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Dolls  作者: 夕凪秋香
2章 リュクシア王国
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入隊試験3試合目その2


更新が遅くなってしまい申し訳ありませんorz

少しリアルが忙しかったため、更新しようにも出来ない状態でした。

お待たせしてしまって申し訳ありませんでした。




ドラゴンが一際甲高い鳴き声を上げる。声の大きさに一瞬怯むが、視線だけはドラゴンから離さない。

鳴き声を上げ終わると、辺りから多くの足跡がこちらに近づいてくるのが聞こえた。

その足音はドラゴンが現れた時と同じ音でこちらに向かっている。

さっそく予想外な出来事が起きた様だ。



「まさか…仲間がいる?」


「『そのようだな』…だが、我の本気を出さずとも倒せる相手の様だ。こちらは任せろ」



いや、それでも安心できないんですけど?

だけど、人型に戻ったクオの言葉に少し安堵感を覚えつつ、今はこのドラゴンを倒すことに専念しようと決める。

ナイフを構え直し、動こうとしているドラゴンに向けて走る。

ドラゴンは近づこうとする私を見て、大きく羽を広げ、襲い掛かってきた。

鋭い爪が私を狙うが、図体が大きい分動きも大きい。避けるのは容易い。

横に擦れつつ勢いよく地面を蹴って跳躍する。その勢いのまま切りつける。



「やぁっ!!……っ!?」



ナイフでドラゴンの腕を切りつけるが、傷が付くどころかナイフの方に少し罅が入った。

さすがドラゴン。ナイフ程度では傷がつかないみたいだ。

ドラゴンは気にした様子も無く、今度は口を大きく開いて何度も噛みつこうとしてくる。

それを左右に避けつつ後退すると、後ろの樹がいきなり倒れた。

驚いて後ろを振り返ると、少し小さめだがそれでも十分大きい別の色のドラゴンが居た。

目の前にいたドラゴンと同じ赤い瞳だが、このドラゴンは身体の色が黄色い。

そのドラゴンは樹を倒した勢いのまま、私を引き裂こうと爪を向ける。驚いて反応が遅れ、避けることは出来たが右腕を切られた。



「痛っ…!」


「零香!?このトカゲぇぇ……何零香に傷つけてやがるんですか」


「グルォ!?」



エリミアさん、そこまで傷深くないんで黒いオーラ出さないでください。怖いです。

周りのドラゴンさん達、みんな固まったよ。とりあえず今のうちに私は傷の回復をしよう。

そっと傷口に手を翳し、少しの間だけ目を閉じる。そして頭の中で元の自分の腕をイメージする。



「ヒール」



と呟けば、手から淡い緑色の光が溢れ傷口を覆う。数秒後には傷もなく元通りになった。

軽く触れてみて痛みも何もない事を確認している間に、黄色いドラゴンが地面に倒れた。その上で勝ち誇った笑みを浮かべるエリミア。

ゴスロリの恰好をした少女が自分の何倍もあるドラゴンをハンマーだけで倒す、というシュールな光景の中、さらに巨大な音が聞こえた。

音が聞こえた方へと顔を向けると、身体の色が緑色のドラゴンがシュラによって倒されている所だった。

シュラもシュラでエリミアと似たような笑みを浮かべて、緑色のドラゴンの上でガッツポーズをしている。

結構似た者同士なんだなぁとぼんやり思っていると、青いドラゴンがこちらに向かってくるのが横目で見えた。

でも、どうやって相手の体に傷をつけようか。今持っているナイフで倒さなければ試験は失格だ。そして肉体強化の魔法は使えない。


なら、ナイフを強化すればいいじゃないか。


不覚にもニヤケが止まらない。普段の私ならこんな事ないのに、今の私は戦う事を楽しんでいるようだ。

テンションが異常に高くなったせいだろうか。それとも自分の体に傷をつけられたからだろうか。

どちらにしてもドラゴンを殺すことに変わりはない。



「さぁ…楽しい楽しいショータイムだ。クロナ、クロフ出ておいで」


『お呼びかしら~』『何?遊んでくれんのー』


「これからドラゴンと遊ぶんだけど、手伝ってくれるよね?」



ニコリと微笑みながらそういうと、クロナとクロフは一瞬間を置いた後、いきなり笑い出した。

いきなり笑い出した二人に驚く私に、クロナとクロフは楽しそうな声でこう言った。



『『もちろん』』



その言葉に私は微笑みながら、剣の刃に少し触れる。そして氷をイメージすればナイフの表面を氷が覆っていき、氷の長剣が出来上がる。

そして襲い掛かってきたドラゴンの腕をおもむろに切りつける。

切った瞬間ドラゴンの腕から赤い血が流れ出し、ドラゴンが奇声を上げる。どうやらこれなら傷がつけられるようだ。

さらに追い打ちをかけるようにドラゴンの懐へ入り、腹を切る。

さすがに傷つけるだけで致命傷までとはいかないが、ドラゴンの動きが遅くなるぐらいには傷つけた。

反撃しようとこちらを振り返ったドラゴンの目の前にクロフとクロナが現れる。



『その腕、美味しそうだよね♪いただきまーす』



クロフは一度小さく笑うと、大きく体を広げ、振り上げていたドラゴンの腕に噛みついた。

そのまま勢いよく噛みちぎる。ブチブチと肉が裂ける音が聞こえる。おぉグロイグロイ。



「グルッグルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」



ドラゴンの悲鳴と血飛沫が同時に重なる。クロフはそのままドラゴンの腕を飲み込み、上機嫌でふよふよと空を飛んでいる。

私は苦しんでいるドラゴンに近づき、今度は足を切る。凄まじい音と共に地面に倒れるドラゴンの翼を今度はクロナが食べた。

美味しそうに翼を食べるクロナを横目に、ドラゴンに止めを刺そうとドラゴンの瞳を見る。

血の様に赤い瞳と視線が合った。憎しみの籠もった瞳。だけど私は、その瞳の中に別の感情があるのに気が付いた。


まるで、祖父の様などこか孫を見るような優しい瞳。そして、死を望んだ者の目。


その感情に気付いた瞬間、私はドラゴンの首を剣で切り落としていた。

ほぼ無意識だった事に驚いた。ドラゴンの血が私の体を赤く染める。血のむせ返るような匂いに私は昔を思い出す。


叔父を刺し殺したあの瞬間を。愛しいあの人を殺された瞬間を。


愛しいあの人?誰?私は知らない。知らない記憶がある。自分じゃない自分の記憶がある。その記憶がいきなり頭の中に流れ込んできた。

頭の中が痛かった。感情が溢れて苦しい。私がワタシじゃなくなっていく感覚がする。そして私はその記憶に逆らうように叫び声をあげた。



「あぁっぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


「マスター!?」


「零香!!」



怖いという感情と殺したい感情が私の中で混ざり合う。三人が私の体を押さえているのが分かるのに、まるで別の人間に体を操られている様に、私はずっと叫び続けた。

涙が流れ、顔を濡らしていく。どうして私は泣いているの。怖い。

目を閉じて意識が遠のきそうになる瞬間、ふと優しい記憶が頭の中に流れ込んできた。


大きな池の傍。水面を見つめながら誰かを待っている。すると後ろから誰かの足音が聞こえてきた。

私はその音を聞いて嬉しくなり、後ろを振り返って彼の名前を呼んだ。



『ユリウス』



彼は私の方へ手を振りながら近寄ってきている。なのに、その顔だけがぼやけて見えない。

彼の元へ走って抱き着く。優しくて温かい匂いに包まれて私は幸せな気分になる。

下から彼の顔を見上げてさらに抱きしめる。こんなにも顔が近いのになぜ顔が見えないんだろう。

そして彼の口が動く。



『―――――。寂しかったかい?』



私の名前を呼んだはずなのに、なぜかそこの部分だけ声が聞こえない。

だけど記憶の中の私は横に首を振って、笑みを浮かべたまま彼の胸元に手を添えた。



『寂しくなんてなかったわ。だって、必ず会いに来てくれると思ってたもの』



そういうと、彼は口元を綻ばせて私の頭を撫でた。その大きな掌の温かさに私は満面の笑みを浮かべた。

そして近づいてくる彼の顔を見つめながら少しずつ瞼を閉じた。そして、私の意識も消えていった。

















「っぁ!…………え?」



気がついた時には、ついさっきまでいた暗い森とは違う景色が広がっていた。下にはもふもふとした白い毛がある。周りを見れば黒い森へ行く王都への道の途中だと気づいた。

驚いて何度も周りを見ていると、目の前に涙目のシュラがいた。エリミアもいる。

何故か体が震えている二人を見ていたら、突然二人が私にタックルしてきた。



「うわぁああああああん!!!おきたぁあああああああ!!」


「零香……っ!」


「ちょっ二人とも何、げふっ!?」



ちょうどお腹のあたりに二人の頭がぶつかりものすごく痛い。一瞬お腹の中からなにかが出てきそうだった。

だけど、二人が泣きじゃくる姿を確認すると、心配をかけたんだなという罪悪感が胸を締め付ける。

慰めるように二人を頭を撫でる。



「心配かけちゃったかな…?」


「心配っしました!いきなり苦しみだして、名前を呼んでも返事をしてくれなくてっ」


「でもいきなりれいかねちゃうし、なんどもおこしたのにおきてくれなかったんだよ!?」



早口に責め立てる二人を慰めるように、優しく頭を撫でながら「ごめんごめん」と謝る。

それにしても今さっきの記憶はなんだったんだろう。思い出そうとしても、全く思い出せない。

ただ微かに覚えているのは、『私』はユリウスという人物を待っていた事だけだ。



「本当になんだったんだろう……」



そして、あの感情はなんだったろうと私は不思議に思いながら二人の頭を撫で続けた。

王都に着く頃には二人共平常心を取り戻し、いつもどおりになった。クオはその間ずっと無言でいた。

王都に入る前に近くの木の裏に隠れて執事の格好に戻ると、また無言でローブを被った。不思議に思いながらも私もクオが渡してきたローブを被る。

ドラゴン達の死体は全部エリミアが異次元空間で保管しているらしい。便利だなー。

ドラゴンは合計4匹で一番大きい青、次に大きい赤、次に平均らしい緑、そして一番小さい黄。赤色は私が気を失った後に現れたらしい。瞬殺だったらしいけど。

ローブを着終え、さてこれから移動しようかと思っていたとき、エリミアに裾を引っ張られる。



「どうしたのエリミア」


「零香は帰ったらすぐお風呂です」


「なんで?」



確かに血を浴びたし汗もかいたかもしれないけど、先に報告ではないんだろうか。

そう言えばクオもしかめっ面になって二人に睨まれた。えっなんで?



「マスター、帰ったらすぐに風呂に入れ。報告は我が行っておく」


「汚い獣の血を大量に浴びたんです。しっかり消毒しなくちゃ駄目です」


「あっはい…」



さすがに二人に怒るような顔で言われたら反論も言いづらい。渋々報告はクオに任せて、一番汚れのひどい私とシュラは先にお風呂に入ることにした。シュラが一緒にお風呂に入りたいと言ったから入ろうかと言ったら、何故かクオとエリミアは何かを耐えるような顔で二人で落ち込んでいた。

今さっきから二人の行動の意味が理解できない。


とりあえずお城についた私たちを、何故か隊の皆が待っていた。もちろんエリク様やリュナミス、カミィラは涙目で待っていた。

私たちに気づいた瞬間、皆に囲まれて身体検査みたいな事をされた。突然の事で何もできずただ呆然とされるがままだったんだけど、私の血だらけの姿を見てカミィラが倒れたのにはびっくりした。

エリク様は「衛生兵!それか治癒が使える魔術師!」と叫ぶし、リュナミスの場合はしつこいくらい体を触ってくるしでその場は騒然となった。



その日は、慌ただしく日が過ぎた。後で聞いたことだが、実はドラゴンについての情報の間違いがあったらしく、私達が城を出た後に目撃数が1体から4体だという事を知らされたらしい。

慌てて助けにいこうとした二番隊全員を、その情報提供者が止めたらしい。誰なのか男なのか女なのかすら分からなかったそうだけど、私はあるメモを渡されて気づいた。


そのメモは情報提供者がその場で書いて「私に」渡してくれと言ったらしい。アシュリードではなく、「零香」にだ。

ちゃんとそのメモにも、日本語で「零香さんへ」と書かれていた。

つまり、この情報提供者は日本人だ。しかも私を知っていて、なおかつアシュリードとして動いていることを知っている人。でもそれはありえない。だって、アシュリードとして行動しようとしたのはあの祭りが終わった後での思いつきだったのだから。知る人はあの場にいたリュナミスだけのはずだ。

私は動揺しつつメモの内容を読んで、ある衝撃の事実を知ることになった。

思わず、メモを握りつぶすほどの衝撃だった。



「なん…で…?」



そのメモに書いてあったのは、私の元の世界での元彼、「宇崎 征二」という名前と「セイジ・テユス・ウェザイア」という名前。

そして、二人は同一人物であるという説明と3ヶ月後、彼が貴女の元へ訪れると書いてあった。

何故、彼がここに?本当にこの情報は確かなの?

私はドラゴンを倒した時のあの記憶とこのメモによって、これから先数ヶ月悩み続ける事になった。







零香の元彼の名前と新キャラの名前登場です。登場してから人物紹介の所を更新しようと思います。

次の次の話で2章は終わりの予定です。


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