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Dolls  作者: 夕凪秋香
2章 リュクシア王国
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王都エ・レーラ1-3


新年、明けましておめでとうございます。

新年最初の話が、ものすごく重い話です。すみませんorz

あぁ…早くほのぼのした話が書きたいです……(=ω=;)






彼女の片目を見た私は、少しだけ泣きたい衝動に襲われていた。

同情から来るものなのかは分からないが、何故か少女の姿を見てそう思ったのだ。

顔にその感情が出ていたのか、少女は驚くように目を見開いて、次の瞬間泣きそうに口を歪ませた。



「……貴方は怖がらないのね」



その言葉に私はただ微笑むを返した。

怖いという感情は無い。まだ幼い少女が悲しそうに微笑む姿が痛々しくて、自分の昔の姿と重なって、ただ悲しいという感情しか自分の中にはない。

少女は前髪を元に戻し瞳を隠すと、胸元にベットに転がっていたピンクのウサギのぬいぐるみを引き寄せて抱きしめた。

ウサギのぬいぐるみは長年愛用している物なのか、所々布がほつれていた。



「………お話、聞いてくれる?」



不安なのか声が震えている少女に、その傍らに寄り添うように座り黙ったまま頷いた。

少女は嬉しそうに口を緩ませ、ポツリポツリと話し始めた。



「……わたしね、少し前までは普通に学校に通っていたの。目もあの時まではこんな風じゃなかったの」



少女が話し始めたのは、数ヶ月前の話だった。

彼女は魔法学校に通っているらしく、その学校での生活と兄と話す時間だけが王族ではない、自分自身で居られる時間だったと言った。



「……学校では、貴族や王族や平民なんて関係ない。実力だけで見てくれるから…気が楽だった」



その事だけはありがたかった、と彼女は言った。

私は時々相槌を打ちながら、だが彼女から視線を外さないまま真剣に彼女の話を聞き続けた。



「……わたし、学校でね、好きな人がいたの。優しくって皆から好かれてる男の子。お友達だったの」



そういう彼女は少し明るい声でその男の事を話してくれてた。

平民だけど、貴族や王族なんて関係なく誰とでも隔たりのない二つ年上の男の子。

甘い物が大好きで、よく彼女は花の砂糖漬けや珍しい蜜水晶と呼ばれる物をプレゼントしていたらしい。彼は喜んでくれた。

もちろん、彼は女の子にモテたが彼自身はあまり興味が無い様で、いつも適当にあしらうだけだったらしい。



「………でもね、彼は女の子に興味なかったんじゃないのっ」



彼女は授業の合間にある休憩時間に見てしまったらしい。

廊下の普通に歩いていたら気付かない隅の方で、自分の恋を知っていた親友と長い時間口付け合う、彼の姿を。

そして、衝撃的な言葉を耳にした。



『どう、上手くいきそう?王女様と恋人になるのわ』


『上手くいきそうだ。後はあちらの動きを見て、こちらが動くだけさ』


『ふふ、そうよね。相思相愛だもの。絶対に成功するわ』


『ハッ……相思相愛なんて。俺が本当に愛してるのはお前だけなのに』


『そうね、もう少しの我慢よ。王女から金品を貢いでくれる日が来るまで、ね?』



そう言って笑いあう親友と彼の姿に、彼女はその場から逃げ出したらしい。

親友だったが、姉の様に信頼していた人と初恋の人の裏切りに彼女は絶望したらしい。

聞いているこちらとしては、まだ幼いのにやけに大人びた行動だなーと口が自然と引きつっていたが、15歳で結婚できるという事を思い出すと、精神年齢が高いだけかと無理やり納得した。



村に居た頃に散々、小さい頃からのトーニャ夫婦の惚気話を本人さん達から聞かされていたから、こちらの普通の恋愛は分かってはいるつもりだ。

あの夫妻の惚気話はうっとうしかっただけだったけど、さすがにこれは聞いていて複雑な気分になった。



「……本当に好きだったの。二人共わたしにとって、とても大切な人だったのっ。だけど、殺してしまいたいと思ってしまった!!」



彼女は声を震わせながらも必死に話を続けた。その姿がどこか儚げで痛々しくて、私は自分が苦い顔をしているのがわかった。


彼女はその日の夜、ある夢を見たらしい。

目覚めたときには微かにしか覚えていなかったが、白い羽と黒い羽だけは覚えていて、不思議に思いながらもいつも通り学校へ向かった。


そして、彼女は昨日と似たような光景を見てしまった。昨日とほぼ変わらない彼らの話と、授業や昼食の時親しげに話しかけてきた彼らに、少女はさらに絶望した。



「そうしたらっ、いきなり目が痛くなって思わず声が出ちゃったの。もちろん、その声は聞かれた。わたしの姿を見たら、なんて言ったと思う?」



彼女のその問いに、零香は首を横に振った。

すると少女は一度俯いて、勢いよく顔を上げる。その拍子に前髪がずれ、彼女の黒い瞳が丸見えとなった。



「『ただのお飾りの役立たずの王女様じゃないの』ですって。確かに、わたしはお兄様やお母様達とは全然違って、綺麗じゃないし魔力もほとんど無いに近いわよ。そんな事、自分でも分かってるっ!!飾りだって言われてもしょうがないって、思ってる!」


「っ!くるしっ…」



いきなりぬいぐるみを投げ捨て、首を掴んできて少女とは思えない力で絞めてくる彼女に驚きながらも、彼女の言葉に耳を傾けた。

腕を外そうとすれば簡単に外せるが、それしか今の自分には出来ないと思ったから。



「だけどっ、だけど……大好きだった人から、大切だった人からそんなこと言われるとは思ってなかった!だから、咄嗟に言っちゃった。死ねばいいのにって、わたしの前から消えればいいのにって!!」


「うっ…」



さらに首を絞められ、息ができないくらい苦しくなってきた。

体から力が抜け、体がベットに倒れると少女が上に乗ってきて、さらに首を絞める手に力が込められた。

朦朧とする目を必死に開いていると、頬に温かいものが降ってきて驚いて目を見開く。

少女は泣いていた。震えながら彼女は泣いていた。



「そしたらね?わたしの目から草が生えてきて、二人の体を締め付け始めたの。驚いて地面に座ったら、わたしの影からあの子が生まれてた。あの黒いやつ」



少女がそう言うと、黒い物がにゅるんと近づいてきて彼女の肩辺りで止まった。



『黒いやつって言わないでよね~。まぁ、そうとしか例えられないか~』


「でね、この子が言ったの。『初めまして、僕のお姫様』って。魔物にしか見えないのにわたしは何故か怖くなかった。襲ってこないだろうって、心の中で確信してた」


『そりゃあ、僕は襲わないわよ~。お姫様を襲う騎士なんて、いないでしょ?』



そう言ってけらけら笑う黒い物に、少女は私の首から手を離して黒い物を撫でた。

撫でるその手に擦り寄る黒い物がまるで忠犬のように見えて、少しおかしいと思った。

魔物って、人間を餌としか思っていないと誰かが言ってはいなかったか?



「この子とわたしの目を見た瞬間、二人は化け物っ!て叫んだの。今は自分でもそう思う。だけど、人の心の黒い部分を見た気がして二人の事をまだ信じてたけど………」


『お姫様に頼まれたんだ。消してって……だから僕が食べちゃった♪まずかったけどね~』


「食べた…?」



その言葉に、魔物になったレナードの母親の姿が思い浮かんだ。

彼女を切った瞬間流れ込んできた記憶の中に、人の体を貪り食らう彼女の姿があったのを思い出す。

そういう意味なのだろうか。と黒い物を見ると、それはくるくる回りながら私に近寄ってきた。



『そう!食べたの。あいつらの体も記憶も存在も。僕が食べちゃったから、あいつらの家族でさえあいつらの事を覚えてないんだ♪最初から居なかった事になってる』



消したと同じでしょ~?と耳元で囁いてきた黒い物に、背筋が寒くなるほどの殺気を感じて、思わず後ろに後ずさる。

追う様に少女と黒い物が近づいてきて、ニコリと微笑んだ。

前髪の間から見えている目は赤黒く光り、目から生えている蔓が同じ色に染まっている。



「……貴方も今までの人と同じ様に、わたしの事化け物と思った?」


『僕のお姫様を化け物なんて言うやつは、僕が痛みも無く消してあげるから、安心してね~』


「………ねぇ、正直に教えて。わたしの事、どう思う?」



問いかけてくる少女と殺気を隠そうともしない奴に、どう対処しようものかと頭を抱えながら悩んでいると、ベットの下から物音がしているのに気が付いた。

ん?と思い、ベットから降り床に耳をつけて確認してみる。その様子を、ベットの上から少女が首を傾げたまま見つめる。



「………から………だ?」


「……い。………で………おも………」


「んー…微かにしか聞こえないけど、聞き覚えのある声……」



ついさっきまで傍にいたクオとエリミアの声だとすると、嫌な予感しかない。

急いで指輪の機能をオンにして彼らの名前を呼ぶが、集中しているのか全く返事が無い。

てか、今まで私の呼びかけには必ず応えてるエリミアでさえ返事がないということは………。



「何かとんでもない事をするに決まってるっ…!あぶないかもしれないから、こっちおいで」



ベットの上にいる少女の腕を引っ張って胸元に引き寄せて、抱きしめる。

ポスンッとでも聞こえそうなほど簡単に腕の中に納まった少女は、目を見開いて私の顔を見た。



その数秒後、私にとって予想通りのことが起きた。




ドゴーンッという音と共に目の前にあったはずのベットが、一瞬でどこかに飛んでいった。

ついでにいうと、ベットの周りを囲っていたあの黒い奴もついでにどっかに消えた。

目の前にあるのは、床に開いたキングサイズのベットほどの穴と、呆然とその穴を見つめる少女の姿。




ベットが飛んでいった勢いで体中に付いた木屑を取ってあげたり、風で崩れた少女の髪を直してあげながら、私はどこか遠い場所を見るような目で穴を見ていた。



「あぁー……絶対修理費払わされそうな気がする……はははははは」



今の私には乾いた笑いぐらいしか出なかった。









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