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Dolls  作者: 夕凪秋香
第1章 クロッカス村
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クロッカス村1-4







それから10分後……


「はぁっ、はぁっ……つ、疲れた」


ずっと胸を揉まれ続けて汗だくと涙目になっている零香に対して、パルサーシャは「ごめん、ごめん。ちょいとやりすぎたねぇ」と言って手を差し出してきた。零香はその手を掴んで立ち上がると、涙目のままパルサーシャをじっと見つめた。パルサーシャはそれを無視して慌てて零香をつれて、元の部屋に戻った。戻る前に零香はリュナミスから借りていた上着を羽織る。元の部屋に戻ると、机の前に座っていたカミィラが


「遅いよ、二人共~。シチュー温めなおしたから、早く食べよ~」


と言ってきたので二人そろって謝った。そして、パルサーシャはカミィラの隣に座り、零香は何故か顔が真っ赤なリュナミスの隣に座った。エリミアは机の上に座っている。

それぞれの目の前には白い深めのさらにシチューが入っていた。皆が座ったのを確認したカミィラは「それじゃあ、どうぞ。頂いてください」と言った。すると、零香以外の4人はそのまま食べ始めた。零香も「いただきます」と手を合わせて、スプーンで一口シチューを食べる。


「……おいしい」


零香の料理の感想に、カミィラは満足そうな笑顔を見せた。パルサーシャはシチューを食べながらいろいろな事を話し始めた。


「カミィラは料理だけは得意だからね、これ以外は駄目駄目だよ」


「ちょっ、パルおばさん。それ内緒って約束だったのに」


「昔は料理も駄目でねぇ、こんなにおいしい物が作れるようになったのも最近なんだよ」


「しょうがないじゃない、パルおばさんなかなか料理教えてくれないんだもの」


「教えようって思ったときに限っていないんだから、しょうがないだろう?」


「む~…まぁ、それはしょうがないけど…」


「いつも家にいてくれたら助かるのに、仕事でいなくなるじゃないかい」


「それはパルおばさんにも言えるんだけど」


会話の内容についていけない零香はただ苦笑いをするだけだった。



皆がシチューを食べ終えたとき、カミィラはみんなの皿をまとめて「ちょっと外の川で洗ってくるね」と言って鍋などを持って裏口から出て行った。他の4人はお茶を飲みながらこれからの事について話し合うことになった。


「さてと、これからあんたの事についてなんだけど…」


「はい」


「あんた、できる事を言ってみておくれ」


「えっと、炊事、洗濯、掃除、裁縫や手先を良く使う仕事は得意です」


「ふむふむ、なるほどね……昼間のあれもあるし…よし、決まりだねぇ」


「決まり?」


「あぁ、あんたの事を保護してあげるよ」


「本当ですか!?「ただし」 


そう言ってパルサーシャが机の下から取り出したのは、小さな袋と小さな剣だった。零香の前に置くとパルサーシャは真剣な顔で言った。


「3つ条件を出すよ。それを守ってくれるなら、あたいは満足さ。まず一つ目」


パルサーシャは袋の中から小さな金色のコインを取り出した。


「これはこの国のお金さ、名前はエルド。これ一枚で1エルドだ。理解したかい?」


零香は短く頷いた。


「1エルドでパンが1つ買える。あんた、このクロッカス村でこのエルドを貯めて、ある物を3日以内にある人物から買って、あたいに見せな。エルドを得るための手段は選ばないよ」


「その、ある物とある人物って?」


「この村の特産品、アクゥのネックレスさ。デザインとかは気にしないで、好きなもんを選んでおいで。アクゥっていうのは、この村で取れる宝石をまとめて言った名前なんだ。で、その宝石を装飾品に加工して売っているのが…」


「リックの父親で、俺の幼馴染のアラトエル・トーニャだ」


「えっと、あのちなみに一つ何エルドですか?」


「そうだねぇ……」


パルサーシャは小さな袋から何枚もエルドを出してきた。


「普通のサイズの物だと大体、150エルドだよ。宝石が大きいほど、値段も価値も上がってくる。150エルドあると……そうだねぇ、あんたの着ている服が2着ぐらい買えるかな?少しお釣りが出るかもしれないけどね」


「なるほど」


「わかったかい?わかったら、次にいくよ」


零香は短く頷いた。


「それじゃあ、二つ目の条件はこの剣を、この村の外れにある洞窟の中の台座に挿してきてほしいんだよ」


そう言ってパルサーシャは剣を零香に投げた。零香はそれを上手に取ると、指で刀身をなぞってみた。ほのかに温かい。


「それはね、この村の守り神が宿ってる剣なのさ。まぁ、本当なのか気になって色んな学者とか鍛冶屋に見せてみたけど、ただの剣って言ってたからね。さっさと戻しておきたいのさ」


零香は剣を触りながら、小さい声で「これが、ただの剣?」と呟いた。パルサーシャはそれを聞き逃さなかった。


「あんた、それがただの剣じゃないって言うのかい?」


零香は独り言が聞かれていた事に驚いて、すごく小さい声で「はい」とだけ答えた。パルサーシャは何か難しい事を考えている顔になっていた。そして、そのままの顔で話を続ける。


「もしかして、あんた。この村で色々な色の球が飛んでるの、見た事あるかい?」


「はい、昼間見ました」


パルサーシャは納得したような顔になって、どこで見たのか訊ねてきた。零香は昼間の事を(歌った事や踊っていた事を除いて)話し、剣とそれがどういう関係があるのかきいてみた。リュナミスの視線が何故か痛かった。


「あんたが見たのはね、精霊って言われてる物さ。この世界を作った神様の代理人って言われてて、魔力の源でもあるのさ。あんたが見たのは一番下の下級精霊だけど、その他にも上級精霊とか、神様が一番最初に世界に送り込んだ始祖精霊達とかがいるわけさ。色々な精霊がいるおかげで、色々な魔法が使える。で、その剣には守り神として、何か精霊が宿ってるって言われてるのさ」


「だから、この剣は温かいんですか?」


「それはあんたにしか分からないよ。あたい達はそれを触っても、ただの冷たい剣でしかないんだからね」


「それは、なんでですか?」


「そりゃあ、精霊を触ったり見る事が出来る人ってのは少ないんだよ」


パルサーシャはリュナミスを指差して、「魔法を使えるのに、見えない例」と言った。

零香は目を丸くして、リュナミスを見つめた。リュナミスはその視線に耐えられなくなったのか、お茶をすすりながら目を背けた。パルサーシャはまた笑みを浮かべる。


「くふふ、まぁ精霊に好かれていないと、魔法は使えても見えない人とか魔法は使えないのに見える人とか、一番ひどいのは使えないし見えないって人さ。個人差が激しいのよ」


「…なるほど」


「あんたは、魔法も使えるし精霊も見る事ができるし、触る事もできる。で、いろんなことができる。昼間のあれもあるし………いいこと思いついた」


パルサーシャはまるでおもちゃを見つけた子供のようなあどけない笑みを浮かべた。その顔の意味に気づいたリュナミスは、ため息をついて片手で顔を隠していた。零香はその笑みに気づかず、ずっと剣を触ったり振ってみたりしていた。


「三つ目の条件はここに世話になってる間の食事を作るってやつだったけど、変更!あんた、一週間後の祭りで精霊の踊り子をやんなさい」





「………はい?」





零香はパルサーシャが何を言ったのか意味が分からず、思わず剣を手から落としてしまった。剣は床に突き刺さる前に、エリミアがキャッチした。零香は慌てて剣をエリミアから受け取り、机の上に置いた。


「大丈夫ですか、マスター」


無表情だが、心配している様子のエリミアに「大丈夫」とだけ答えておく。

その前に、変更前の「お世話になっている間の食事を作る」はなんとなく理由は分かる。

なぜなら、帰ってきたときは別のことが気になってそっちに意識を向けていたが、カミィラのかき混ぜていた鍋の横にジャガイモのような物が、皮に実が大量に残ったまま無残な形でカゴの中に入っていたのを思い出したから。それも数十個は剥いたような皮の量だった。

でも、シチューはカミィラとエリミアがおかわりしたのも数えると、8人前ぐらいしかなかったはず……。ジャガイモのような物は少し小さいかなってぐらいだったし。


カミィラは料理ベタだというのがまるわかりだった。


だけど、変更した後の条件の方は意味がわからなかった。

踊り子なんて、自分よりもっと綺麗な人がするべきだ。

そもそも


「精霊の踊り子ってなんですか?」


パルサーシャは外を指差しながら、わかりやすく説明をし始めた。


「精霊の踊り子って言うのは、年に二度、それぞれの町とか村でこの世界の神様と精霊達に祈りを捧げるんだけど、数人の女達が代表して祈りの代わりに踊りを捧げるのさ。まぁ、実際はただのお祭りさ。皆で飲み食いして、わいわい騒ぐ。だけど、神様と精霊には感謝するんだよ、悪人でもね」


「なるほど」


「で、年で二度ある祭りの一回目が一週間後の今日、この国一斉に行われるのさ。今年は王子がこの村に来るらしいからねぇ、女達は気合を入れて準備してるよ」


「ふむふむ」


「で、ちょうどいいから、あんたも参加しな」


「出来れば、お断りします」


きっぱりと断った零香にパルサーシャはキョトンとした顔になっていた。零香は「あんまり目立ちたくないですし、私綺麗じゃないし、正直見てるほうがいいです」と早口でしゃべった。だが、パルサーシャは大きなため息をついた。


「あんたねぇ、子供達のおかげであんたの事を知らない人は、この村には誰もいないんだよ。昼間の事、子供達が皆話してたよ。『黒い髪の綺麗なお姉ちゃん』の事をね。この村には黒髪の女なんて、あんたぐらいしかいないよ。いや、国中探してもあんただけさ。それでも目立ってないって言うのかい?」


「それは、大げさなんじゃ…それに、私綺麗じゃないですよ?髪が短いと胸を隠すだけで男に見られた事がありますし」


「あのね…自覚がないのかわかんないけど………いや、これは言わないほうが面白いか」


小さい声でぶつぶつと独り言を言い始めたパルサーシャを無視して、零香はリュナミスに話しかけていた。






「私って、この国だと地味なほうだと思うんですが」


「いや、反対に目立つ。この国で黒髪の女なんて今まで見た事はない」


「なんで、黒髪の方はいないんですか?帰る途中で見た女性は茶色だったし、黒もいてもおかしくないと思うのですが」


「さぁ、な。俺は隣の国にも行ったことがあるが、そこの人たちもどちらかといえば黒じゃなく、青だったしな」


「ん~……変わったところですね、ここって」


「お前が変わってるんだよ」


「そうでしたね、私が変わってるんですよね」


零香はエリミアを抱きしめながら、少しだけ悲しいと思った。

そうだ、この国では自分が変わっているんだ。この世界では、自分だけ違う。


エリミアが手を握ってきたのがわかった。もしかしたら、気持ちがわかってしまったのかもしれない。零香はエリミアの小さな手を握り返した。その手は剣を触ったときと同じく温かかった。


「ありがとう、エリミア」


小さくエリミアにだけ聞こえるように囁いた。エリミアは返事の代わりに微笑み返してくれた。普段は無表情なのに、相手を安心させる時だけ笑ってくれるエリミアに感謝した。


「私は、マスターの傍にずっといます。だから、安心してください」


「うん…本当にありがとう。だけど、マスターって言うのはちょっと止めてほしいな」


エリミアはその言葉に困惑したような表情を見せた。


「ですが、私はマスターによって作り出された人形です。だから、マスターの事をマスターと呼ぶのは普通だと考えるのですが」


「だけど、私はエリミアに名前で呼んでほしいの。マスターって呼ばれるとちょっと…」


エリミアはそれから1分ぐらい考えて、ようやく「零香、でよろしいでしょうか」と言った。本当は敬語もいらなかったけど、それはもっと仲良くなってからでいいだろう。零香は頷いて微笑んだ。エリミアは「気をつけないと、マスターと呼んでしまいますね」と苦笑していた。零香はエリミアの頭をゆっくりと撫でた。


「よしっ、あんた。これを受け取りな」


考え事が終わったのか、パルサーシャは零香の目の前に、エルドの入った小さな袋をさしだした。零香はそれを受け取ると、中身を少しだけ確認する。沢山の金貨が入っていた。


「本当は、最初の条件はある女の子から頼まれたものでねぇ、王都に住んでるんだけど、今度の祭りで最後の精霊の踊り子をやるらしいんだよ。で、その時に好きな男子に告白するっていうもんだから、アクゥのネックレスをプレゼントしようと思ってたんだよ。最初はあの子の分だけだったけど、どうせならあんたもつけて参加しな。あの子の分の150エルドと、お詫びとして100エルド追加で入ってる。後の50エルドは自分で稼いでおくれ」


「あっ、あの、私参加するより見てるほうが…「これはあんたを保護するための条件さ」


「忘れたのかい?」とパルサーシャは零香の前で指を振った。零香は見学するのをあきらめて、参加する事にした。さすがに見知らぬ世界で一人でいたら、何をするかわからないから。


「……わかりました。条件を全てのみます」


「よし、それじゃあ明日からがんばっとくれ!リュナ坊、部屋に案内してあげな」


「いい加減リュナ坊って呼ぶのやめてくれないか?俺はもう21だ」


「あんたは、あたいから見ればまだ坊やだよ。坊やを坊やと呼んで何が悪いのかい?」


「……もういい」


リュナミスはまたため息をついて、二階に続く階段を上っていった。零香も慌ててパルサーシャにお礼を言って、エリミアに剣とエルドの入った袋を預け、リュナミスの後を追った。

エリミアも零香の後について歩く。零香は自分がリュナミスの上着を借りたままだった事を思い出した。


「あの、リュナミスさん」


先を歩いていたリュナミスが部屋の扉の前で止まり、こちらを振り向いた。


「なんだ」


「上着、ありがとうございました。助かりました」


零香は脱いだばかりの上着を綺麗に折りたたんで、リュナミスに渡した。リュナミスはそれを受け取ると、部屋の扉を開けた。


「ここが、お前の部屋だ。向かい側の部屋が俺、その隣がカミィラの部屋だ」


「わかりました」


零香はリュナミスの横を通り、エリミアと共に部屋に入る。そこは今朝の部屋と同じような作りだった。零香はリュナミスに「おやすみなさい」と言って、ゆっくりと扉を閉めた。


「…ふー…今日は色んな事があったな…」


零香はポニーテールを解き、髪の毛を軽く梳く。エリミアはその間に、空間の狭間からカバンを取り出して、寝間着や私服などを机の上に置き始めた。零香はエリミアから寝間着を貰い、手早く着替え、ベットの中に倒れこんだ。エリミアも着替えを終えて、ベットの中に入ってきた。


「…明日から、頑張らないと…」


「無理はしないでくださいね?何か手伝える事があれば、私も手伝います」


「うん、ありがとう。明日は試したい事が沢山あるんだ。エリミアも手伝ってね?」


「はい、喜んで」


そういうと、エリミアはシーツを零香の体にかけ、自分も中に入った。

零香は明日やることを考えながら、目を閉じた。


疲れがたまっていたのか、すぐに眠りについた零香を見ながら、エリミアは眠る前に小さく呟いた。





「……お休みなさい、お姉ちゃん」






評価&お気に入り登録、ありがとうございます

とても嬉しいです

早く続きの話が書けるよう、頑張ります

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