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Dolls  作者: 夕凪秋香
2章 リュクシア王国
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王都エ・レーラ2-2


私は男装をしている理由をアリアちゃんに掻い摘んで話した。私が別の世界から来た事は話さなかったが、ほぼ全て話しただろう。

話を聞く間、アリアちゃんはパンを持ったまま私を真剣な目で見つめてきた。

最初はあまり信じていない様子だったけど、私が青い瞳から元の黒い瞳に戻したら、珍しい物を見つけたように目を輝かせて見つめてきた。



「……近くで見てもいいですか?」


「いいよ。はい、こっちにおいで~」



そう言いながら膝を叩くと、アリアちゃんは一瞬戸惑った後、頬を赤く染めながらもおずおずと私の膝の上に乗ってきた。

照れながらじっと私の瞳を見つめてくるアリアちゃんに、思わず頬が緩む。



「……不思議、です」


「私の住んでた所では普通だけどね」



むしろ、アリアちゃんの髪色や魔法が使えるという事の方が不思議だと思う。

緑色の髪って向こうでは染める以外できない髪色だから、地毛が緑色っていうのが不思議でならない。

アリアちゃんのサラサラした髪を撫でると、アリアちゃんの顔が嬉しそうに微笑んだ。

ただ、前髪で両目が隠れてしまっているのが残念で仕方ない。

前髪を耳にかけるようにすると、すぐに照れて隠してしまう。



「むー…アリアちゃん可愛いんだから隠さなくてもいいんだよ?」


「いえ、その……恥ずかしいのであまり……」



恥ずかしがる姿も可愛いけど、笑顔が見えるほうがもっと可愛いのになぁ。

渋る私にアリアちゃんは何かを考えた後、そっと私の服を掴んだ。

服を掴む手は、微かに震えている。



「……お願い聞いてくれるなら、頑張って、みます」


「ホント!?何でも言っていいよ」


「……あの時の言葉、覚えてますか?」


「あの時?」



彼女は頷いて、私がアリアちゃんをクロナとクロフ達から逃がした時の事だと言った。

確かに覚えている。私はあの時、素の声で彼女に「まだ友達になれてないもの」と言って一度別れたのだ。

私が頷くと、彼女は私を見上げて小さい声で呟いた。



「……わたしの、お友達に…なってくれませんか…?」



勇気を振り絞ったのか、体が微かに震えている。

私は笑いながら彼女の体を抱きしめた。腕の中で彼女の震えが止まる。

友達に裏切られるのが怖いんだろう。そう思いながらも、言いたくて仕方なかったかのような表情を見せた彼女。

私は満面の笑みで即答した。ついでに頬ずりもする。



「喜んで!嬉しい。こんな可愛い子が友達になってくれるなんて、とっても嬉しいよ!」


「…ありがとう、ございます…」


「友達なんだから敬語は無しだよ」


「…うん、わかった。ありがとう、アシュリード」



そう言って彼女は満面の笑みを浮かべた。

思わず力をこめて抱きしめたら、クオに彼女を取り上げられてしまった。

クオに抱えられて呆然としているアリアちゃん。二人が揃うと物語に良くあるお姫様と執事の光景が思い浮かんだ。

まぁ、実際はアリアちゃんは本当のお姫様でクオは執事のコスプレをしているだけなのだが、絵になる光景ではある。

記憶の中にこの光景を焼けつけていると、エリミアとシュラに腕を引っ張られた。



「アシュリード、目が怖いです」 「こわいかお、めっ!」



エリミアは少し頬を引きつらせて、シュラは頬を膨らませて同時に言ってきた。

私は慌てて笑顔を浮かべて二人に「ごめんごめん」と謝る。

とりあえず事情を部分的に話し終えたところで、全員で食事を再開することになった。

色々な種類のパンと色鮮やかなサラダに、野菜スープとコーヒーによく似た味の飲み物を皆でわいわい騒がしく食べた。

実はこの朝食、大半をクオが作ったらしい。それもここまで作ったのは初めてだそうだ。

結構美味しかったから驚いた。もしかしたら私よりも上手かもしれないと思っていると、クオは苦笑いしてこう言った。



「我はマスターの料理の方が好きだぞ?変わった味付けで美味い。特にすいーつなどは絶品だ」



そうはっきりと褒められると、思わず顔がにやける。照れながら「今度時間が出来たら何か作ろうか?」と聞くと、すぐに首を縦に振った。その目は輝いている。

周りのメンバーも目が輝き始めた。唯一アリアちゃんだけが話が分かっていないようで、首を傾げている。

そこでエリミアがアリアちゃんにスイーツの事について説明すると、興味ありそうな反応を見せた。その反応に思わず笑いが零れる。



「ふふっ、次作ったらアリアちゃんにも食べて貰おうかな」



そう言うと、彼女はピクリと反応して元気よく頷いた。反応がいちいち可愛すぎるわ、この子。

ふと、そこである事に気づく。何故ここにアリアちゃんが来ているんだろうか。そしてここはどこなんだろう。



「そういえばさー、アリアちゃんは何か用事があってここに来たの?」



問いかけると、彼女は数秒首を傾げ何か思い出したようで、慌てて席から立ち上がった。

そして何も言わず私の腕を引っ張って無理やり立たされる。



「えっちょっ、アリアちゃん?」


「…忘れてましたっ、お父様がアシュリード達の事を呼んでたんですっ」


「はぁっ!?」



アリアちゃんのお父さん=この国の王様というわけで、何で呼ばれるんだろうかと思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。

とりあえず一旦アリアちゃんを待たせ、急いで男装することにした。

さらしを巻くのをエリミアに頼み、服装などはクオとシュラが用意してくれた。

白いワイシャツとジーンズを着て髪の毛を結び、喉の調子を確認する。

クオのマントを借り、羽織ればアシュリードの完成だ。

ここからは心から男になるため、声を男性声に変える。



「用意できたよ。案内、お願いできるかな?」


「はっはい…こっちです」



とてとてと先に歩いていくアリアちゃんの後ろをついていく。この場所がどこなのかは詳しく分からないが、廊下に出ると、どうやら城の中の部屋の一つだという事が分かる。

……おいおい、これ普通の兵士の待遇じゃないよね?と思いながらクオを睨むと、満面の笑みで返された。

エリミア達の方を見れば、シュラの肩に乗ったエリミアが首を傾げながら不思議そうな顔をしている。

5分程度廊下を歩いただろうか。曲がり角を曲がると、目の前に豪勢な装飾品が飾られた扉が見える。

その扉の前では、数名の鎧を着た兵士が立っていた。

アリアちゃんがその扉の前に立つと、兵士たちが扉を開いていく。

ゆっくりと開いていく扉を唖然としながら見ていると、人一人分が通れるスペースができ、アリアちゃんはさっさと中に入っていってしまった。

慌てて追いかけると、中は想像以上に広かった。そして豪華だった。


至る所に金や銀などを使った装飾品が並び、床には長く赤い絨毯が敷いてある。

奥には玉座らしきものがあり、そこに誰かが座っている。

ゆっくりと部屋の中に入っていくと、後ろで扉が閉まる音が聞こえた。

とりあえず奥に進んでいくと、見覚えのある人物が玉座の横に座っていた。

エリク様だ。彼は私を見ると一度微笑んだ。こちらも微笑みを返し、玉座の数メートル前で止まり膝をつき頭を下げる。



「……面を上げよ」



エリク様とは違う、少し爽やかな声が聞こえ顔だけ上に上げる。

玉座を見上げるような感じなのだが、私は玉座に座っている人物を見て驚いた。

髪は見事な金色で顔立ちは今まで見た中でトップクラスだろう。美人だ。瞳はコバルトブルーで、頭に金色の王冠を被っている。

彼こそがこの国の王で、エリク様やアリアちゃんの父親なのだろう。

だが、それにしては……若すぎないか?見た目的にまだ20代前半ぐらいにしか見えない。

この国はあまり見た目は老けないのだろうか、そうだというなら羨ましい限りである。



「そなたがアシュリードという者か?」


「はい、私がアシュリードでございます」



そう答えると、王様は玉座を立ちこちらに近づいてきた。

手が届く距離まで近づいてくると、顔を何度も覗きこまれる。不思議に思っていると、王様はいきなり私の手を掴んで立たせた。



「そなたらは息子と娘を助けてくれたそうだな。感謝する。ありがとう」



そう言っていきなり頭を下げたのだ。私は慌ててフードを取って王様へ言う。



「陛下、どうかお顔を上げてください。私どもの様な下々の者に頭を下げては……」


「だがそなたらがいなければ、息子も娘も助からなかったと聞く。感謝してもし尽くしきれないのだ。何か褒美をとらせよう」



その言葉に思わず目を見開いて、すぐに首を横に振って否定する。



「陛下のその感謝のお気持ちだけで十分でございます」



私の言葉に王様は不服そうな顔を浮かべたが、何かを思いついたようで、後ろを振り返った。

その目線の先にはエリク様がいる。



「息子よ!この者たちは確かそなたの隊に入る予定なのだろう、試験は行ったか?」


「正式な試験はまだです」


「ふむそうか!ならばこうしようではないかっ」



王様は私の手を離し玉座に戻ると、満面の笑みを浮かべてこう告げた。



「我と王妃がじきじきにその試験を行おう!午後、訓練場で待っておるぞ」


「……はい?」



聞き間違えだよね?今、王様と王妃様が試験を行うって聞こえた気がするなー。

確か試験って魔物相手じゃなかったでしたっけ?



「聞こえなかったか?我と王妃が、じきじきにそなた達の騎士団入団試験の相手になろう。午後、訓練場で待っておるぞ」



聞き間違えじゃなかったー!!

思わずエリク様のほうを見ると、満面の笑みで見られた。

まるで「諦めろ」とでもいうような笑みだ。よくよく見ればその隣でアリアちゃんが親指を立てて口パクで「頑張ってください」と応援している。

決定事項ですかこんちくしょー!!せめて、誰かに止めて欲しかったと、心の中で涙を流した。

そんな私の気持ちを知らない他のメンバーは、楽しそうな声で笑っていた。



「いいのではないか?マスター。良い経験になるだろう」


「たのしそうだよね~。しゅらもあいてしてくれるかなー」


「自分の限界を確かめてみるいい機会だと思います」


「あぁ…うん、そう…誰もやめろとは言わないのね…」



思わずため息が零れた。確かに自分の限界を試してみる価値はあるだろう。だが、どこまでが自分の限界か分からないため、最初は手加減が必要になってくるだろう。

面倒くさくは感じるが、私はこの申し出を受けることにした。

ついでに、アリアちゃんと友人になりました的な事を話したら、今度は王様の顔から表情が消えた。



「まだ娘は嫁には出さないからな。いいか?娘に手を出したらどうなるか覚えておけ、分かったな」


「……お父様」



ドスの効いた声でそう言われてしまった。アリアちゃんが呆れたような感じでため息をついたのを聞くと、王様の普段の性格は子馬鹿のようだ。

案外親しみやすい王様だなぁと思いながら「私は結婚する気はありませんから」と苦笑いすると、王様は少し安心したような顔を見せた。

見た目は男性だけど、女性と結婚する気はない。



「そうか、それは安心した!それでは午後、訓練所に必ず来い。よいな?」


「承知いたしました」



片膝をついて頭を深く下げると、頭上から笑い声が聞こえてきた。

その声はどんどん遠ざかっていく。そして聞こえなくなると、突然目の前に手が差し出された。

顔を上げてみるとそこにいたのはエリク様で、今さっきまでいたはずの王様の姿はどこにもない。



「午後まで暇ですよね。これから僕は隊の修練所の方へ行こうと思うんですが、一緒に行きませんか」


「喜んでついて行きます」



笑顔で立ち上がると、エリク様は同じように笑って私達が入ってきた扉のほうへと歩き出した。

その後ろをついて行こうとすると、突然誰かにマントを引っ張られる。

驚いて後ろを振り向くとマントを掴んでいたのはアリアちゃんだった。



「どうしたんですか?アリアちゃ……アリア様」



一応兵士さん達も居るからちゃん付けは駄目だろうと、アリアちゃんを様付けで呼んだ。

彼女は一瞬目を見開いて悲しそうに口を歪ませたが、首を振って小さく「何でもないです」と呟いてマントから手を離す。

ゆっくりと離れていくその手を優しく握ると、驚いて見上げてくる彼女に私は微笑むながら手から小さな向日葵の花を出した。

向日葵が突然出てきた事に驚いている彼女に、向日葵を耳の上に前髪を巻き込む形で差し込む。



「これは私の故郷で夏に咲く、向日葵という花です。またお会いする時まで、約束の印としてお受け取り下さい」



そう言って微笑むと、彼女は満面の笑みを浮かべて頷いた。

不思議そうな顔でその会話を聞いていたエリク様に、部屋での出来事を小さな声で話すと、エリク様もまるで自分の事のように嬉しそうに微笑んだ。

私達はアリアちゃんに別れを告げると、部屋から退出した。もちろんフードは被り直す。


後ろで扉が閉まる鈍い音を聞きながら、私はエリク様に疑問をぶつける。



「エリク様。一つ質問してもよろしいでしょうか」


「歩きながら聞きましょう。何でしょうか?」


「国王様とお妃様はどのくらいの実力の持ち主なのでしょうか」



そう、これが気になっていたんだ。相当の実力者だとは仕草などで分かったけど、詳しく知りたい。分かれば最初から全力を出してもいいのか悪いのかが分かる。

彼は少し悩み、突然手を二回ほど叩いた。数秒して



「お呼びですか?殿下」


「うわっビックリした!」



いきなり後ろからミケルさんが登場してきた。驚いてクオに抱きついてしまった。

抱きつくといってもほぼタックルに近かったが。その証拠にクオは腹を抑えながら俯いている。体は小刻みに震えているから、痛みに耐えているのだろう。

とりあえず、ごめんと謝っておいた。



「驚かせてしまって申し訳ありません」


「いえっ勝手にこっちが驚いただけですから、気にしないでください」


「申し訳ありませんでした。それで殿下、何か私に御用ですか?」


「少しね。アシュリードさん、この人がこの国一の剣の達人です」


「へ?」



エリク様が指差しているのは、今さっき現れたミケルさんで、当の本人は何も言わずニコリと笑顔を浮かべている。



「そして、騎士団長でもあります」


「なんですとぉ!?」


「実際の騎士団長は他の方に変わってもらっていますが、一応書類上ではまだ騎士団長ですね。言うならば、裏騎士団長でしょうか」



ニコリと微笑みながらそう言うミケルさんに、エリク様は苦笑いしながら



「僕の剣の師匠でもあり、父と母の剣の師匠でもあります。ただし、母には時々負けてますよね」



と言ってミケルさんを見上げる。ミケルさんはそう言われて顎に手を当てながら苦笑している。



「そうですねぇ・・・私も歳ですし、お妃様は私の癖を良くご存知ですから油断していると負けてしまいます。歳はとりたくないものですねぇ」



とりあえず、エリク様のお母様には別の意味で気を付けた方がいいというのは分かった。

もちろん自分が危険かもしれないからだ。

何だかこの世界で出会う人たちは、少し変わった人が多い気がするのは私の気のせい?

普通の人はいないんだろうか、普通の人わ。







順番でまとめてみると


剣のみでの実力 ミケル>イリス>エリク=リュナミス>ヴィヴィド

魔法のみでの実力 ヴィヴィド>エリク>ミケル=リュナミス>イリス

実践経験も含めて ミケル>エリク=リュナミス>ヴィヴィド=イリス


という感じです。

ちなみに零香やエリミア、シュラやクオ達の実力は騎士団試験の話で明らかになります。


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