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Dolls  作者: 夕凪秋香
第1章 クロッカス村
33/51

旅支度


ようやく時間に余裕が持てるようになってきたので、更新が少し早くなります。







昼食のあの出来事から次の日、零香は朝早くから起き上がり、荷物の準備を始めていた。

エリミア達は別の部屋で眠っているため、部屋には一人しか居なかった。

王都に付くまで、民家のある村は全く通らないらしく、ベットで寝るのは王都に付く4日後になるらしい。

だから、エリミア達はそれぞれ一人ずつ広々としたベットで寝かしつけた。



王都に付いたら、まずは王城に行って王と謁見をして、魔術師に任命してもらう。

そうしたら、次の日から騎士団の魔術師として働く事になる。

一度、魔術師としての実力を試されるらしいが、大丈夫だろうと皆口をそろえて言った。


仕事内容を聞いてみたら、命が危険になる仕事が多いが充実した生活を送れるだろう、と王子に言われた。


零香の目的は別だったが、給料がある事と無料の部屋(キッチン、トイレ、シャワー付きの個室)を借りる事が出来る、という事で少し悩んだが承諾した。



「よしっ。荷物は全部詰め終わった」



少ない荷物を全て詰め終えて、動きやすい服装に着替える。

ワイシャツにジーンズに着替え、パルサーシャから貰った皮の靴を履く。

髪はいつも通りポニーテールに結い上げる。

後は出る時に、買っておいたマントを羽織れば旅支度は万全だ。


背伸びをしながらそのままベットに倒れこむと、これからの事について、考えを簡単にまとめる。







まずは、王都で魔術師として働く。ただし、性別や容姿は偽る。

女性より男性の方が何かと便利だし、この黒髪は目立つ。クオやシュラがいるからまだマシかもしれないが、用心に越した事はない。


自分は目立ちたくない、という気持ちがある所為でもある。




そしてある程度お金が溜まってきたら、ある物を作ってみたい。


それは、人間そっくりの等身大の人形。


体は魔法で作るが、服などは自分で作りたい。

シュラの様なゴーレムの体に精霊が入っている、という物ではなく、ただの人形。

男性と女性の人形を一体ずつ作りたい。


元の世界だと、部屋が狭いし費用が掛かるしで諦めていたが、こっちの世界なら大丈夫だろう。



人形を作り終えたら、この世界でお世話になった人達にお礼をして、自分は姿を消す。

エリミア達は、その時に他の人に任せようと思っている。彼らの自由にさせる。

自分の身辺整理が終わったら、誰も居ない場所で一人で死のう。


魔術師としての仕事の途中で危険になったら、その時は周りの人を自分の身を盾にして守る。



それだけは心の中で決めながら、体を起こすと、扉を叩く音が聞こえた。







「どなたですか?」


「……俺だ。今、入っても大丈夫か?」



声の主はリュナミスだった。いきなりの登場に驚き反応が遅れたが、ゆっくりと部屋の扉を開くと、初めて会ったときの白い騎士団の制服を着て立っていた。

部屋に招き入れると、彼は窓辺に座った。



「突然どうしたんですか?まだ日も昇っていないのに…」


「お前のこれからの立場が決まった。それを伝えに来ただけだ」



その言葉に首を傾げる。すると、彼は窓からまだ暗い外を見て、ため息を付いた。



「殿下と話し合って、お前は俺達の隊に配属される。そして、俺の副官になる事になった」


「は?」


「俺の直属の部下になる、と言った方がいいか。女だろうがこき使うから覚悟しとけ」


「いや、あの、突然すぎて理解ができないんですけど!?」


「……そうだろうと思った。俺でさえ意味が分からないのだから…全く、殿下は何を考えているんだ…?」



そう言う彼は、眉間に皺を寄せながらふと視線を零香に向けた。



「…本当に良かったのか?」


「何をですか」


「騎士団に入る事だ。殿下はああ言ったが、お前が想像しているものより苦しい事は確実だ」


「他の人も苦しいなら、私だけ逃げる事は許されません。当然でしょう?」


「……お前は女だ。とても耐えられるとは思わない」


「みくびらないで下さい。女であろうと関係はありません。それに…女だろうとこき使うと言いましたよね?」




笑みを浮かべながらそう言うと、彼は目を見開いて、次の瞬間微笑んだ。

微笑んだ彼の顔は、安心したような顔をしている。

疑問に思いながらも、同じように微笑み返すと、あの事を伝えた。



「あ、私騎士団にいる間は男として行動するので、男として扱ってくださいね?」


「…はぁ?」



今度はリュナミスが問いかける方になった。

気が狂ったのか、と言われたが理由を説明すると納得してくれた。

が、それ以上に嬉しそうに見えるのは勘違いだろうか。



「何でそんなに嬉しそうなんですか?」


「…いや、これで害虫が寄り付かなくなると思うとな」



……なんとなく言いたい事は分かったが、あえて言わないことにした。

苦笑しながら付けていなかった契約の指輪を指にはめると、頭の中でエリミア達に呼びかける。



(皆、起きて)


(……おはようございます、零香)


(ふぁ~…おはよう、マスター)


(……)


(おはよう、エリミア、クオ。ちょっとシュラ起こしてきて?朝御飯作ろう)



反応が少し遅かったが、返事が返ってきたのを確認して、指輪の機能をオフに切り替える。

頭の中でスイッチを切るように意識すると、プツンという音と共に感覚が少し鈍くなる。

鈍くなった感覚を戻すために少し頭を回し、喉を意識しながら意図的に声を変える。



「少し早いですが、朝御飯にします?リュナミスさん」



零香の唯一の特技である。

親友のあの人に「零香の声って、あの声優と似てるよね!やってみて」と言われて、青年の声ぐらいは出せるようになったのだ。

それでも、声だけでは女性と間違われる事がたまにあるため、体の動きも指導された。


あの時は何を考えているんだ、と親友に言ったが、こんな所で役に立つとは思わなかった。


ついでに魔法で目と髪の色も変える。

少し金髪交じりの茶色の髪に、青色の目。髪を下ろして下に結びなおすと、完全に青年のように見える。


鏡を横目で見ながら、目の前にいるリュナミスに微笑むと、彼は一瞬戸惑ったが普段どおりに戻った。



「その姿の時には何と呼べばいいんだ」


「ん~…アシュリードでお願いします」



「アシュリード」とは、零香がゲームで使っていたキャラクターの名前である。

この見た目も、そのキャラクターを真似て変えてみた。さすがに肉体その物は変わらないが、見た目はそっくりだと思う。

長い髪を切ったら、さらに似てくると思う。



「アシュリードか…分かった。他の奴らにも伝えておこう」


「お願いします。リュナミスさん」


「…そのリュナミスさんって言うの、やめてくれないか?」



小さな声でそう呟いた彼に、零香―――アシュリードは首を傾げる。



「深い理由は無いんだが……そう呼ばれると、体が痒くなるんだ」


「はぁ…それじゃあ、呼び捨てにしても?」


「かまわない」



その言葉に頷くと、彼は満足そうな顔で部屋の外へと出て行った。

後を追うように半歩後ろを歩こうとすると、自然と早歩きになるのを隠しながら食堂へと向かう。



食堂の扉を開くと、勢いよく何かが顔面に飛びついてきた。

飛びついてきた、というよりも顔面に跳び蹴りをしてきた、という方が正しい。




「にぎゃぁあああああああああああああっ!!」


「ぐっ!?」


「「あっ」」



顔に硬い物が当たった。その痛さに、思わずその場に座って悶える。

不意打ちは、きつい。尋常じゃない痛みが顔を襲っている。

奥では何かが壊れる音と聞いた事の無いエリミアの声がする。取り乱している様だ。



「いやぁあああああああっ、消えろ、消えろ、消えろっ!!」


「えりみあ!おちついてよっ」


「マスター大丈夫か!?すまない、台所に黒いあいつが出て…エリミアがあんな風になってしまっているんだ」



あぁ、なるほど。

つまりエリミアは黒い脂ぎった、世間一般で言う「ゴキブリ」を見てしまって、あんなになっていると……。



まだ痛い顔を押さえ、指の隙間から食堂の中を見ると、確かにエリミアがハンマーを持って黒い物体に向かって振り下ろしているのが分かる。


ため息まじりに立ち上がると、近くにあった紙の束をクルリと束ねて棒状にし、黒い物体の通る道の先に立つ。


そして、ちょうど範囲内に入ってきた黒い物体を



「ていっ」



軽い掛け声と共に、手にしている紙の束で叩き潰す。

その行動に唖然とする男性陣を気にせず、次々と黒い物体を潰していく。

時々鼻歌を歌いながらリズム良く潰していく様に、エリミアも平常心を取り戻したのか、周りの光景を見てその原因が自分だと分かると、部屋の隅で落ち込んだ。



「最後の、一匹っと」



スパーンッという音と共に、この場から黒い物体は消えうせた。

残骸を他の紙の束で包むとそのままゴミ箱に捨てて、持っていた紙も捨てる。

手を軽く叩きながら食堂の入り口で固まっていた男性陣の方へ向くと、なぜかクオとシュラに熱を含んだ目で見つめられる。


意味が分からなくて、後ろに後ずさる。



「…かっこいい」


「男らしいな、マスター」


「え、これぐらい普通じゃない?」



その言葉に首を振る2人。リュナミスの方へと向くと、顔を隠しながら横に首を振っている。

もしかして皆苦手なんだろうかと思いながら、潰した黒い物体が張り付いた紙を近づけると、凄まじい勢いで後ろに下がった。

普段とのギャップに、思わず笑みが零れる。



「はははっ、もう死んでるから大丈夫だよ。ほら」


「「ぎゃぁっ!」」「ぅっ!」


「あはははははっ、私が平気なのになんで駄目かなぁ」


「「駄目な物は駄目だ」」「むりむりむりっ!しゅらたちでもこわいものは、こわいよっ」


「なんだか反応が可愛い。うりゃっ」


「「「いやぁああああああ」」」



女性の悲鳴の様な声を上げる男性陣に、楽しんでいたこちらも少し罪悪感が湧いてきた。

が、反応が面白いため、王都に出発するギリギリまで楽しんだ。

その光景を見ていたパルサーシャや復活したエリミアが味方に加わると、さらに男性陣は悲鳴を上げた。



悲鳴を聞きつけて兵士達がすぐに起き上がってくるが、事件ではない事にホッとして、それぞれ荷物をまとめたり、武器の手入れをし始める。


――――誰も彼らを助けようとは思わなかった。

理由、意外な一面が見れたし何より助けようとしたら、自分達が巻き添えをくうから。

あの黒い物体にだけは近づきたくない。全員が思った。








「はぁっはぁっ……そういえば、よく私が分かったね。姿変えたのに」


「魔力の匂いが同じだったからすぐ分かった。それにしても……マスター、髪の色だけは黒のままでいいだろう」


「どうせだったら全部変えたかったんだもん。あっ、男に見せるなら髪切ったほうが良いよね?」


「「「「「それだけは駄目」」」」」


「ついでに髪も戻しておけ。目だけ変えれば良いだろう」


「……わかりました……」



結局、髪は元の黒髪に戻り、目の色だけは青のままになった。

「目立つのは嫌なのに……」と呟いた零香――アシュリードに、周りの人間は無言で首を振って否定した。




目立つのは嫌、と言いながら一番目立つ行動をしているのはアンタだ。



その場に居た全員が思ったことである。
















意外に男らしい零香でした。


この世界でもあいつは出てきます。しかし、サイズは地球のあいつよりも3倍ほど大きいのが、この世界の普通です。


ちなみに「アシュリード」という名前は、実際に私がゲームなどで使用しているキャラクター名です。

気に入っている名前の一つです。



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