王都エ・レーラ1-2
更新が一ヶ月以上も遅くなってしまい、申し訳ありませんorz
この更新の前に活動報告のほうに、クリスマスの話をあげておきました。
気になる方はそちらもどうぞ。
衝撃の出来事を伝えられ、唖然としている殿下を見ているとリュナミスが切迫した様な声でセーシェルに強く言い放った。
「何故そんな重大な事を早く言わないっ!」
アシュリードの気持ちを代弁したかの様な彼に、セーシェルは勢いよく頭を下げた。
その肩が小さく震えているのをアシュリードはリュナミスの後ろから、しっかり見た。
「も、申し訳ありませんっ!お伝えしようとする前にお二方が話し始めて、口を挟もうにも挟めなかったのです。どうか、お許し下さいっ」
つまり、上の立場の方々が口喧嘩を始めてしまい、伝えようにも自分の立場では止められないから途方にくれていた。
と、いった感じだろうか。
その言葉にはリュナミスも向こうの男も苦い顔をしている。
そんな彼らに呆れ顔のクオとエリミアに手を引っ張られ、隊列の後ろへ戻ろうとしていた時それは起きた。
「殿下お待ち下さいっ!お一人で行っては王都の近くとはいえ危険です。殿下!」
後ろを振り返ると、一人で先に王都へと向かう殿下の後ろ姿が見えた。
その後ろを追いかける様に兵士達が走るが、馬の速度には到底追いつけない。
「クオ、エリク様の馬に追いつける?」
見上げながら言うと、彼は不敵な笑みを浮かべ私の体を持ち上げた。
私の腕にエリミアが飛び込み、シュラがクオの肩に乗るとクオが軽く足踏みをして
「マスターを得た我にとっては、造作も無い事だ。すぐに追いつく」
「はいはい、そうです……ひゃぁっ!?」
一気に空へ向かって跳躍した。
傍にいた騎士団の面々が豆粒の大きさぐらいに見える高さまで来ると、クオはフードを取りじっと前方を見て一度瞳を閉じた。
「……マスター、一度力を解放する。放すぞ」
「ちょっ、まっ!」
私が了承するより先に、クオは私から手を離した。
当然、徐々に速度を増しながら地面に向けて落下し始める。
予想できなかった今の自分の状況に、私は涙目になりながらも必死にしがみ付いてくるエリミアを放すまいと、自分のローブの中に入れて抱きくるんだ。
そして、力一杯叫んだ。
「クオの馬鹿ぁああああああああああああああああああああっ!!」
下にいた人達がその声に気づき、悲鳴を上げたり慌てた表情をみせる。
後数100mで地面にぶつかると確信した私は、ぎゅっと瞼を閉じて覚悟を決めた。
だが、その必要は無かったようだ。
『女性に馬鹿と言われたのは初めてだ』
「!!」
聞きなれた声が聞こえ、体全体に受けていた風が急に途絶えた。
驚きながらもゆっくり瞼を開くと、背中に温かい感触と白い9本の尻尾が見えた。
勢いよく起き上がってみると、クオがこちらを見ながら街道を凄まじい速さで走っている。
だが、風は全く感じない。
「…はぁ…せめて元に戻るなら一言欲しかった」
『我は確かに言ったぞ?解放すると、そう言ったでわないか』
そう言いながら首を傾げるクオの頭を、私は拳で力を込めて殴った。
だがあまり痛くなかったのか、彼は前を向いて普通に走り続ける。
やり場の無い怒りをどうしたものかと考えていると、ふとある事に気付く。
「……シュラは?」
『………………………忘れておった』
暫し辺りを沈黙が支配し、それは私の懐から抜け出したエリミアが声を出すまで続いた。
「―――――えぐっ、ひぐっ、ぐずっ」
「…すみませんが、この子を如何にかしていただけませんか…」
「ごめんなさい、ごめんなさいっ」
何故私が謝っているのかというと、追いついた殿下の頭にシュラがしがみ付いていたからだ。それも大泣きしながら。
さすがにこの状態で馬に乗って移動するのは難しいと考え、早歩きで移動していたところに私達が追いついて来た、という事だ。
「シュラ、おいで」
腕を伸ばしながらそう呼ぶと、腕の中へ勢いよく飛びついてくる。
頭を撫でながらぎゅっと抱きしめると、シュラは涙目のまま安心した様な笑みを浮かべた。
もう一度頭を撫でると下にいたエリミアの方へ下ろして、クオの方へ向く。
顔はもちろん、満面の笑みで。
「クオ、後でお仕置きね」
わざと明るい声でそう言うと、クオは殿下の後ろに隠れながらも何度も頷いた。
まぁ、殿下より体が遥かに大きいため全然隠れてはいなかったが、反省している事が分かったため追加で何かを言うつもりはない。
うっとおしそうな顔でクオを見る殿下に、自然と笑みが浮かんだが今は急いだ方が良いと彼の背中を押す。
驚いている彼を勢いをつけてクオの背中に乗せて、その後ろに自分も飛び乗る。エリミアとシュラもクオの頭から乗った。
「アシュリード、何を」
「エリク様の馬よりクオの方が速いです。エリミアに城まで転移してもらうまで…クオよろしく」
『承知した。しっかり摑まっておけ』
クオはそのまま助走をつけずに空へ飛んだ。少し浮遊感がしたが、すぐに落ち着いて王都の上空まで高く昇っていく。
落ちないようにしっかりと殿下の服を掴んでいると、エリミアが不満そうに頬を膨らませた。
「ん?どうしたの、エリミア」
「なんでもないです。城で降りれる場所を確認しました。転移の準備を開始します」
ため息をついたエリミアを不思議に感じながら見ていると、不意に耳鳴りがし始めた。
高い音が頭の中に響き、思わず両手で耳を塞いでいた。まるで人間の悲鳴の様な耳鳴りに顔をしかめる。
だが、ただの耳鳴りではなかった。エリミアが転移の魔法陣を開いた瞬間、その音がさらに頭の中で強く響き始めたのだ。頭と耳が痛いほどに聞こえてくる音に耐え切れず、前にいる殿下の背中に倒れた。
そして、転移の魔方陣を通り抜けた。
「いやぁあああぁああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
転移した瞬間聞こえたのは、今までの音を全て消し去るほど甲高い女の子の声だった。
その声に目の前の男が周りを見渡しながら、叫んだ。
「アリア!?アリア、どこだ!」
「いやぁあああああっ!――なんて、嫌いっ!来ないで!触らないで!もう、いやぁあああああああああ!!」
女の子の声が響いた瞬間、頭上にあった窓の一つが割れた。
シュラが咄嗟に手を上に振り上げて土の屋根を作らなければ、反応が遅れてこの場にいた全員にガラスの破片が刺さっていたかもしれない。
私はシュラの頭を撫でると顔をこちらに向けてきたクオに、上を指差しながら頷いた。
私の指示通りにクオは土の壁を避け、割れている窓の方へとゆっくり上がった。窓はクオが余裕で通れるほど大きく、すんなりと中へ入っていった。
中の状況は最悪の状態と言っていいほど、深刻な状況だった。
部屋の壁は何か鋭い物で切り裂かれたような傷が幾つもあり、綺麗な装飾が施された家具や豪華な調度品は部屋のあちこちで壊れた状態になっている。
そして、部屋全体に広がる絨毯には所々血の跡が残っていた。
クオから降りた殿下は目を見開いて部屋を見渡し、その有様に呆然としている。
「これは…どういうことだ…」
「っ!誰っ!?」
今さっきから聞こえていた少女の声が、部屋の奥にあった天蓋付きのベットから聞こえてきた。声の持ち主の姿は、天蓋によって隠されている。
殿下が走りながら少女の方へと近づいていくと、ベットの周辺から『黒い物』が現れた。
彼が近づくたびに色濃く巨大になっていくそれに、彼自身は気付いていない。
その『黒い物』が一瞬動きを止め、先端をドリルに変え、彼に向けた瞬間私の体は自然と動いていた。
「―――エリク様っ!」
彼に駆け寄りながら手を伸ばし、振り返る彼の服を掴んで後ろへと引っ張る。
驚いて目を見開いた彼の顔が横を通り過ぎ、彼を狙っていた黒い物が私の目の前まで迫ってくる。避ける事はできない。咄嗟に目をつぶり、腕を顔まで上げる。
が、いつまで経っても痛みは襲ってこなかった。不思議に思い、恐る恐る目を開くと
『あらあら~?これは可愛いお客さんだこと。食べちゃいたいわね~♪』
黒い物がくねくねと動きながら、顔に近づいた状態で言葉を話したのである。
思わず口が開いた。が、その後の予想外な行動には反応できなかった。
『この子ならいいかしら~?』
「………連れて来て」
ベットの方を振り返った黒い物に応えるように少女が返事をしたのだ。
そしてこちらに顔?を戻した黒い物がいきなり腰に巻きついてきて
「ふぇ?」
『大丈夫よ~。別にとって食べようとは思ってないから~。お邪魔ムシ無しでお話がしたいだけよ~』
そう言って一瞬にして天蓋の中に放り投げられた。
勢いよく顔が布団にぶつかり慌てて起き上がりながら後ろを振り向いたが、黒い物がベットの周りを囲むように覆ってしまったため、逃げることも出来ず、向こうの様子が全く分からない。
魔法を唱えようとしても、思惑が分かったのか、黒い物に両腕を縛られ体をベットに圧しつけられたため唱える事も、身動きする事さえ出来ない。
頭の中で想像して唱えようとしても、何故かノイズが聞こえ、そちらに意識がいってしまう。
『さぁ、ボクのお姫様。今回のお相手はお気に召すかな?気に入らなかったら僕が食べちゃってもいいよね、ね?』
楽しげな声が耳元で聞こえ、頬に柔らかく冷たいものの感触がした。
そっと優しく触れてくるその感触がくすぐったくて、小さく笑ってしまう。
「ふふ、くすぐったい」
「………放して」
少女の声に不満そうな声が聞こえてきた。そして体を締め付ける感覚が無くなり、ゆっくりと体を起こすと目の前に薄緑色の髪を持った小さな少女が座っていた。
長い前髪で瞳は見えないが、整った顔の輪郭と体の体型で美少女だということが分かる。
彼女は口だけでニコリと笑うと、腕を伸ばしてきて頬に触れてきた。
されるがままで頬を撫でられていると、突然彼女が顔を近づけてきて
「…………貴方はどうかな?」
自分の前髪を少しだけ左に動かした。
前髪で隠されていた彼女の左半分の顔には、額から左頬に掛けて大きな傷があり、瞼は閉じられている。
その瞼が開いた瞬間、零香はその瞳から目が離せなくなった。
少女の瞳は全てが黒く染まっており、その中心から緑色の蔓が生えてきたのだ。
その蔓が零香には、まるで彼女が涙を流しているように見えた。
これが今年最後の更新になります。
皆様、どうか良いお年を!来年もどうかよろしくお願いします。