入隊式
お久しぶりです。これから不定期ではありますが更新を再開しようと思います。
久しぶりなのでまだ調子は出ませんが、以前のペースに戻せるよう頑張ります。
試験が終わって数日後、私は悩んでいた。いや、今日も悩んでいた。
あの後、私とシュラはそのまま部屋に戻り風呂に入った。その間にエリミアとクオがドラゴンの引渡しをしたのだけど・・・まさか4匹とも倒してくるとは思っていなかったエリク様は王様と急遽会議を行ったらしい。
詳しい内容は知らない。ただ、私達が関わっていることだけは知っている。
そして会議の結果、私に渡されたのは入隊試験の合格通知とドラゴンを倒した事で手に入った報酬。
この報酬の額が私のここ数日間の悩みの元凶なのだ。もちろんあのメモも悩んでいるんだが、目の前にある問題が先だ。
私達が倒したドラゴン。実は国から膨大な賞金が掛けられていたのだ。いわゆるレアモンスター。
鱗からは火の耐性を兼ね揃えた鎧や鋭い切れ味と強度な硬さを誇る剣が作成でき、肉は美味な珍味として貴重な食材として認定されている。
爪はアクセサリーや武器の作成に使われ、羽根はマントや服などが作れるらしい。
1体倒しただけでも国庫が潤うほどの利益を生み出すドラゴンを4体倒してきた私達には多額の報酬が支払われた。
まず、私 (ほとんどはクオ) が壊した部屋の修理代などは返済した。エリク様に借りていた食事代も返済した。
そして残った金額を数えてみると、4252000エルド。ちなみに食事代は1000エルド借りていた。つまり元々は4610000エルドあったという事だ。
大体1匹につき、1152500エルドという計算になる。ちなみに物価は王都ではパン1個につき100エルドぐらいだ。日本円で考えると1エルド=1円という風に考えた方がいいかもしれない。
日本円で考えるとほぼ文無しからいきなり400万円相当の報酬を頂いたという事になる。
あれぇーなんでだろう。嬉しいはずなのに素直に喜べない私が居る。
これ、絶対噂とかで広まってますよね。いや、絶対に広がっている。だって
「あしゅりーど♪おかねいっぱいになったね!ごはんおいしいの、いっぱいたべれるね!」
「これで必要な物が全て揃えられますね。まずは下着。次は私服を・・・10着以上は必要ですね」
「我は良い酒が飲みたいぞ、マスター。皆で祝杯でもしようではないか」
この三人が大声でお金の使い道の計画を立ててるんですもの・・・っ!場所とか関係なくっ!
とりあえず小声でして下さい。本当にお願いします。私は平凡のままでいたいんだ!
とは口に出せず、私は毎回苦笑いで話をスルーするだけしか出来ない。
この状況をどうにか打開できないものかと、私はここ数日ずっと悩んでいるのだ。
ついでにいうと、今日は入隊式が行われる日である。一般の試験を受けて入隊してきた兵士達の中に混じって式に参加する事になったのだ。
もちろんローブの着用の許可は貰っている。エリミアにクオやシュラもドラゴンを倒したという事で試験免除され、式に参加する。
なんか私だけものすごく苦労してる気がするんですけど、気のせいですかね。
朝食を食べ終え、男装に着替え終えた私は机に肘をついて悩んでいると、軽く足を叩かれる。叩かれた方を見てみるとエリミアが私を見ていた。
「零香、もうそろそろ行きませんか?どうやらすでに人が集まり出しているようです」
「そうなの?分かった。それじゃあ行こうかエリミア。クオ、シュラも行こう」
「あい!」「承知」
事前に貰っていた隊のマークが入った白いローブを身に纏い、フードで顔を隠して扉から出る。エリミアはクオの肩に乗っている。
目的地は訓練所だ。そこでそれぞれの隊に入隊する騎士が全員集まることになっている。第二隊には私達だけが入隊予定だ。
廊下を進み、食堂を過ぎてようやく訓練場まで辿り着くとそこには大勢の白い隊服を身につけた人達が居た。どうやら私たちで最後だったらしい。扉を開けた瞬間、全員がこちらを振り向いてきて驚いて身が竦んだ。
落ち着いてゆっくりと前へ進みつつ周りを見回してみると、大半は男性が多いのが分かった。ちらほらと女性の姿も見えたけど、女性のほとんどは魔術師の証とも言えるローブを纏っていた。
それにしても、特に目立つのはその髪色。皆カラフルだ。目が痛くなるぐらいにカラフルだ。
訓練場の大体中央辺りに立つとよくわかるが、周りは黄色や赤やピンク、オレンジや緑色などなど様々な髪色の人が立っていて、それぞれグループを作って話をしている。話を聞いていると、大抵の人が同じ隊になった人と話しているようだ。
大体の人が10代から20代前半ぐらいだろうか。顔つきも体つきもバラバラだ。
どうしてこの中で自分の隊と同じ人を見分ける事ができるんだろうと不思議に思いながら、足にしがみついてきたシュラを撫でつつ、じっと時が来るのを待った。
数分経っただろうか。訓練場の扉を開いて、王様とエリク様が現れた。後ろにはミケルさんやリュナミスもいた。
彼らが通る道を自然と開けて、通り過ぎていくのを頭を下げて待ち、彼らの方を向く。
威圧的な表情を浮かべる王様は、本当に王様みたいでカッコよかった。本当に王様なんだけど、素の性格を知っていると違和感しかない。エリク様はさらに王子としての風格が増している気がする。
全員の前に立った彼らはこちらに振り返る。そして、王様が響き渡る声で話し始めた。
「皆の者、よくぞ我がリュクシア王国の騎士として士官してくれた。この国の王として感謝する。試験を乗り越え、この場に立つそなた達はもうすでに我が国の騎士だ。だが、真の騎士ではない」
その言葉にどよめきが起きる。騎士なのに真の騎士じゃない?どういう事なのだろうか。
そんなどよめきを止めるように王様が静かに右手を上げる。それだけでその場全員が口を閉ざし、静かになった。
「皆が驚くのも無理はない。簡単にいうならば、今のお主達は騎士見習いという立ち位置だ。騎士ではあるがまだ騎士ではない状態だ。よって、これより一人ずつ聖樹に騎士の誓いをしてもらう。聖樹に認められた者のみを真の騎士として認めよう」
その言葉に、隣に立っていた茶髪の男が手を上げた。王様はその男を指差しながら「発言を許す」と言うと、男は頭を下げ、ゆっくりと話し始めた。
「一つ疑問に思ったのですが、もし聖樹に認められなかった場合はどうなるのでしょうか」
「その場合は、また試験を受けてもらう事になる。ただ、大抵の者が聖樹に騎士として認められている。心配することはない」
王様のその発言で周りから安堵のため息が聞こえてくる。そのため息を聞いて王様は苦笑した。
「ただし、一つ気をつけて欲しい事がある」
その一言でまた周りが緊迫した空気に変わる。こうたびたび変わられてはめんどくさいのだけど。
「聖樹には女神の意思が宿っている。そして、聖樹に騎士としての誓いをたてた者は女神の加護を得ることができる。だが、その加護の重さに耐え切れず、精神的にも肉体的にも壊れた者は過去に何名も居る。強い精神力を保て。それだけ気をつけて欲しい」
そのまま王様はまた扉へと歩き出し、姿を消した。残された私達の周りでは騎士たちがそれぞれ恐怖に怯えている。
むしろ私としては加護?何それ、聖樹?初めて聞きましたけどな状態で頭の中がぐるぐると混乱していたから、恐怖なんて感じていなかった。
「それではこれより入隊式を行う。聖樹の下へ魔法陣で一人ずつ転送させます。エリミア、助力頼めますか?」
エリク様のその言葉に驚いていると、エリミアはクオの肩から跳んでエリク様の前に立った。
いつの間にそんな約束をしていたんだろうと思っていると、エリク様が彼女を肩に乗せて何か呪文を唱えている。すると一瞬のうちに二人の姿が掻き消えた。驚いたのも束の間、数秒後には二人が立っていた場所に紫色の魔法陣が広がり、シュンッという音と共に二人が現れた。
その光景に周りの人は唖然としたまま二人を見ている。私は1回見たことがあるから分かっていたけど、いきなり発動されたら誰でも驚くだろうね。
戻ってきたエリミアはエリク様の肩から降りると右手を上げる。
すると彼女を中心に2mほどの紫色の魔法陣が現れた。彼女が右手を下げて離れても点滅を繰り返して回り続けている。
「魔法陣の固定終わりました。これで良かったでしょうか」
「十分です。ありがとうございました。名前を呼ぶ者から順に入ってください。まずはじめは・・・レナード・アルバドス・エルクーレ!」
「はい」「・・・・・・えっ?」
聞き覚えのある名前と声に慌てて周りを見回してみると、こちらに向かって歩いてくる一人の男性。
紫色の髪に赤紫の瞳。白い隊服を身に纏ったその人はまさしく私が知るレナードさんだ。シュラは完全に警戒心むき出しで私の足にしがみついている。そんなシュラを宥める様に頭を撫でる。
彼は私達の存在に気づかないまま素通りして魔法陣の中へと消えた。エリミアを見た瞬間ピタッと止まっていたから多分私達が居る事には気づいたと思う。
3分後ぐらいだろうか。彼が魔法陣から戻ってきた。ただ彼の左腕に黒い蛇が巻きついているのが見える。
何だろうあれ。そう思っていると、クオに肩を数回叩かれ手に付けている指輪を指差された。
一瞬その行動が理解できず、クオが小声で「念話」と呟いてようやく気付く。頭の中で指輪の機能をオンにする。一瞬違和感を感じたあと、クオが念話で話しかけてきた。
『マスター。あの男、何者だ。シュラがここまで警戒する人間は珍しいぞ』
『あーまぁ詳しい説明は後でするけど、村でできた私の友達の一人』
そう伝えるとクオは納得したように何度も頷いた。そしてニヤリと笑う。その笑顔ちょっと怖いぞ。
『あやつもあの小僧と似たような奴か・・・面白い』
『あの小僧って誰よ。ていうか、なんでわざわざ念話なのよ。普通に話せばいいのに』
小声ぐらいなら別に構わないだろうにわざわざ念話を使うのもおかしいと思った私は、素直にその事を伝える。するとクオはレナードさんを指差した。正確にはレナードさんの腕に巻きついている蛇を指差した。
『あの蛇はな、闇の精霊だ。しかも上級精霊だな。闇の精霊は契約を好まない奴らで、姿を見せる事は少ない。珍しいな。それほどあやつの魔力が美味いということか』
『へぇ~・・・あれがそうなんだ』
『ほかの奴らは気づいていないようだがな』
闇の精霊。話には聞いていたが見るのは初めてだ。確か、この世界の属性の中で特別な属性が光と闇だったはずだ。光属性は聖属性とも言われている。エリク様が私の魔法の実験の時に使っていた魔法がその属性らしい。闇属性はエリミアが使っている魔法がその属性だそうだ。
そして、精霊でも光と闇の属性を操る精霊は珍しいらしい。多くの精霊は始祖精霊である、風の始祖精霊、地の始祖精霊、火の精霊と水の精霊に仕えているんだそうだ。だから彼らの命令は絶対らしい。別の属性の精霊であっても命令されれば必ずその通りに行動するらしい。もちろん、契約者がいたとしてもだ。
しかし、光と闇の精霊は違う。光と闇の精霊はそれぞれの属性の始祖精霊にしか仕えない。つまり光の精霊は光の始祖精霊にのみ従い、闇の精霊は闇の始祖精霊にだけ従うのだ。契約した者の命令を聞くことは少ないんだそうだ。クオが「気まぐれな奴らなんだ」と言っていたのを覚えている。
もちろん始祖精霊の上の存在である女神と双子の神の命令は聞くんだそうだ。
初めて見る闇の精霊に私は好奇心が溢れてくるのを感じた。
後で挨拶でもしに行った時にでも近くでよく見せてもらおう。でも、女神の加護っていうとすごい能力を貰えるんだろうなと勝手に思っていたんだけど、違うんだね。
それから数十名が飛んでいき、それぞれ全員が精霊を連れて戻ってきた。属性はそれぞれ違ったけど、闇属性の精霊を連れて帰ってきたのはレナードさんだけだった。
こうなってくると、私も新しい精霊を連れて帰ってくることになるのかな。これ以上増えられても困るんですけど。流石にもう2人だけで精一杯です。
「次の人は・・・アシュリード」
最後の方になってようやく私の名前が呼ばれた。私が男声で「はい」と返事すると、何故か周りが騒ぎ始めた。なんで?と思いながらも魔法陣まで進んでいく。
魔法陣まで進んでエリク様へ一礼して、魔法陣の中へ足を入れる。一瞬気が遠くなる感覚がしたと思ったら、凄まじい光が目に入ってきた。
驚いてすぐに腕で目を隠す。目が光に慣れてきて私はゆっくりと光の原因を見上げる。
暗い空間に金色に光る巨大な大樹。樹の上は遥かに遠く、霞んで見える。
その根元に私は飛ばされてきたんだと気付く。
「大きいなー」
呆然と見上げながら呟いて、私は目の前に石で出来た石版の様な物を見つけた。それを拾い、見てみる。
こちらの世界の言語で書かれていたけど、今の私なら簡単に読めた。
『根元に触れ、真の忠誠を』
そう書かれていた石版を近くに置いて、私は少し悩んで大樹の根に触れた。
不思議と暖かい。ゆっくりと撫でてみる。初めて見たし触ったのにどこか懐かしい感じがした。
何度か撫でていると、ふと私の周りに何個かの光の球が浮かんでいるのに気がついた。
村で見た下級精霊だろうか。くるくると私の周りを一周すると、ふわふわと空中を漂っている。
私は大樹に触れている手とは反対の手でその光に触れようとする。すると光の方から私の方へ近づいてきた。
案外触ってみるとプニプニしていて軽く上に投げるとゆっくりと滑空して、また手のひらにポテンと落ちてくる。
簡単な例をあげるとするなら、小学生の頃理科の実験で作ったスライムだろうか。球体型のスライムに丸い目が二つ付いていて、口がオメガの形をしている。
「可愛い・・・」
そう呟きながら大樹に触れていた方の手でプニプニとつつく。この感触、なかなか病みつきになる。
ずっと触っていると、ふと周りが薄暗くなった気がした。よく周りを見てみると、人の形に影が二つできている。
でも、ここに人はいないはず。そう思って上を見上げてみると、顔面に何かが降ってきた。
そして落ちてきた『それ』は鈍い音を立てて私の顔に当たった。
「かふっ!?いっ・・・・・・たぁぁぁぁあああああ!!」
尋常じゃない痛みに思わず顔を押さえながら地面をのたうちまわる。思わず素の声で悲鳴が出てしまった。
涙目のまま痛みの原因を探してみると、それは樹の根元に転がっていた。
直径が60cmぐらいの大きな白い卵だった。卵の表面には赤い模様が描かれている。まるで炎を表しているようだ。
恐る恐る近づいてみると、淡く光っているのが分かる。何この卵。とりあえず普通の卵ではないのは確かだ。
「これ、一体どうすればいいんだろ・・・う!?」
気づいたのがもう少し遅かったら間違いなく私は死んでいたのかもしれない。
卵に近づいた瞬間、地面にまた人影が写り、上を見上げた瞬間さらに卵が数個落ちてきていた。
慌ててその場から逃げ出すと、ちょうど私が居た場所に鈍い音を立てながら卵が数個落ちてくる。
鈍い音を立て、地面にめり込んだ卵たちを遠目から見ているとそれぞれの違う色をしている。表面の模様も全て違っていた。
それにしても、神様は私を殺す気だったのだろうか。加護にしては渡し方が荒い気がする。
加護と言っていいのかわからないけど、私はその妙な卵を一つ抱き抱えてみる。
「意外に軽い」
そしてほのかに暖かい。不思議に思いながらその卵を何度も撫でていると、地面にめり込んでいた卵たちがもぞもぞと動き出し、私の周りをくるくると回りだした。
まるで卵に意思があるように感じるその動きに私は唖然としつつ、とりあえずその場から動いてみる。すると私の動きに合わせて卵も動いた。
「それじゃあちゃんと着いてきてね?聖樹様ありがとうございます」
そう言って聖樹に向かって頭を下げると、私はさっきここまで来た時に使った魔法陣を使って広場へと戻った。
何の卵かは帰ってから聞こうと思っていたのだけれど、魔法陣を通って帰ってくれば傍に居たエリク様が驚いた顔で私の手元を見ていた。
周りの人や、新しく入隊する人たちも口を開けて私の方を見ていた。
「えっと・・・・・・どうしたんですか?」
不思議に思って首を傾げながらそう言うと、エリミアとクオとシュラが列を抜けて私の傍まで歩いてきた。
エリミアは私の腕に持っていた赤い模様の入った卵を受け取り、クオとシュラは他に浮かんでいる卵を興味津々で見つめていた。
「クオ、これ何の卵?お祈りしたら顔面に降ってきたんだけど」
「少し待ってくれマスター・・・ふむ、しばらく気配を感じないと思っていたらそういう事だったのか」
「しゅらもわかんなかったからねーよそうはしてたけどさー」
クオとシュラは少し二人で話をすると、ニコリと満面の笑みを浮かべてこう言った。
「これはな精霊の卵だ。我らと同等の力を持っておる」
「しかもね!ほぼぜんぶのぞくせいがそろってるよ!よかったね」
その言葉に私はその場で気を失った。