クロッカス村1-1
「………んっ……」
零香が目を覚ましたとき、目に入ってきたのは白い天井だった。最初まだ頭が目覚めていないのかぼーっとしていたが、自分の左手が誰かに握られているのに気づいた。横を向くと、手を握り締めていたのは、カミィラだった。眠っているのか、寝息が聞こえる。零香はカミィラを起こさないように、上半身をあげ、左手を抜く。そして、カミィラの頭を自分の膝に乗せ、零香に掛けられていたシーツを体に掛けてあげる。
「……ここ、どこなんだろう」
カミィラの頭をやさしく撫でながら、周りを見渡す。
周りにあったのは、タンスや窓にドアに蝋燭立て。小さな机に二つの椅子、机の上にはパンと水差しのようなものがあった。
「…怪しい場所じゃないよね、でもエリミアにあの人はどこに…」
「お呼びですか、マスター」
「ひゃぁっ!びっ、ビックリした…」
いきなり目の前に出てきたエリミアに驚きつつも、少し安心した。
エリミアは、机の上の水差しとパンの乗っている皿を零香の前に置く。
「お腹が空く頃だと思って、用意しておきました」
「あっ、ありがとう」
零香はパンを受け取り、半分に割って、一口サイズにしてから口に入れる。
「……普通だね……」
やっぱり異世界とはいえ、味はあまり変わらないことに少しがっかりしながら、一つ目のパンを食べ終えた。食べ終えると、エリミアがグラスに注いだ水を渡してくれた。その水を少しだけ飲み、エリミアに返す。
エリミアは、皿と水差しを机に置くと、零香の膝の上で幸せそうに眠っているカミィラの頭を
「……ていっ」
どこから取り出したのか判らない、小さなハンマーで叩いた。叩かれた瞬間、カミィラがバッと体を起こした。そして、まだ眠そうな目を手で擦る。
「…ふぁ~…まだ眠いよ…」
「おはようございます、カミィラさん」
「うん、おはよ~……って、目が覚めたの!?」
カミィラは、零香の体のあちこちを触りながら「どこも変じゃない?」「もう大丈夫?」「もう熱とかないの??」と質問攻めにしてくる。そして、またエリミアのハンマーで叩かれる。
「痛いよ、エリミアちゃん!」
「まだマスターは体調が優れていないのです。そんなにされてはマスターがまた倒れてしまいます」
「倒れた…?私、倒れたんですか?」
「いきなり熱が出て、急に倒れちゃったんだよ」
そういって、零香が倒れた後のことを二人は話し始めた。
カミィラの兄、リュナミスと二人は自分達の故郷、クロッカス村に着くと、自分達の住んでいる家に向かい、すぐにベットに体を横にしたらしい。熱があるようだったから、薬草を煎じた薬を飲ませ、一応一段落したらしい。カミィラは、また急変するかもしれないから、とずっと傍にいてくれたそうだ。その言葉を聞いて、すぐに零香はお礼を言う。
カミィラは照れて「どういたしまして」と言ってくれた。
「で、これからの事なんだけど、その前に自己紹介だね。アタシは、カミィラ・アルトバーン。で、アタシの隣にいた男の人は、アタシのお兄ちゃん、リュナミス・アルトバーンだよ。この家は、お兄ちゃんにアタシともう一人、パルおばさんの3人で住んでるんだ」
「わっ、私は樹新零香っていいます」
「レイカっていうんだ…何歳?あっ、待って!予想するから……18!!」
「ぶぶー、外れです。正解は、15歳でした」
「嘘っ!アタシと2つしか離れてない!アタシ、13歳なんだ」
「えっ、私同い年か少し上かと思ってました」
「うわ~、今まで周りに年齢が近い女の人って、いなかったんだ~。ものすごくうれしい」
そういって、カミィラは零香の両手を握って満面の笑みを見せる。その表情が、零香にとってとても大切だった妹と重なって、思わず彼女の頭を撫でる。彼女はうれしそうにまた笑みを浮かべた。零香も思わず笑みが零れた。エリミアは少し拗ねていたが、同じように頭を撫でてあげると、機嫌を直した。
「ねぇ、よかったら、お友達になってくれない?アタシ、友達って言ったら男の子ばっかりで…あっ、でもお姉ちゃんって言った方がいいのかな?」
「お姉ちゃんは遠慮したいです…お友達なら大歓迎」
「やった!それじゃあ、これからレイカと私はお友達だね!よろしくね」
「よろしくお願いします、カミィラさん」
「お友達なんだから、これから敬語はなし!これ、約束ね?」
「はっ、うん、分かったわ。カミィラ」
「よしっ、それじゃあアタシ、お兄ちゃんとパルおばさん呼んでくるね」
「それじゃ、また後で」と言って何故か右手にエミリアを抱えて、扉を出て行くカミィラに手を振る。パタンと、扉が閉まるのを確認した後、ここがどんな場所なのか知りたくて、ベットを抜けて窓から外を見た。太陽が出ていて、とても明るい。窓から、この家の下に小さな広場があるのが見えた。そこで子供達が元気に遊んでいる。皆、男の子ばかりだ。他の家の前で仕事をしている人も畑仕事をしている人も、井戸の前で話し合っている人も、年齢はバラバラだったが、皆、男性ばかりだった。女性は2、3人ぐらいしかいない。
(髪の色が赤や黄色、緑に青色とカラフルで面白い…)
考える事が的を外れている零香は、広場から目を離すと、遠くで何かが光っているのが見えた。
「……?……」
光はふよふよと動きながら、広場の外れにある家の後ろに消えた。色々な色をした光が、その家の後ろで姿を消す。そこには何があるのか気になって、思わず窓を開いて
「よっ、と」
5m以上もある家の2階から、飛び降りた。