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Dolls  作者: 夕凪秋香
第1章 クロッカス村
27/51

彼らの日常


今回は長いです。他の話と比べると、ものすごく長いです。

執筆中に書きたい事が増え、増やしていったらこういう結果になりました。


それでは、どぞ。



部屋に一旦戻り、背中に穴の開いたパーカーからゆったりとした水色のワンピースに着替えると、零香は食堂に向かった。

髪は何故か「結ばずにおいで」とパルサーシャに言われたため、下ろしたままだ。

本当は団子にして結んでおきたかったのだが、周りが有無を言わせない状況だったため、頷くしかなかった。

結ぶゴムは持っては来なかったが、髪が食事の邪魔にならないように留めるためのピンを、4本ほど持ってきた。



「さて、今晩の御飯は何かな♪」



ワクワクしながら食堂の扉を開くと、熱気と沢山の笑い声が一気に体に纏わりついてきた。



「あはははははは!!弱いねぇ、あんた達!こんなに弱かったかい?」


「パルサーシャさんに勝てる人なんていませんって!」


「もぅ、俺飲めない……うぷっ」


「おまっ、ここで吐くなよ!?」



酒ダルの上に座り、酒瓶のようなものを持って豪快に笑うパルサーシャ。

その周りには、彼女を盛り上げるように兵士達の一部が群がっていた。

他の兵士達は、黙々と食事しているか、それぞれの場所で話しながら、笑いあっていた。

少し呆気に取られ、入り口で立っていると、髪を一つにまとめエプロンを付けて机から机に忙しそうに歩き回っている、ユーリリアの姿が見えた。

どうやらもうここに馴染んでいるらしく、歩くたびに兵士達に呼び止められている様だった。

彼女の姿を自然と目で追っていると、端のほうに座っている目立つ姿の格好の人達を発見した。



「エリミア、クオ、シュラ」



彼らの名前を呼びながら近づくと、思わず彼らの顔を見て笑ってしまった。

クオは赤ワインのような赤い飲み物を平然とした顔で飲んでいるだけなのだが、エリミアとシュラは競い合うかのように口の中に沢山料理を詰め込んでいた。

まるで、餌を口に溜め込んでいるリスが2匹いるみたいだ。



「ももひょいでひゅや、らむか」


「もふーー!」


「はいはい、口の中を無くしてから喋ってね。お行儀悪いよ?」



クオの隣の空いた席に座り、クオに渡されたグラスに水を注いでエリミアに渡す。

エリミアはそれを受け取り一気に飲み干すと、一息ついた様子でナプキンで口の周りを拭いた。

そんな彼女の横には高く積み上げられた皿の山。

いまだにずっと食べ続けているシュラの横にも、同じ皿の山があった。



「すごい皿の山だけど、何皿ぐらい食べたの?」


「76皿ぐらいです。シュラと合わせると173皿になります」


「凄い食べたね……」



皿の山を見ながら唖然としていると、目の前にパスタの様な料理が出された。

横を見ると、カミィラがこの前のピンクのエプロンを付けて、笑顔で立っていた。



「ユーリリアさんと作ったんだけど、自信作だから食べてみて!」


「ありがとう、カミィラ。後、飲み物も欲しいんだけど何かオススメある?」


「口に合うか判らないけど、何個かあるからすぐ持ってくるね」


「うん、食べながら待ってる」



台所のほうへ走っていくカミィラに手を振り、零香は手を合わせてからパスタを一口食べてみた。

見た目はミートソースの様だったが、口に入れてみるとペペロンチーノの様なピリッとした辛さが広がった。

見た目と味のギャップに首を傾げるが、美味しいから問題は無い。

食べていると、すぐにカミィラが戻ってきた。手にはお盆を持って、鮮やかな黄色や青、赤紫やピンクの液体の入ったワイングラスを持ってきた。



「お待たせ~。さて、どれから飲む?」


「そのピンク色の…」


「これ?これはアーダっていう名前なんだよ。はいどうぞ」



カミィラからピンク色の液体の入ったワイングラスを受け取る。

少しグラスの中を見て、一口含んでみる。

完熟した桃のように甘いのに、後味がミントの様にすっきりしていた。



「美味しい」


「良かった!喜んでもらえたみたいで」


「これ、カミィラみたいだね」


「えっ?」



突然何を言い出すという顔のカミィラに気づかず、零香はグラスの半分までアーダを飲んでほっと息を付く。



「カミィラの髪と同じ色で綺麗だし、カミィラに似合うなと思ったの」


「似合う……」


「うん、優しくて可愛いカミィラにピッタリだね」


「あぅっ」



カミィラは突然顔を真っ赤にして、お盆で顔を隠した。

何故顔を隠したのかわからず、零香はアーダを飲みながら首を傾げた。

カミィラはお盆から少し顔を出し、ぼそぼそと囁くような声で言った。



「レイカって、普段からそんな事言うの?」


「うん、普通だと思うけど、もしかして駄目だった?」


「ううん、駄目じゃない!むしろ、あんまり褒められた事無いから嬉しくて!」



そう言いながら、花が咲くように笑ったカミィラを見て、零香も同じように笑った。



「さて、気を取り直して。次はどれにする?」


「その青いの」


「これね。これはクリティニアって言う名前のお酒。結構女性向けのお酒だよ」



今度は青い液体の入ったグラスを受け取る。

酒を飲むのに躊躇しながらも、好奇心から一口飲んだ。

柑橘系の甘さが口の中に広がり、アルコール特有の喉の焼けるような感覚は無かった。

炭酸の入ったオレンジジュースみたいな感じだ。



「ちょっと飲むのに躊躇してたけど、もしかしてお酒って初めて?」


「うん、初めて」


「どう?初めてお酒を飲んだ感想わ」


「美味しい。ジュースみたい」



零香は一気にグラスを空にすると、カミィラが次のグラスを渡した。



「それは、アエリって言う名前のお酒。綺麗な赤紫色でしょ?」



零香はグラスの中に入っている紫色の液体を見て、頷く。



「アエリという言葉には意味があってね。『愛しい』って意味があるんだよ」


「……へぇ~」



アエリを光に透かして見て、どこかで見たことのある色だ、と思う。

今まで会った人の中で誰かいたかな…と思い出してみると、あの領主の息子を思い出す。

紫色の長い髪に赤い瞳が印象的だった人。よく思い出せば、瞳は赤ではなく赤紫だった気がした。



「そういえば、レナードさんの瞳ってこんな色だったな…」



そう言いながら、一口飲んでみた。葡萄のような味が口に広がる

だが、今度は喉が焼けるような感じがし、体の奥から熱くなる。思わず、咽た。



「けほっ、かは」


「だ、大丈夫か?主」



クオに背中を擦られ、何度か息を吸い込んでようやく咽ていたのが止まった。

咽ている間に涙が出ていたのか、エリミアに顔を拭かれた。

「ありがとう」と言って、零香はアエリの入ったグラスをカミィラに返す。

カミィラはそれを受け取って、お盆に載せ、代わりに最後のグラスを渡した。



「それはアエリみたいに強くないよ。ラタって言うの」



零香は黄色いラタを一口飲む。

最初は葡萄の味がして、後味はレモンの様にすっきりとした甘さだった。

少しアルコールが強いが、先ほどのアエリと比べると断然飲みやすい。



「今まで飲んだ奴で一番好きかも」


「意外……ラタってあんまり女性に人気じゃないんだよ?」


「そうなの?」



ラタを飲みながらパスタの最後の一口を食べる。

カミィラは零香のグラスにラタを追加して、エリミアの横の席に座る。

エリミアとシュラはいまだに食べ続け、クオはそれをじっと見ながらアエリを飲んでいた。



「何でか解んないんだけど、人気無くてね。男性でも飲んでる人はごく僅かなんだ」


「ふ~ん」



目線だけで周りの兵士達のグラスの中身を見ると、確かに同じような飲み物を飲んでいる人はいなかった。

クオも色々な酒を飲んでいるようだが、ラタは飲んではいなかった。

グラスの中のラタを見ながら、こんな美味しいものが人気が無いなんて不自然な気がした。

不思議に思いながら、ラタを飲んでいるとカミィラが他の席に座っている兵士に呼ばれた。



「カミィラちゃん~!酒の追加頼むよ。もう酒樽が空になりそうなんだ」


「は~い!ちょっと、行って来るね」


「頑張ってね」



カミィラは零香の言葉に頷き、席を立って台所のほうへと姿を消した。

零香はまだお腹が空いていた為、エリミアとクオが渡してきたスコーンのような物に蜂蜜をつけて食べた。

カリッと焼きあがったスコーンに甘い蜂蜜が合って、とても美味しい。

蜂蜜以外にもジャムのような物があった。が、ちょっと見た目からして付けて食べたくなかった。

虹色のジャムなんて、どんな味がするんだとちょっと気に掛かったが、誰も手を出していなかったため、諦める事にした。

4つ目になるスコーンに手を伸ばし、蜂蜜を付けて口に入れる。

その美味しさに、思わず笑みが零れる。そして、気づけなかった。



「……ものすごく幸せそうな顔をして食べてるな」


「!」



食べる事に集中していて、カミィラが座っていた席にリュナミスが座っている事に気が付かなかった。

驚いて、食べかけのスコーンを手から落としそうになった。落とすことはなかったが、手首にスコーンについていた蜂蜜が付いてしまった。

すぐにハンカチで拭うが、まだべたついている感じがする。

食べかけのスコーンを皿に置いて、原因の人物を睨む。



「突然驚かさないでくださいよ。落としそうになったじゃないですか」


「気づかなかったお前が悪い」


「いつの間に来たんですか。エリミアもシュラもどこかに行ってる様だし……」



リュナミスに言いながらラタを飲んでいると、彼はパルサーシャがいる方を指差した。

グラスに口をつけたまま、パルサーシャのいる方へ目を凝らすと



「ほらほら、飲んでください。もっと飲めるでしょう?」


「無理無理無理無理!!もう飲めない!本当に、飲めないから!!」



エリミアが兵士に馬乗りになって、酒樽から酒を飲ませようとしている。その顔は微妙に赤く、目がキョロキョロと動き続けている。

完全に酔っている。その横を見ると



「おにいさんよわ~い♪このぐらいかんたんにのめるのに」


「精霊と人間を比べんなよ!うぷっ、叫んだら吐きそうに…」


「よし、今度は俺と勝負だ!負けねぇからな」


「いいよ~?どうせしゅらがかつんだから、だれでもおいで♪」



兵士達と酒を飲む量で勝負をしていた。周りには数名、飲みすぎて顔を真っ赤にして机に倒れている兵士の人達がいた。

その人達に、カミィラとユーリリアが交代で氷水を顔に当てたり、飲ませたりしていた。

二人のそんな様子を見ながら、パルサーシャは酒樽の上で大爆笑。

その顔は、微妙に赤く行動が全てふらふらしている。


完全に、酔っ払いになっていた。


彼らから視線を外し、目の前で呆れたまま向こうを向いているリュナミスに聞いてみる。



「いつから?」


「俺がこの席に来る少し前だ。料理を向こうに取りに行くつもりだったんだろう。その途中で、酔っ払ったパルサーシャに捕まって酒を飲まされた」


「で、あんな状況に至っている。と」


「あぁ。エリミアは酔ってあんな行動を起こしてる。シュラは……楽しんでるだけだ」


(ですよね~。まぁ、危なくなったら周りの人が止めてくれるでしょ……)



零香はあまり気にせず、どうにかなるだろうと考えながら残ったスコーンを口に入れる。

それよりも、うるさい方が問題だ。さっきから周りの騒ぐ声で耳が痛い。隣に座っているクオなんて、耳をパタンと閉じ、音が聞こえないようにして眉間に皺を寄せている。

零香は頭を片手で押さえながら、自分のグラスを指でクルリと回す。中にはもうラタは入っていない。まだ食べ足りないし、飲み足りない。だけど、うるさすぎて美味しい物も美味しくない様に感じてきた。



「静かな場所で、ゆっくり楽しみたい……」


「それなら、一緒に部屋で飲みませんか?」



頭上から聞き覚えの声が聞こえ、少し顔を上に上げると、微笑んでいるエリクが立っていた。

その後ろには、赤い髪に緑の瞳を持った、見た目は青年。しかし、生きた年数は零香の4,5倍生きているミケルが同じように立っていた。



「エリク様……と」


「自己紹介が遅れてしまい、申し訳ありません。ミケル・ロードと申します。以後、お見知りおきを」


「あ、零香・樹新と言います。こちらこそ、宜しく御願いします」



改めて自己紹介をお互い済ませると、エリクに手を握られ引っ張られ、自然と席を立たされた。



「さぁ、僕の部屋に行って飲みましょう。リュナミスさんも一緒にどうです?」


「喜んでご一緒させて頂きます」


「あの、殿下。クオも一緒にいいでしょうか」


「それは駄目です」



即答されてしまった。ただそれだけなのに、何故か涙がこみ上げてきた。内心驚きながら、顔をすばやく隠す。

しょうもない事で泣くなんて、初めてかもしれない。両親や妹の葬式でも泣けなかったのに、こんな事で泣くなんて、馬鹿みたいだ。と零香はすぐに涙を拭うが、涙は止まらずさらに頬を濡らした。

いきなり泣き出した事に驚いたのは、零香の周りも一緒だった。

周りにいたエリクやリュナミス、ミケルやクオは何度も顔を覗き込んでは「どうしたんですか?」「大丈夫か?」と聞いてくる。

いきなり泣き声が聞こえ、異変を感じた彼らの周りの兵士達は、いきなり無言になった。

零香自身は、涙を止めようにも止められず、笑いながら涙を流している状態だ。



「とりあえず、主を人の目から遠ざけよう」


「そんな事、お前に言われなくてもわかっている」



クオとリュナミスがそう言った瞬間、零香は浮遊感に襲われた。

気づけば、リュナミスにお姫様だっこされていた。驚いて涙が止まり、叫びたくなるくらい恥ずかしくなった。

彼は気にした様子もなく、いつもの表情でそのまま食堂の出入り口に向かった。



「えっ、あの、リュナミスさん!?」


「静かにしろ。あまりうるさくすると、エリミア達に気づかれる」



その言葉に、零香はすぐに口を閉じた。

もし今こんな状態をエリミア達に見られたら、酔った勢いで何をするか解らない。パルサーシャに見つかったらからかわれるだけだろうが、他の二人は見た瞬間、リュナミスに殴りかかりそうな気がする。

「意味、わかるな?」と小さく呟く彼に、零香は何度も首を縦に振った。

この状態は恥ずかしいが、すぐに終わると思えば気持ちは楽になった。



その後、エリミアやシュラ、パルサーシャ達の視線の範囲からすぐに離脱した彼らは、エリクの部屋で飲みなおす事にしたのだが、



「……あの」


「なんですか?レイカさん」「どうしたのだ?」


「……なんでこんな状態で飲んでるんですか」



何故かエリクは零香の膝の上に、クオは肩の上に頭を置いて酒を飲んでいた。

リュナミスとミケルは「私は何も関係ない」とでも言うよな顔で、ただ平然と酒を飲んでいる。

零香は、こんな状態で酒を飲んでいる二人にチョップでも入れてやろうか、と一瞬思ったが絶対阻止される事は確定だと思い、諦めてされるがままの状態で自分もラタを飲んだ。



久しぶりの大勢の人達との食事は、いつのまにか零香の中で当たり前の物になってきていた。

いつか、彼らと離れなければいけないという事を忘れかけるほどに、彼らと過ごす日々は楽しいと思えた。






そんな楽しい日々はすぐに過ぎるもので、気づくと祭りの日当日を迎えていた。















お酒の名前は自作です。言葉の意味も考えてます。


・アーダ「可愛い」・クリティニア「天使」

・アエリ「愛しい」・ラタ「神・女神」


こんな感じです。アルコール度数で比べるとアーダ<クリティニア<ラタ<アエリです。

アエリは赤ワインと同じような物です。作者はそう思って書いてます。


さて、次の話から実は話を分岐させてます。

内容によっては、零香達の立ち位置が変わります。


アバウトにいうと、村から離れるか居続けるかです。

内容は投稿してからのお楽しみ、というわけで^^

作者も今悩み中なんですw



意見、ご感想待ってます(・ω・)ノ


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