祭りの午後
ようやく更新する事ができました…
忙しくてなかなか小説が書けなくて、前回更新から一ヶ月も経ってしまいました。
お待たせしてしまい、申し訳ありませんorz
それでは、どぞ。
零香は興奮冷め止まぬ自分の体を抱きしめながら、居候させてもらっている家に戻ってきた。
エリミアの魔法で一瞬で戻る事が出来た。これならお菓子を沢山作る事が出来るだろう。
だけど、少しだけこの余韻に浸っていたい。
一緒に戻ってきた3人に食材などの準備を頼んで、着替えるからと言って、部屋に戻る。
自分の部屋の扉を後ろ手で閉め、寄りかかるようにして床に座る。
自分の胸に手を当てながら、深いため息を付いた。
そのため息は、満足感とほどよい疲れから自然と出ていた。
「はぁ………」
きちんと踊る事が出来たと思う。
アドリブを沢山入れすぎたかもしれないが、後悔はしていない。
青い薔薇を散らしたのも、瞳を閉じて踊っていたのも全てアドリブだ。
達成感で満たされた自分の体を一度抱きしめ、立ち上がって結んでいた髪を解いた。
装飾品も取って、ドレスからワイシャツとジーンズに着替え、ふと耳のピアスに触れる。
「……これはいいかな?」
舞台に上がる前、舞台の端で待機していたカミィラと応援に来ていたエリミアに言われて、ようやくこのピアスの存在に気付いた。
改めて鏡で見てみると、綺麗な桜の形のピアスだ。
「いつの間に付けられたんだか…」
お説教をされている時だとは気付かず、零香は髪を簡単に一つに纏めてゴムで結び、階段を下りていった。
ちょうどその時、玄関の扉を開いてメイド服を着たユーリリアが戻ってきた。
その手には大きめの紙袋を抱えて、彼女は片手に持った紙を読みながら扉を器用に閉めた。
「ユーリリアさん、おかえりなさい」
「っ…あ、レイカ様。先にお戻りになっておられたのですね」
「はい、ついさっき戻ったばかりですが…その紙袋は?」
彼女は紙をポケットに入れて、紙袋の中から小ぶりの肉まんの様な物を取り出した。
それは以前カミィラがくれたが、一瞬でエリミアに食べられてしまった「モルル」という物だ。
ほのかに湯気の上がったモルルを紙袋に戻しながら、ユーリリアはニコリと微笑んだ。
「外に屋台が並び始めたんですよ。それでレイカ様達の朝御飯にと思いまして、買って参りました」
「わざわざ…ありがとうございます」
あまり空腹は感じなかったが、貰える物はありがたく貰っておく。
頭を下げてお礼を言うと、彼女は驚いた様な表情を浮かべ、顔を背けた。
一瞬、苦しそうな顔をした理由は何だろうか。気になったが、彼女はすぐに食堂の方へ向かって行ったため、聞く事はできなかった。
「さてと…あっちの方はどうなってるのかな?」
先に台所へ向かったエリミア達を確認するため、食堂にある台所とは別にある、普段パルサーシャ達が生活に使っているという台所へと向かう。
来る事が分かっていたのか、台所に立っていた3人は作業を続けながら後ろを振り返った。
エリミアはカミィラの作ったピンクのエプロン、シュラは何もつけず、クオはコートを脱いでその上から白いエプロンを身につけていた。
黒髪に執事服、さらにその上からエプロンをつけているクオを見ると、よく似合っているなと思う。
ちなみに、クオに執事服という案を伝えたのはエリミアである。
クオは手元のボールの中身をかき混ぜながら、小さく笑った。
「マスターが遅いからもう焼き始めてるぞ?次の生地も用意してある」
「え、早過ぎない?5分ぐらいしか経ってないはずだけど…」
「5分も、ですよ。それよりも零香は作らないのですか?」
「作るよ。でも何を作ろうかなって思ってさ……エリミア何かいい案はある?」
そう問いかけると、エリミアは少し悩んで何か思いついたらしく、両手を叩いて微笑んだ。
彼女とは一度記憶を共有していたらしく、零香の知っている事や体験した感覚は覚えているらしいのだ。
「プリンなんてどうでしょうか?手軽で食べやすいですし、他の物と一緒に食べても美味しいです」
「ぷりんってなに?」
「柔らかくて甘くて、とても優しい味のデザートですよ。クリームを付けても美味しいんですよ」
「しゅらも、ぼくもぷりんたべたい!」
目をキラキラさせ、口から涎を流すシュラに微笑みながら頭を撫でて、頷く。
零香より何十倍も生きているはずなのに、ただの子供の様な表情を浮かべるシュラに、零香は満面の笑みを浮かべながら、頭を撫でる。
「大丈夫、ちゃんとシュラの分も作るから」
「マスター、我の分は無いのか?」「私の分もありますか?」
同時に訊ねてきた二人に、おかしくて笑いながら「ちゃんと二人分も作るよ」と言うと、まるで子犬のように目をキラキラさせて微笑んだ。
思わず、三人同時に抱きしめて頭を順番に撫でまくった。
本当に反応が可愛すぎて困る。まるで3人の母親になった気分だ。
「もうっ、ちゃんと作ってあげるから、他の作業は任せてもいい?」
「了解しました」「まかせて!」「うむ、任された」
「いい返事だね。だけど、クオ。その喋り方は見た目に合いません、喋り方も変えよう」
びしっと指差しながらそう言うと、一度たじろいで渋々言うような顔で、ボソリと呟いた。
「む…この数百年、この喋り方だからすぐには無理だ」
「すぐには無理でも徐々に変えて。お手本は…ミケルさんかな?」
「あの小僧か……分かりました。善処いたします」
一瞬で見事な紳士の礼をしたクオに、思わず拍手をしてしまった。
(だけど、ミケルさんを小僧よばわり……さすが精霊、価値観が違う)
本人は精霊だという事を気にしていないようだが。
むしろ普通の人とは価値観が違いすぎて、最初は変態だと思っていた零香だった。
今更になって、そう思っていた事に罪悪感を感じ始めた。
「どうかしましたか?マスター」
「いや、なんでもないよ。それじゃあ、プリンを作り始めますか」
「「「おーっ」」」
息ピッタリな精霊達と人形に、零香はもう一度顔に笑みを浮かべながら、内心複雑な思いで見つめていた。
プリンやエリミア達が作っていたマフィンが完成すると、ユーリリアが昼食の準備が出来たと呼びに来た。
一瞬、顔をじっと見られて頬を染めながら顔を背けたのは、無視しておこう。うん。
とりあえず騎士団全員分のマフィンは完成した。プリンの方は一応お世話になった人達の分は作り終えてはいたのだが……
目の前の惨状を見ると、ため息と謝罪したい思いが溢れてくる。
「あぁ、これも美味しい。それも美味しい。全部美味しいですっ!」
「……まぁ、味は良い」
「むふぉーーっ!うぐっ」
食堂に来て10分も経たないうちにできた皿の山。食堂の奥では慌しく動き続けるユーリリアの姿。
そして目の前の3人が、運ばれてきた皿の中身を一瞬で空にする様子。
思わずため息を付くほどの光景だ。実際、何度も付いてはいるがそれでも足りないぐらいだった。
「…遠慮を知らないというか…食料全部食べ尽くす気なの?」
「そのつもりですが」「そのつもりだったよ?」「ん?」
「二人は食料食べ尽くすつもりだったの!?ユーリリアさん、作るのストップ!」
「あっ、はい。それじゃあこれで終わりますわね」
そう言いながら、彼女はテーブルに人数分のスープを置いた。
ほっと息を付きながら、目の前で不満の声を上げているエリミアとシュラの額にでこピンを食らわせる。
2人共椅子ごと後ろに倒れそうになったのを、クオが器用に片手で抑えて元に戻した。
「食料を食べ尽くそうとした罰です」
「痛いです…」
「うぅ、あたまがぐらぐらする~」
何かボソボソ言っている2人を無視して、目の前に置かれたスープをクオに渡す。
嬉しそうに受け取ったクオを見ながら別の皿にあったモルルを一つ掴む。
最後の一つだったモルルを口に入れると、食べたことのある味が口の中に広がった。
(見た目もそうだけど、これ肉饅!?)
思わず感激してゆっくりと噛み締めながら食べた。
大好物の肉饅をまさかもう一度食べられるとは思っていなかったため、嬉しくて顔が緩んだ。
気付いた時には、その場にいた全員に加え、いつの間にか帰ってきていた王子やリュナミスにガン見されていた。
「…何か?」
そう言うと何故か全員が首を傾げた。何気に傷付くんですが、その反応。
ため息を付いてグラスに入っている水を一気に飲むと、横に置いておいたプリンを机の上に人数分並べていく。
それを待っていましたっ!という目で見てくるエリミア達に苦笑しながら、興味津々で見てくるユーリリアや王子とリュナミスに先に手渡す。
受け取った3人は、少し戸惑いながらも食べ方を教えると、すぐに食べ始めた。
そして、目を見開いて驚き始めた。
「とっても甘くて美味しいっ!こんな物、初めて食べましたわ」
「この前食べたあの『けぃき』と同じくらい甘くて美味しいですね。気に入りました」
「……私は少々甘すぎて苦手です」
三者三様な感想だったが、反応はまぁまぁな様だ。
ちなみに上からユーリリア、王子、リュナミスである。
実はこの世界、甘いお菓子という概念が無かった。
お菓子といえば、モルルやパンなど、いわゆる軽食がこの世界でいう、お菓子という部類に入るらしい。
蜂蜜やジャムまで有るのになんでお菓子が無いのだろうか、と思ったのだが、蜂蜜や果物は貴重価値が高いらしく、普通は貴族に売るのが主らしい。
で、その貴族達もそのままで食すか、料理の調味料として使用するらしい。
この家に揃っていたのは、王子が泊まるからという事で用意しておいた高級品だという。
ドレスの採寸の時に食べたクッキーは、実はクッキーではなくパンを小さく固めて焼いたものだと、パルサーシャから聞いた時には驚いた。
作ったときには、もちろん大人気だったが、一部の男性陣は苦手そうな顔をしていた。
反対に女性陣はとても生き生きしていたが。
この世界でも、やっぱり女性は甘い物が好きなんだなと思った。
微笑ましい光景に顔を緩ませながら、自分自身もプリンを食べていると、ユーリリアの手が途中で止まっているのに気が付いた。
「どうしたんですか?ユーリリアさん」
「……レイカ様、お願いがございます」
突然そう切り出してきた彼女の顔は、真剣そのものだった。だがその瞳は、悲しそうに見える。
食べる手を止め、彼女に向き直ると、周りも気が付いたのか静かになる。
「どうか、どうかわたくしを……最後までレイカ様をお守りする事ができない、わたくしをお許し下さい」
「ユーリリアさん…?突然どうしたんですか」
「わたくしは、本日で役目を終えてしまいます。終えれば、わたくしはレナード様の下へ戻ることになるでしょう」
確かに彼女は初めて会ったとき、「踊り子に仕立てるまで帰ってくるな」とレナードに言われたと聞いた。
そして祭りは無事に終わった。それならば帰るのが普通だ。
だけど、彼女は何か別の事を伝えたそうに、目を泳がせていた。
「……どうか、この村よりできるだけ遠くへとお逃げ下さいませ。できれば明日にでも」
「え、それは何故ですか。何故私は逃げなくてはならないのですか?」
「…わたくしは、レナード様の侍女です。ですが、それ以前に奥様の侍女でもあるのです」
「それがどうしたのですか?」
「……詳しい理由は言えません。ですが……」
彼女は唇を噛み締め、体を震わせながら俯いた。
そして、彼女は震える声で叫ぶように言った。
「わたくしはっ!レイカ様を死なせたくないんですっ、殺したくないんです!たとえ主人を裏切る事になろうとも、わたくしは……」
彼女は顔を上げると、綺麗な紺色の瞳から涙を零した。
唇が振るえ、いつもは大人びたユーリリアが年相応の表情を見せた。
彼女は、零香と同い年だ。年上に見えたのは、侍女としての彼女だからだったのだろう。
だけど、今ここにいるのはユーリリアという一人の女性だと思った。
「わたくしは…初めて仲良くなれた…友達だと、思える人を…失いたくないっ」
言い切った彼女は、限界が来たのか本格的に泣き始めた。
声を押し殺しながら泣き続ける彼女を見て、零香は椅子から立ち上がり、彼女の横に移動して、そっと優しく抱きしめた。
ビクッと驚いて泣くのを止めたユーリリアの頭を、ゆっくりと撫でる。
「ありがとう、ユーリリア。私を友達だと言ってくれて、嬉しい」
「……!」
「大丈夫、言われたとおりにするよ。だから、泣かないで」
「…レイカ様…」
「レイカって呼んで。だって私達、友達でしょ?友達に、様なんておかしいよ」
優しく言うと、ユーリリアはぎゅっと零香の胸にしがみ付いて、また泣き始めた。
零香は苦笑しながら彼女を抱きしめ、泣き止むまでこのままで居てあげようと思った。
二人の様子を見ていた他の人達はというと――
(…なんだろう。あの間に挟まれたい)
(殿下、犯罪者になるおつもりですか?)
(ふむ、それなら元の姿に戻った私なら大丈夫か)
(駄目に決まってるだろ。何を言ってるんだ、馬鹿狐)
(もっとたべたい~、たべたい~)
(俺の分やるから静かにしろっ)
(この状況…女と女の禁断の愛みたい!)
(お前まで頭おかしくなったのかっ。何だよ、女と女の禁断の愛って?!)
零香達を邪魔しないように懸命に暴走しまくる人達を止める、リュナミスであった。
それに気付いていた零香は、心の中で頭を下げまくった。
まだ忙しいため、10月は「Dolls」の更新がこれっきりになるかもしれません。
執筆はしますが、もしかしたら次回更新は11月になるかもしれません><
申し訳ございませんが、よろしくお願いします。
土下座したいくらいですorz