あの、パルサーシャさん。実は副隊長の事で質問が」


「わかった。で、なんだい?」


「副隊長って女性が嫌い…というより苦手じゃないですか」


その言葉に周りの兵士達がうんうんと頷いた。

本人もそれにため息を出した。女性は昔のことがあって、今では任務じゃない限り触る事ができないのである。家族であるパルサーシャとカミィラを除いて。


「うん、そうだねぇ」


「あの、パルサーシャさんから見てですけど…副隊長って結婚できるんですかね」



女装趣味を持ってるお前に心配されたくない



その兵士にそう言いたかったが、リュナミスの周りを囲っている兵士達が次々と質問を言ってきたのでそちらを対応した。

パルサーシャはニマニマと嬉しそうに笑うと、その兵士に言った。


「レイカちゃんに一目惚れしちゃったからねぇ、できるんじゃないかねぇ」



リュナミスはパルサーシャの言葉に勢いよく口から噴出した。



「ちょっ、大丈夫ですか!?顔、ものすごく赤いですよ!?」


いきなり噴出して、咳き込んでいるリュナミスに兵士達は驚き心配して声をかけてきた。リュナミスはそれを手で「平気だ」と伝え、心を落ち着かせる。


「げふっ、ごほっごほっ……いきなり何を言ってるんだ!!」


顔を真っ赤にしてパルサーシャに向けて叫んだリュナミスを見ながら、満面の笑みでリュナミスを無視して、彼女は話を続けた。


「だってねぇ、あたい達以外は普段触れないはずなのにあの子には普通に触れるんだよ?それに、あの子と話してる時、いつもは無愛想なあのリュナ坊が微かだけど笑ってるんだよ。リュナ坊自身は気づいてないだろうけどねぇ。バレバレなんだよねぇ」


「へぇ~」


リュナミスは微かに口を開けたまま、思考を停止した。

パルサーシャはさらに追い討ちをかける。


「それに、昨日の夕方ごろだったかねぇ。「あの子が消えた!」ってカミィラが言った途端そこの子はね、今まで見たことがないような真剣な顔で家を飛び出したんだよ。あの時は面白かったねぇー。飛び出したまでは良かったけど、レイカが花畑で子供達に囲まれて眠ってるのを見てね、こう言ったんだよ」


いつの間にかパルサーシャの周りに沢山の兵士達が取り囲んでいた。兵士達は興味津々で「なんて言ったんですか?」と何回も問いかけた。

リュナミスはハッとして話そうとしているパルサーシャを止めようとしたが、遅かった。




「小さい声だったけど少し笑いながら『かわいいな』って言ったのよ。リュナ坊って昔から女性を褒めるなんて仕事ぐらいでしかなかったはずでしょう?」




「…そういえば、そうですね。結構付き合い長いですけど、仕事以外で副隊長が女性を褒めてるの見たことないですね」


その言葉に周りの兵士達も「俺も見たことないな~」「僕も」「俺も~」と賛同した。



「だろう?カミィラも今まで初めてリュナ坊が女性を褒めてる所を見て、驚いてたよ。カミィラも言われた事が無かったらしいよ。それでわかったんだよ。『あぁ、惚れてるんだな』ってね。あたいから見ても綺麗な子でかわいいのよねぇ。優しいし面倒見もいいし、スタイルもいいし家事は全部できるって言ってたわねぇ」



その言葉に兵士達は「おぉ~!!」と声を上げた。

ある兵士が手を上げて「もっと詳しく教えてください!!」と大声で言ったので彼女は零香の事を自分が知っている限り、話すことにした。


リュナミスの反応が面白いからという理由だけで。



「レイカはねぇ、男性も女性も魅了するような容姿を持ってるんだよ。例えるなら清楚なお姫様っていう感じさ。だけどただのお姫様じゃない。ちゃんと自分でできることはきちんと最後までやらないと気がすまないっていう、自分から行動するお姫様だね。意思も強いし、なにより実力がある。リュナ坊の剣を簡単に受け止めるほどにね、それも燭台で」



兵士達は驚いた。



「簡単にって…副隊長は王と王子の次に実力が高い人ですよ!?力も強いし、魔法も使える。国一番有能な人で、国一番変わってる人で、ロリコンなのに」



おい、今聞き捨てならん事を言ったぞ。他に人がいなかったら斬り捨ててやろうかと思ったぞ



「ははは、それは実際あの子に会って見たらいいんじゃないかい?どうせあんた達、家に泊まる事になってるんだろう?」



パルサーシャたちが住んでいる家は実は部屋が沢山あり、そこの部屋を使って宿屋を経営しているのだ。一部屋4人泊まるという計算で考えると、ざっと200人は泊まることができる。もし、それ以上の客が来た場合には隣の空き家を借りているのでそこに泊まってもらう事になっているのだ。

今回は王子の警備だけなので大体兵士が40人、騎士が5人、女性魔術師1人、王子とその執事ぐらいしかいない。

わざわざ村の近くでテントを張って泊まるぐらいなら、宿に来てもらったほうが王子の警護がしやすいだろうというリュナミスの提案だった。



「あの子身寄りがなくてね、一緒に暮らしてるんだよ。今日の夜、家の前で皆を出迎えてくれるって言ってたねぇ。カミィラも一緒に」



その言葉にすぐさま兵士達は大忙しになった。

旅をしていると毎日風呂に入れない。今回も王都から2週間かけてゆっくりと他の村を訪問しながら歩いてきたのだ。もちろん服はものすごく汗臭い。

男達全員、女性魔術師に頼んで大量の水を出してもらい体と服を懸命に洗い始めた。


慌しくテントを行き帰りしている兵士達を見ながら、リュナミスはため息をついた。

パルサーシャはニヤニヤと楽しそうに笑いながら、兵士達を見ていた。


「そういえば気になったんですけど、その…レイカ?っていう子。何歳ですか?」


まだ知りたい事があるのか、質問をしてきた女装が趣味の兵士がパルサーシャにまた質問をした。パルサーシャはその兵士を見ず、まだ走り回る兵士達を見ながら答えた。




「ん?あぁ、そういえば言ってなかったねぇ。あの子、今15歳らしいよ。カミィラと2つ違い。だけど、見た目も性格も大人って感じだね」




ピタリと兵士達がその場で停止した。

そして、皆満面の笑みでパルサーシャの傍に来ると


「「「「一週間、よろしくお願いします!!!!!」」」」


全員そろって頭を下げた。


リュナミスは呆れて言葉が出ないのと同時に


兵士達の練習メニューを4倍にする事を決めた




(さっさと帰ってアレを渡すか…)



リュナミスは馬の背に載せた荷物を少し見て、もう一回ため息をつくとまだ遊び足りない様子のパルサーシャを引き摺りながら王子のいるテントの中へと入っていった。








次のお話は完全にシリアスにしようと思います。

あっ、でも最後にギャグを少し入れるかも……


女装好きの兵士の案を出したのは兄ですw


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