クロッカス村1-3
リュナミスと零香が家に戻って来て、最初に出会ったのはエプロン姿のカミィラだった。カミィラのピンク色の髪と同じピンク色のエプロンには、たくさんのフリルがついている。零香はそれを見て
(もう少しフリル減らして、リボンをアクセントにしたほうがかわいいと思うな…)
ともし、自分だったらこうする、というアイデアを頭の中で考えながら家に入った。リュナミスがカミィラに「ただいま」と声を掛ける。するとカミィラはこちらを見ながら、暖炉で鍋の中身をかき回していた。鍋からとてもおいしそうな匂いがする。
「あっ、お帰り。パルおばさんが「帰ってきたらすぐにおいで」って、言ってたよ?エリミアちゃんも一緒だから、お話終わったら、皆で晩御飯食べよ」
「わかった」
リュナミスは「お前の事で話があるんだろう」と零香についてくるように促した。零香はそれに従ってついて行こうとしたが、
「それにしても……女性嫌いなリュナ兄が、アタシ達以外にあんなに話してるの初めて見たよ」
その言葉に、二人そろって硬直した。カミィラは
(あれ…?リュナ兄は固まるだろうと思ったけど、レイカも…ということは…)
「何かいやらしい事でもやったの?」
と言った。間を開けず、すぐに
「「やって」」ない!」ません!」
二人が顔を真っ赤にして反応を返すモノだから、カミィラは(絶対何かやったな…後でリュナ兄に追求してみよう)と心の中で決めるのだった。
二人が真っ赤になっているのは、リックという少年の行動の事を思い出した所為だという事には気づかず。実際、カミィラは二人が会話しているのを一部見ただけだったのだ。
「はいはい、そこらで話は終わりにしといてくれないかい?」
後ろからいきなり聞こえた女性の声にビックリした零香は、声のしたほうに顔を向けた。声の持ち主は、髪が青く、青い瞳を持った30代ぐらいの女性だった。身長は零香と同じぐらいで(ちなみに、零香の身長は167cmである)少し顔にしわがあった。
「パルおばさん、エリミアちゃんの事わかった?」
カミィラにそう呼ばれた女性は、カミィラに
「さっぱり解んないねぇ、魔力で動いている事はわかったんだけど、意思を持った人形なんて初めてだからね~」
と肩ぐらいまである髪の毛を手で梳きながら、答えた。彼女は零香の傍に近づくと顔をまじまじと見つめた。
「ふむ、あんたがあの人形を作ったのかぃ?」
「は、はい」
「そうかい、あたいはパルサーシャ。この子達の保護者って所さ。宜しく頼むよ」
そういうと、零香の手を握って握手をしてきた。零香は苦笑いで「こちらこそよろしくお願いします、パルサーシャさん」と答えた。パルサーシャは20秒程度手を握り締めた後、手を離し、カミィラに
「先に晩御飯にしよう。話が長くなりそうだからねぇ、用意しとくれ」
と言った。カミィラは「はぁい」と返事した後、かき回していた鍋を持って、奥の机と椅子が置いてある場所へ歩いていった。零香はパルサーシャが「あんたはいったんこっちにおいで」と言われたので、パルサーシャが入っていった部屋についていった。パルサーシャはそこでタンスの中をあさっていた。
「ん~…これでもないし、これは…派手だから似合わないねぇ…」
「あ、あの…?」
「ん~……おっ、あった!あんたこれ、着とくれ」
「わっ」
パルサーシャが投げてきたのは、白を基本として作られた、ゆったりとしたワンピースだった。袖は長袖だったが、肩と胸元と背中の半分が出るデザインだった。背中には茶色の紐が網目状に通っていて、これで微調整するようだ。裾が膝ぐらいの長さで、生地は薄そうに見えて意外に見えない。
「あんた、どうせ服の替えないんだろ?下着もあるから、サイズが合うか判らないけど良かったら貰っておくれ。いらない物だしね」
「ありがとうございます。あの、それと…」
「ん、なんだい?他に必要な物があるなら、言っておくれ」
「裁縫道具を貸していただけないでしょうか。ちょっと袖がほつれてるみたいで…直したいんです」
「あぁ、それかい。それなら……「マスター、どうぞ。裁縫道具です」
いきなり目の前に現れたエリミアに零香とパルサーシャは驚いた。エリミアはコンパクトサイズの裁縫道具を持って反応を待っていた。零香はそれを受け取って「ありがとう」とお礼を言った。すると、エリミアはどこからともなく大きなカバンを持ってきた。そのカバンに見覚えがあった。
「エリミア、それ…」
「マスターのお部屋から拝借してきた物です。マスターが必要としそうな物を持ってきました」
その言葉に、零香は衝撃を受けた。
「ねぇ、それって魔法で持ってきたの…?」
「はい、そうです」
「それは、複数の人に対しても使えるの……?」
零香はおそるおそる聞いてみた。元の世界に戻る事が出来るなら、零香はこの世界に用が無くなってしまう。そして、あの恐怖の日々に戻ってします。それだけは嫌だった。
「……現状では、無理です。私の魔力では、私以外を連れてマスターの世界に戻るにはまだ足りません」
エリミアのその言葉に、安堵した。そして何か引っかかった。
「……現状、ってことはいつか戻れるの…?」
「はい、可能性はあります。魔力を他者から貰う事ができれば…難しい問題ですが、可能です。戻る事は難しいですが、こちらに来ることは簡単にできます。それに、現状一回行くと2ヶ月ほど魔力を溜めておかないと私だけでも、行けません」
零香はこれで、自分の世界に帰れるという事実がわかった。そして、またこの世界に戻ってこれる事も。それは、零香を安心させた。
「そう、わかった、ありがとう。それで何を持ってきてくれたの?」
エリミアはカバンをズルズルと引き摺って、零香の足元に立つとそのカバンをおもむろに開いた。バッと中から出てきたのは、色々な道具とエリミア用に作っていた服などだった。
「今回持ってきたのは、マスターの服を数着と私の服を数着。それと、櫛や髪留め。薬に携帯食料、後は布とかです」
エリミアはカバンの中から色々な物を見せた後、「これは後でお部屋のほうへお持ちしますね」と言ってエリミアはいきなりカバンをどこかへ放り投げた。カバンはそのまま床に落ちずに空気の中へと姿を消した。これには零香も今まで見ていたパルサーシャも唖然とした。
「えと…どこにいったの?あのカバン」
「空間の狭間に保管しました」
エリミアは「こうやって、また取り出せますよ」と言って床からいきなりカバンを取り出した。エリミアいわく、これはエリミアにしかできない事で、魔法を応用して空間の狭間で物の保管と取り出しを行えるらしい。
「それじゃあ、これからエリミアに荷物とか預けようか」
「承りました」
エリミアは小さく礼をすると、「晩御飯の準備を手伝ってまいります」と言って部屋を出て行った。零香は、近くにあった木の椅子に座り、一分で服のほつれを直し、着てみた。パルサーシャはその様子を近くで眺めていた。
「着てみましたが…胸が少し余りますね…」
そう言って零香は自分の小さな胸を見た。今は上のキャミソールやブラは外していて、素肌が見える。零香の胸はCカップなのだが、着てみると少し胸の部分の布が余る。自分の胸とパルサーシャの胸を見比べてみる。音で表現すると、
零香:ポンッ、キュッ、ボンッ
パルサーシャ:ボンッ、キュッ、ボンッ
零香は少し涙目になった。
零香は余っている部分を少し切り取り、それをリボンにして胸元につけることで一応自分にぴったりとなったが、腰が強調されるのが少しだけ恥ずかしい。
パルサーシャは
「そのほうがかわいいよ、今さっき着てた服より似合ってる」
と言って褒めてくれた。が、正直言うとパルサーシャのほうを見ると、落ち込むばかりであった。
「はぁ……わひゃぁっ!?」
いきなり後ろから胸を掴まれた零香は、驚いて奇声を上げてしまった。掴んでいる本人は
「あら、以外にいい形ねぇ。少し小さい感じだけど」
と胸の感想を言った。
「なななななっ!いきなり何するんですか!」
「ん~、ちょっと実験?」
「実験って…!やぁっ、いきなり揉まないでくださいっ!」
「いいじゃないの、減るもんじゃないんだしねぇ」
「減ります!あっ、ちょっと止めてくださいっ」
「ふふふ♪これはいい人材を見つけたねぇ」
激しく抵抗する零香に対して、パルサーシャは満面の笑みで零香の胸を揉み続けた。
扉が開いたままな事を忘れて
「――――――っ…」
「向こう、楽しそうだねぇ♪」
隣の部屋では、椅子に座って何かに耐えているリュナミスと、そんな兄の反応を見て楽しんでいる、カミィラの姿があった。
最後のほうはノリで書きましたw