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Dolls  作者: 夕凪秋香
2章 リュクシア王国
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王都エ・レーラ1-5


一ヶ月ぶりの更新になりました。

そしてこの「Dolls」を投稿し始めて1周年が過ぎましたね。

過ぎたことを完全に忘れてましたw









懐かしい夢を見た。





小さい頃、まだ家族全員が生きていた時。妹にせがまれて訪れた、親戚の伯母さんの家。

その近くにあった海で、浮き輪に妹を乗せて泳いだっけ。

この時までは、泳ぐのは大好きだった。クラスの中で一番早かったし、何より泳ぐことが気持ちよかった。

スイカ割りをしたり、綺麗な貝を拾ってお父さんとお母さん、叔父さんにもプレゼントしたよね。


お母さん特製のお弁当を食べて、もう一度泳ぎに行った私。

叔父さんも一緒に泳ぐと言って、だったら競争ね?と沖の方にあった岩を指差した。

海岸からそんなに遠くない所だったから大丈夫だろうと、叔父さんも納得してくれた。

よーいドン、で泳ぎ始めた私達。もちろん、大人の叔父さんの方が早い。


それが悔しくって、私は一心不乱に泳ぎ続けた。

だけどその途中、いきなり全身が動かなくなった。息も出来ないぐらいに苦しくなった。

後から分かった事だけど、毒クラゲに足を刺されてしまったらしい。


『あっ、あぁ』


声を出して助けを呼んでも、言葉に出せない。

私はなすすべも無く海に沈んでいった。苦しくって、腕を伸ばそうとしても伸ばせない。

夢の中でも溺れかけるって、なんだか可笑しいなと思いながら目を閉じようとした瞬間、腕を摑まれた。



えっ?確かこの後は、いつまにか病院のベットの上で寝てたんじゃなかったっけ?



閉じかけていた目を開いて、腕を摑んでいるものを見ると、私と同じぐらいの背丈の男の子が見えた。

だけど、顔がわからない。目がぼやけているのか、逆光の所為なのか男の子の顔だけ影になっていてよく分からない。



そして、男の子に引っ張られ海面に顔が出ると同時に、意識が飛んだ。















「げほっ、かふっ」



いきなり意識が覚醒し、ズキズキと体の痛みが襲い掛かってきた。

息苦しくて何度も咳き込む。気管に水が入ったのかもしれない。胸を抑え、必死に空気を求める。


ぼやけた視界と聴覚が元に戻り始め、ようやく周りの様子が分かった。


どうやら、私は城の中庭にあった池に投げ込まれたらしい。そして誰かに助けられた。

周りは慌しく人が行き交っている。その全ては武装した兵士だ。

ようやく騒ぎに気づいたのだろう。緊迫した表情で私が落ちてきた方へと消えていった。


起き上がりつつ、邪魔な仮面やローブを脱ぎ捨てる。

刺された傷が少し塞がっているのが気になったが、回復魔法を唱え全ての傷を癒す。

立ち上がり何度も体を動かしてみて、異常がないことを確認する。

その間に何度もガラスが割れる音と、沢山の人の悲鳴が聞こえた。



「………行くか」



頭の中でもう一度羽のイメージをして、飛び上がる。

割れた2階の窓の中へと飛び込み、氷と炎の壁が無い事に気づく。

自分が気を失った所為で消えてしまったのかもしれない。壁があったはずの場所に、壊れたガラスの欠片が散らばっている。


壁の向こうに居たはずの皆が心配になった。



「無事だといいけど…兵士が向こうに行ってるから、こっち?」



廊下の天井付近を飛びながら、兵士の上を飛んでいると、指を指されながら驚かれた。

まぁ、驚くのも分かるけど……さっさと走りなさいよ。

仕方なく兵士全員に速度増加を唱えると礼を叫びながら走り出した。

私は軽く手を振って答えると、見覚えのある姿が見え、速度を上げて飛ぶ。

あの黒い物の姿も見えた。



『どうして邪魔をなさるのですか……?』



何故か声が震えているように聞こえた。

黒い物の目の前には、クオとエリク様が並んでいた。後ろからアリアちゃんが涙目で震えている。

私にはまだ気づいていないようだ。

クオが一度睨むと、黒い物は体を震わせ、よろよろと後ろに下がる。



『どうして……どうして、その女を庇うのですか…』


「この娘は関係ない。過去の出来事を今を生きる者に復讐するなど、馬鹿馬鹿しい」


『その女は……』


「いい加減にしろ…っ!この娘は彼女ではない。子孫であって、彼女本人ではない」



そう言うクオの顔は悲痛に歪んでいる。

大事な人だったんだろう。その顔を見ただけでそう思った。

黒い物はクオの言葉に、体をさらに震わせた。そして、震えが止まると同時にアリアちゃんの後ろの窓が割れた。


その音に皆が気を取られている内に、黒い物が動き、瞬時にクオを絡め取った。



『貴方様は、私だけの愛しい人。敬愛する人。誰にも渡さない。誰にも渡さない』


「クオさん!!」



アリアちゃんが叫ぶ。それと同時に黒い物の上空まで飛び、羽を消して急降下した。

もちろん、声は男のアシュリードとしての自分に変えておく。



「今さっきから……僕だけのとか私だけのとか、五月蝿いんだよ!!」


『きゃわっ!!』



落下する勢いのまま、黒い物の顔面に蹴りを入れてしまった。ついでにクオを抱きかかえ、アリアちゃんの前に立つ。

実は結構イライラしてたんだな、と思った。黒い物が床に倒れて、ピクリとも動かない。

これはやりすぎたかなと抱きかかえたままのクオを見る。



「クオ、大丈夫?」


「…………」



反応が返ってこない。表情は俯いてて分からないが、頭から耳がピョコンと飛び出て動きまくっている。

後ろを振り返ってみると、エリク様とアリアちゃんが目を見開いたままポカーンと口を開けていた。

エリミアとシュラには何故か親指を立てて、「グッジョブです」「ぐっじょぶ~」と言われた。

その後ろからゆらりと現れた黒い物の半身。今にも襲い掛かろうとしている。

姿を見た瞬間、クオを抱えたままエリク様とアリアちゃんの間をすり抜けて、感情の赴くままに行動していた。



「弱い子供を不意打ちで狙おうとするんじゃねぇよ!」


『ぐほぉっ!?』



黒い物の顔面に勢いよく飛び蹴りを入れた。床に落ちる瞬間、踏みつけるのも忘れない。

動けないように黒い物の体を足で止めつつ、床にクオを下ろす。



「クオ、耳が出てる」


「……!!す、すまない…」



ようやく気づいたのか、慌てたように耳を手で隠し、元の黒髪執事に戻った。

クオの様子に苦笑しながら踏みつけたままだった黒い物を摑むと、もう一体も摑み、エリク様の方へ顔を向ける。



「こいつら貰ってもいいですか」



そう言うと、エリク様は一瞬目を見開いて次の瞬間、ニコリと微笑んだ。周りの人たちがザワザワと騒ぎ始める。

少し考えがあるから欲しいだけなのだが……そこまで驚くことだろうか。



「冗談言わないでください。そいつらはすぐに消します」


「消すぐらいなら私にください」


「魔物はすぐに消さなければいけないんです」


「そんな事、誰が決めたんです?王様でしょうか。それとも女神様でしょうか」



今度はこちらが微笑みながら伝えると、反論ができないのか顔を手で隠して、大きなため息をついた。

やれやれと少し困った表情のまま、彼は投げやりに言った。



「……好きにしてください。ただし、責任は自分で取ってください。いいですね?」



さすがに罪悪感を感じながらもその言葉に頷き、頭の中で透明なガラス玉を思い浮かべ、黒い物達を包むように魔力を広げる。

魔力は私が考えていたとおりに形を変え、黒い物を入れた丸いガラス玉になった。

それを抱え、エリク様の前に膝をつく。



「私の様な者の願いを御聞きくださり、真にありがとうございます。この御恩、近い内に必ず返します」


「楽しみにしておきましょう」



エリク様はそう言うと、兵士達に号令をかけ、どこかへと姿を消した。

一度アリアちゃんを振り返って見ていたけど、兵士に名前を呼ばれすぐに走って消えていった。

立ち上がってその姿を見送っていると、横にいたアリアちゃんがいきなり頭を下げた。



「アリアちゃん?」


「……助けてくれてありがとう、ございました。もう大丈夫です…お兄様のお手伝いに行ってください」


「何で?」



私の言葉にアリアちゃんは下げていた頭を上げ、驚いた表情を見せた。



「えっ……だって私を助けてくれたのはお兄様の命令じゃないんですか?」


「違うよ。私は自分の意思でアリアちゃんを助けたんだよ。そりゃあ、きっかけはエリク様だけど」



頬を掻きながら私は苦笑する。

確かに最初のきっかけはあの伝言だったが、状況が全く違ったから関係はないのかもしれない。

あの伝言を聞いたとき思い浮かんだのは、ベットで横たわるやせ細った少女の姿。

事実は、健康体ではあったが精神が壊れかけていた幼い少女。

医術には詳しくないから私には助けることができないかと諦めていたが、彼女の姿を見て助けたいと思った。

私の言葉に、目を泳がせながら内心慌てている様子の彼女の頭を、髪がぐしゃぐしゃになるくらい撫でる。



「ふひゃぁっ」


「ははははは、まずアリアちゃんは甘え方を覚えないといけないかな」


「甘え方……?」



首を傾げる彼女の頭から手を離すと、私はエリミアにガラス玉を預け、床に膝をついて腕を横に広げる。

何をしていいのか分からず立ち止まったままの彼女の背を、後ろからクオが押した。

そのまま私の腕の中にポスンッと入ってきた、アリアちゃんの小柄な体。

柔らかなその体をぎゅっと強く抱きしめる。



「怖かったね。今は私達以外誰もいないから、泣いてもいいよ?」


「っ……」



幼い身で必死に感情を殺してきたんだろう。

エリク様達の後ろに隠れていた時、ずっと体が小刻みに震えているのが遠めでも分かった。

自分は怖いはずなのに、周りに迷惑をかけたくないから、泣く事は無かったけどその顔は泣きそうにずっと歪んでいた。

抱きしめている今でも、ずっと震え続けている。



「大丈夫、泣いても隠してあげる。だから今だけ、思いっきり泣きなさい」


「……ふぇっ」



泣き出せば後は早かった。

私の胸にしがみついて嗚咽を飲み込みながら、瞳から涙を流す彼女。

私は彼女の頭を撫でながら、彼女の前髪を上に上げて顔がよく見えるようにした。

彼女の左頬の傷にそっと触れながら心の中で治る様にと祈る。

せめて、痕があまり目立たないようになって欲しいと願う。


すると、彼女に触れていた掌から淡い緑色の光が漏れ、彼女の傷に沿って動き始めた。

本人は気がついていないようで、ずっと泣き続けている。

私は驚きながらもその光をじっと見ていると、徐々に傷のあった場所が小さくなりだした。

元の綺麗な肌に戻っていく。光が消えるとそこにあったのは、傷なんてあったのかと思うほど、綺麗な白い肌だった。



「アリアちゃん、ちょっと目を見せてくれる?」


「ぐすっ……ぁい」



涙を流して赤くなった顔を服の裾で拭い、彼女の左目の目蓋をゆっくりと開く。

すると、そこにあったのは最初出会った時に見た黒く染まった目ではなく、綺麗な青の目だった。

右目の方も確認して、同じ碧眼になっている事が分かった。

これで、彼女本来の姿に戻ったと安堵した途端、体から力が抜けた。

後ろに倒れそうになるのと同時に、後ろから誰かに受け止められた感覚がした。

ゆっくりと顔を上げると、すぐ傍にリュナミスの顔があった。

どうやらようやく追いついてきたらしい。その証拠に走って来たのだろう、髪や服装が乱れ、息が荒い。



「どうして俺は、毎回お前が倒れかけている場面に出くわすんだろうな」



そう言った彼の表情がいつもの無表情ではなく、泣きそうな顔に、私は胸が締め付けられた。

冗談でも言って笑顔にしたいのに、なかなかすぐに思いつかない。

心配そうに私の顔をのぞいてくるアリアちゃんや、エリミアやクオ達までもが泣きそうな顔になっている。

せめて言いたいことだけでも言っておこうと、だるい体を少し動かし、クオへ顔を向ける。



「クオならエリク様の場所、わかるよね。本当は私が行きたいんだけど、アリアちゃんを連れて行って」


「アシュリードさん……」



戸惑いと不安を隠せないでいるアリアちゃんの頭を、ポンポンと軽く叩く。



「アリアちゃん、お兄ちゃんに思う存分に甘えてきなさい。仕事の邪魔をしてもいいから、ね?」


「それは駄目だと思うが……承知した。この娘をあの小僧の下へ連れて行こう」


「よろしく~…。エリミア、シュラちょっとおいで~」



私が手招きをすると、二人とも不思議そうに首を傾げつつも私に近づいてきた。

腕が届く範囲に入った瞬間、私は二人を同時に抱きしめ、廊下の床に転がる。



「んなっ!?お前、何考えてるんだ」


「んぅー…だるいし眠いので、ちょっと寝ようと思います~…」



廊下の窓から入ってくる日光がぽかぽかとして、眠い。

うとうとしながらごろごろと窓の傍へ転がると、そのまま目を閉じる。

耳元でくすくすと笑うエリミアとシュラの声が聞こえ、呆れてため息をつくリュナミスの声が聞こえる。



その声を聞きながら、私は眠りにつく。



「………こんな場所で寝る奴が居るか?」



最後に聞こえたリュナミスの声に、(ここに居ます)と笑いながら心の中で言った。

人の温もりを感じながら、それを最後に私は眠りの世界へ誘われた。









結局、零香を助けた人は誰か分かりませんでしたね。

一応これで王都編は半分です。もうちょっとだけ続きます。


次は1周年記念話をあげる予定です。



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