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Dolls  作者: 夕凪秋香
第1章 クロッカス村
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クロッカス村2-2

朝御飯を食べた零香は、昨日考えていた事を実行するため、自分の私服を3着と今朝手に入った4つの石を持って、家を出た。エリミアもエルドの入った袋を持ってついて来る。彼女と同じぐらいの大きさの袋を軽々と片手で持ち上げて歩く姿に、愛らしさから零香は少しだけ癒された。

二人は村の広場を抜け、目的の場所へと向かう。

昨日零香が見つけた、可愛らしい看板のお店が最初の目的地だ。

丁度よく、店の中から女の人が出てきて看板の位置を直していた。キャラメル色の髪を一つに結んで、背伸びをしながら看板を直しているのを遠くから二人は眺めていた。

傾いていた看板の位置をようやく直した女性は、こちらに気づくと優しく微笑んで声をかけてくれた。


「もしかしてお客さんかしら?」


ゆったりと話しかけてきた女性に二人は返事の代わりに頷いた。

女性は店の扉を開いて「どうぞ、お入りください」と言ってまた微笑んだ。零香とエリミアは礼をしながら、店の中へと入っていった。以外に店の中は広く、中には沢山の変わったデザインの女性物の服や男性物の服、小さい子供が着るような服のほかにも色々な小物や雑貨品が置いてあった。


「ごめんなさいね、お待たせしちゃったみたいで」


「いえ、そんなに待ってませんから」


女性は扉を閉めながら、零香達の横を通り抜けカウンターを挿んで話しかけてきた。


「少し品揃え悪いけど、ゆっくり見ていってね」


「はい、わかりました」


零香はカウンターに荷物を置くと、エリミアを腕に抱えて店の中を見て回った。

奇抜なデザインのドレスや色々な角度から見ると色を変えるビンを見たり、髪につけると色が変わる髪飾りを着けてみたり、装飾が沢山施されているのに羽の様に軽い衣装を着てみたりと零香は違う世界の文化に興味津々だった。

零香はここに来た目的を忘れて、心から楽しんだ。

30分ほど店の中を見て回ると、零香は満足してカウンターで本を読んでいた女性に声をかける。


「あの、すいません」


女性は零香の声に本を閉じてカウンターの上に置くとまた微笑む。


「ほしい物決まった?」


「あっ、それもあるんですけど少し聞きたいことがあって」


「何?」


「買取とか…できますか?」


「えぇ、服に関係している物なら大丈夫よ」


零香はそれを聞いて、カウンターに置いていた服を女性の目の前で広げた。エリミアもそれを手伝う。

女性は服を見るなり、すぐに手にとって伸ばしたり全体を確認した。


「この3着を買取してもらいたいんです」


女性は3着を丁寧に確認すると、綺麗に畳んでカウンターに置いた。


「生地も頑丈だし、保温性も高そうね…全部買い取れるわ」


女性はカウンターの下から小箱を取り出すと中から白い小さな袋を4つ取り出した。


「とてもいい物だから、3着合わせて800エルドでいいかしら?この袋に200エルドずつ入ってるわ」


予想外の金額に零香は驚いた。女性は「これじゃあ、ご不満だったかしら」と言ってもう一つ袋を取り出そうとしたが、零香は「いえ!もう、十分です。多すぎるぐらいです」と言って断った。

零香は大体1着50~100エルドぐらいで予想して余裕を持って3着しか持ってこなかったのだが、予想外の買い取り価格の高さに驚いた。


「こんなに貰っていいんでしょうか…」


「いいのよ、私も珍しい服を見ることが出来て少し嬉しかったわ。それに昨日のお礼をさせて?」


「?私達初対面ですよね、お礼って…」


その言葉に女性は少しだけ驚いた表情になって手を頬に当てた。


「あら、あの子ったら紹介してないのね」


そういうと女性は立ち上がり、零香に軽く会釈すると


「初めまして、私はリックの母親のアミュエル・トーニャ。昨日は息子と遊んでくれたそうで…ありがとうね」


そう言って笑みを浮かべた。

零香は昨日会ったリックと今目の前にいるアミュエルの顔を頭の中で見比べてみた。考えてみると、リックの瞳は彼女と同じ青色で彼女の大人しそうな面影がリックにあるのがわかった。

零香は彼女がリックの母親である事に納得したが、その名前に聞き覚えのある単語があることに気が付いた。

エリミアも気づいたらしく、彼女が質問をした。


「もしかして、貴方はアラトエル・トーニャさんの奥さんでしょうか」


「えぇ、そうよ」


「じゃあ、ここは…アミュエルさんとアラトエルさんのお店なんですか?」


アミュエルは奥にある扉を指差して


「裏がアラトの店兼工房。少し場所があればいいからって、狭いほうの部屋を使ってるわ。私は余った部屋の壁を壊してもらって、趣味でこの店をやってるの。家は別だけどね」


と説明をしてくれた。


「今ならお客さん誰もいないと思うから、ゆっくりと選べると思うよ」


「普段は沢山女性のお客さんが来てうるさいのよねぇ…」とため息を付きながら、彼女はカウンターに置いていた小箱と零香の持ってきた服を下に置いた。

少しエルドを受け取る事に戸惑っている零香にニコリと微笑みながら、アミュエルは零香の手のひらにエルドの入った袋を乗せた。


「私達はいつも仕事であの子と遊んであげられないから……仲良くしてあげてね」


「…はい」


零香は頭を少し下げたまま袋を握り締めると、今さっき店の中で見つけた物を持ってきてカウンターに置いた。買おうか悩んでいた物だったのだが金銭的に余裕が出来たので買うことに決めた。零香が持ってきたのは、少し分厚い生地で作られたベージュ色のフード付きコートと二つの赤いリボンだった。


「これ、買います」


「もう使うの?アラトの方で使うのかと思ってたんだけど」


「お金はまだ十分あるはずですから」


少し自信なさげに答える零香にアミュエルは苦笑しながら「全部で240エルドね」と答えた。零香は握っていた袋を一つ置いて、エリミアが40エルド置いた。アミュエルはエルドをきちんと数えると「確かに」と言ってコートとリボンを零香に渡した。

零香は渡されたコートを腕にかけ、リボンを持つとエルドをまとめて腕に抱えているエリミアを腕に抱えた。エリミアは大人しく零香の体に寄りかかった。


「それじゃあ、今日はこれで失礼します」


「今度は家の方にも来て頂戴。歓迎するわ」


そう言って手を振るアミュエルに零香は礼をして外に出た。

そのままアラトエルの店に行こうかと思ったが、その前にやる事があるのを思い出した。


「エリミア、ちょっと降りてくれる?」


零香が腕を地面に下ろしながら言うと、エリミアは不思議そうな顔で見つめてきた。

零香はエリミアの背中に回るとその金髪を二つに分けて、買ったばかりの赤いリボンでツインテールに結んだ。エリミアは驚いた表情で自分の髪を持ちながら振り向いた。


「エリミアに似合うかなって思って買ったんだ。かわいいよ」


笑顔でそういうと、エリミアは少し照れながら「…ありがとう、ございます…」と小さな声で呟いた。心がキュンッとした。零香はエリミアにコートを保管してもらうと、また腕に抱えて歩き始めた。時々横を過ぎていく村の人や子供達に挨拶をしながら、零香達は村の中を色々と歩き回った。途中お腹が空いたから色々な食べ物を売っている店で4つほど小振りのパンを買って二人で食べた。

村の中を歩いて観察してよくわかったことがある。


女性が数人しかいない。


そして、やけにイケメンな人や美女が多い。



「……どこかの本とかゲームの世界ですか…?」


零香は小さな声でポツリと呟いた。


零香は昔から変わり者の親友に色々な物を教えてもらっていて、なんとなくそう思った。

その親友はよく家にゲームを持ってきて一緒にやったり、内容が大人向けの本を持ってきてそれを無理やり目の前で音読し始めたりする人だった。

ある時は泊りがけで零香に無理やりホラーゲームを暗闇でやらせて、本人は布団の中で震えながら見て朝まで過ごしたり、ある時は俗に言うBL本やGL本を持って家に押しかけてきてその本の事について語ったりと少し迷惑だった。


だけど、彼女と過ごす時間はとても楽しかった。


変な知識を植えつけられていた様な気もしたが少し面倒だなと思った事もあるが、彼女が楽しそうに話している姿は零香にとってとても眩しく見えた。

彼女の兄と妹が親の車で迎えに来るたびに、彼女の事を羨ましく思った。


自分が昔に失った「家族」と幸せそうに話す彼女を見るのが少し怖かった。







同じように彼女から幸せを奪ってしまうのか、自分の存在が怖かった。








「…おねぇちゃん!」


自分の名前を呼ぶ声に零香はハッとなると軽く頭を振って、自分を呼んだ子供に手を振る。

この子供は昨日零香の近くに座っていた一番齢の低い男の子だった。その子はパァッと顔を明るくして大きく手を振り返した。その子の横には親だと思う男性が軽く会釈をしながら微笑んでいた。零香も慌てて会釈を返し、微笑んだ。


何故か周りの音が途絶えた。


歩く音や話す声がピタリと止んだ。



「……えっ?」


零香は驚いて周りを見渡す。皆、ある方向に視線を向けていた。零香は同じように視線の先を辿って見ると、遠くから馬に乗って数人の男が来るのがわかった。

もう一度村人のほうを見ると、皆怯えたような目を男達に向けていた。


「……誰……?」


「そこの人!早く隠れなさい!!」


目の前の男性からいきなり悲鳴に近い声で呼ばれた零香は戸惑い思わず体を硬直させてしまった。腕の中にいたエリミアが何度呼びかけても自分では動こうとしているのに、足が動かない。


「騎士様やパルさんがいない時に来るなんて!!早く、見つかってしまうわ!」


「あっ…」


混乱するばかりで何がなにやらわからない零香は女性に引き摺られるようにして家の影に隠れた。他の人たちも店の中に逃げ込んだり家に戻った。数分後には村人たちは広場からいなくなった。


「…あの、これはどういう…」


「しっ。気づかれるから喋らないで」


そういわれて零香は口を手で塞ぎながら、広場のほうに顔を出した。


広場にいたのは数人の男と小さい男の子。男達は零香と同い年ぐらいに見えた。

男達は馬に乗り綺麗な服を着て腰に豪華な装飾品のついた剣をつけているのに対して、男の子はぼろぼろの衣服を纏い体はやせ細っていた。

その首には茶色い首輪のような物が見えた。


「あいつらはここの領主様の息子とその友人達とかわいそうな奴隷。領主様はとても優しい人なのに、あいつらはこの村に来るたびに物を壊していったり何か奪っていくんだ。ある時は妻を目の前で攫われた人もいた。返してもらおうとしてあいつらに逆らおうとするとその場で首を落とされた人もいた……。たぶん今回はあんたの噂を聞いて来たんだろう。見つかったらどうなる事か……騎士様がいればあいつらは来ないのに……」


そう言ってお守りのような物を手で握りながら、悲しそうでそして悔しそうな表情を浮かべた女性を見ていた時、突然ドサッという音が聞こえた。

続いて聞こえてきたのは男性の怒声だった。

顔を広場に戻すと、男達の内3人が倒れた男の子の周りを囲んでいた。


「おいっ!いきなり倒れるんじゃねぇよ!!」


男の内一人がそう言いながら男の子の体を踏みつける。男の子は直に受け、口から軽く血を出しながら震えていた。その光景に思わず腕の中のエリミアをきつく抱きしめた。目を背けようとしたが何故か目が離せなくなっていた。


「…もうし、わけあ、りません…」


か細い声で謝りながら立ち上がりかけた男の子に男が蹴りを入れ、男の子の体が飛ばされた。零香は思わず小さな声で悲鳴を上げた。


(ひどい……っ)


「ちっ、使えないやつが」


「おい、そろそろあの女探そうぜ」


「あぁ、そうだな」


男達は馬に戻ると男の子を放置して村の奥の方へと馬の向きを変えた。村の奥にはパルサーシャ達の家がある。そして、今その家にはカミィラしか残っていない。他の二人は「近くまで来ている王子を迎えに行く」と言って朝御飯の後出かけていったのだ。


「カミィラちゃんが危ないよ!あいつらあんたがカミィラちゃんの家にいるっていう事を知ってるんだ」


隣の家の裏に隠れていた村人がそう叫んだ。


「なんでっ」


「子供達さ。子供達があんたがあの家から降りてきたって大声で言っていたんだ。その時ちょうどあいつらのうち一人が村の近くに来ていたんだ!!俺は見たぞ!」


零香は恐怖を感じた。だけど、恐怖より先に体が動いていた。


「あんた!今行ったら危ないよ!」


そう言ってきた女性を振り切り、零香は広場に出た。広場から男達の姿が遠目でわかる。


「エリミア、あの子をお願い」


「零香はどうするのですか!?」


エリミアを地面に下ろしながら、零香はそういうとすぐに男達を追いかけた。エリミアに後ろから名前を呼ばれたが、それどころではなかった。零香は途中で店先に置いてあった丁度いい太さの棒を掴んで走った。ある程度の距離で止まり、体が隠せるところにサッと移動して家のほうを見る。


「あの女はどこだ!!さっさと言え」


「そんな女の人なんてこの家にはいません。どうぞお帰りください」


カミィラは家の前で手を震わせながら、だが表情だけは凛として男達と向き合っていた。男達は一人を除いて馬から下りていて、今さっき男の子を蹴った男がカミィラの首に剣先を当てていた。


「俺は知ってんだよ!この家に黒い髪の女が住み始めたってな!!」


「だから、そんな人はこの家にはいません。さっさと帰って」


「いい度胸だな…隠し立てするなら容赦しねぇぞ!!」


そう言って男が剣を上に振り上げた。零香は物陰から出てその男の頭に向かって持っていた棒を投げた。棒は見事に男の後ろ頭に当たり、男は剣を手から落としそのまま倒れた。


「誰だ!!」


一斉にこちらを向いてきた男達は剣を抜いて臨戦態勢をとっていた。零香は恐怖より怒りを覚え、男達に向かって冷たい声で話しかけた。


「貴方達が探していた人です」


「レイカ…なんで?」


目に涙を浮かべながら震えているカミィラに零香は「もう大丈夫だからね」と優しく声をかけ、男達に近づいた。


「私に用があるんでしょう?」


零香はカミィラに剣を向けていた男の目の前で止まり、笑みを浮かべた。

その笑みは男達を魅了するには十分すぎたようで、男達はそのままの体勢で目だけは零香を見つめていた。零香は右手に拳を作り笑みを深めた。


「その前に一発殴らせてくださいね」


「はっ?」


返事を聞く前に零香は右足を後ろに下げ、勢いよく目の前の男の鳩尾に拳をめり込ませた。

男はその拳を受け止めれず、家の壁に背中をぶつけズルズルと座り込んだ。


「カミィラに剣を向けたお礼と村の人たちの分を、お返しします」


零香は手を払いながら、カミィラを背で守るようにして男達を睨みつけた。



カミィラは零香の背中を見つめながら心の中で思った。


普段大人しい人を怒らせたら怖い…と。








零香は普通の人より筋力はあるほうです(わずかですが)


色々と本を読んで見よう見まねで護身術も覚えています


前回のお話でリュナミスの剣を受け止められたのはこれのおかげです


その代わりに体力は少ないです。



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