クロッカス村4-5
戦闘シーンの続きです。
今までで一番書くのに悪戦苦闘しました。
目の前に現れた黒い生き物の内の一匹とにらみ合いをしながら、零香の頭の中は怒りで溢れていた。
これから魔法を使って面白い物をやろうとした時に、洞窟で感じたあの嫌な空気が地面から感じて、洞窟で会ったあの変な女性を思い出したのもある。そして、自分に向かってあの女がやった事を思い出して、イラッとしたのもある。
だが、一番は零香の存在を素通りして、エリク達を襲おうとした事。
「……エリミア、シュラ、クオ」
そう呟いた瞬間、彼女の目の前の空間が歪み、そこからエリミアとシュラとクオが出てくる。
3人は彼女を守るかのように、ただ悠然と立っている。
「さて、主よ。どうするつもりだ?」
「たたかうなら、たたかうけど~?」
「零香、指示を御願いします」
普段どおりの表情で問いかけてくる彼らに零香は、魔物達に指で差しながら言った。
「被害が及ばないように、存在を消し去る」
その言葉に、3人は笑みを浮かべる。
「御心のままに」「あい!」「了解しました」
その時を待っていたかのように、魔物たちが襲い掛かってきた。
一匹が零香の目の前に立っていたクオを狙う。高く飛び上がり、すばやい動作で彼を切り裂こうと、鋭い爪を振り上げた。
だが、彼はそれを簡単に片手で受け止める。
「身の程をわきまえない奴だ……消えろ」
魔物の首に腕を突き刺し、腕を地面に振り落とす勢いで、腕から魔物の体を抜く。
地面がへこむほど強く打ち付けられ、数m魔物の体が浮き上がる。
彼は魔物に向かって腕を横に振る。すると、魔物の体が刃物で切り裂かれたように、一瞬で肉の塊となって地面に落ちた。
次の一匹は、少年の姿のシュラを狙った。
その頭に食らいつくかのように大きく口を開いて、襲い掛かった。
だが、シュラは襲い掛かってきた魔物の頭を持つと、握りつぶした。
「よわいし、もろいね」
頭が潰れ、動かなくなった魔物をシュラはクオの頭上まで高く上げた。
クオはそれをつい先ほどと同じように肉片に変え、踏み潰す。
血を浴びて、笑顔を浮かべる彼らに、零香は頼もしい仲間だと思った。
敵になった時が、恐ろしいと思った。
エリミアのほうを横目で見ると、エリミアは空間の中から巨大なハンマーを取り出し、その小さな腕で振り回していた。
「はっ!!」
振り上げるたびに、魔物をハンマーで潰していく。グジョッという、グロテスクな音が何度も聞こえたが、ホラーゲームで鍛えられている零香はただ普通にその光景を見ていた。
「主よ。そちらにも行ったぞ」
クオがそう言うのと同時に、目の前に魔物がいた。
唸りながら、自分の様子を見ている魔物を見ながら、どこかで見たことがあるような気がした。
あのホラーゲームの犬に似ているような気がする。今は関係ないけど。
「グルルルルルルゥ」
「おいで」
「グルゥアッ!!」
零香は襲い掛かってきた魔物の攻撃を横に体を動かして、かわす。
顔のすぐ傍を通り抜けて、後ろに向かう魔物に手で触れながら、言う。
「燃えろ」
その言葉と共に、魔物の体から突然火が現れ、魔物の体を覆う。
魔物は地面に転がりながら、何度も火から逃れようとするが、火は消えず魔物の体を焼き尽くす。
魔物の苦しむ声を聞きながら、その光景を見て、すぐに止めをさす。
「アイス・スピア」
魔物の体を氷の矢が貫き、魔物はピクリとも動かなくなった。
その表面は、もう識別する事ができないほど焼け焦げていた。辺りに、肉の焦げた嫌な臭いが立ち込める。
手で鼻を押さえながら、次に襲い掛かってきた魔物の横腹を蹴り上げた。
一瞬、体が動かなくなった魔物に意識を集中しながら、呟く。
「ホーリー・ランス」
魔物は、地面から現れた光の剣に貫かれ、消滅した。
周りを見渡し、大体の魔物は消し去る事ができたようだ。丁度同じタイミングで、エリミアがハンマーを地面に置き、クオが肩をまわし、シュラがあくびをしたのが見えたからだ。
「何匹倒した?」
「我は2匹だ。シュラも同じく2匹」
「私は、少し最後の奴に手間取ったので同じく2匹ですね」
頭の中で、最初に見た魔物の数と、倒した魔物の数を照らし合わせる。
だが、そこで違和感を感じて、慌てて周りを見渡す。
「レイカ!怪我してない?今、そっち行くから!」
そう言って走ってくるカミィラのほうを向くと、傍の茂みがガサッと動いたのが見えた。
最初、九匹いたはずなのに、倒したのは合計で八匹。一匹見つかっていなかった。
零香は、カミィラに駆け寄りながら、叫んだ。
「カミィラ、駄目!!」
「えっ」
カミィラが止まった瞬間、狙ったかの様に魔物が彼女に襲いかかろうと、茂みから飛び出した。
カミィラに迫る魔物を見て、零香は全力で走った。
「いやぁああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
叫ぶカミィラと襲い掛かる魔物の間に体を割り込ませるように、彼女を抱きしめた。
その途端、背中を鋭い痛みが走る。
「主!!」「零香!」
「くっ……!」
「レイカ……?」
怯えた様子で見上げてくるカミィラに、微笑みながら「大丈夫?」と声をかける。
背中が焼けるように痛いが、今は彼女のほうが心配だ。
彼女は、目に涙を溜めながら、零香の体にしがみ付いていた。その体は震えている。
「ワタシはいいけど、レイカが…ッ!!」
「大丈夫……少し、痛いだけだから」
「でもっ」
「大丈夫だから」
後ろでクオとエリミアの怒声が聞こえ、魔物の悲鳴のようなものが聞こえた。
どうやら、彼らが倒してくれたようだ。
カミィラをギュッと抱きしめながら、耳元で囁くように呟いた。
「無事で…よかった…」
「レイカ、レイカぁ」
「泣かないで。大丈夫、もうあまり痛くないから」
嘘をついて、彼女を落ち着かせるため、背中を擦る。
背中が熱い。なのに、額から冷や汗が出ていた。
ずっと抱きしめていると、カミィラから離すように誰かが後ろに引っ張った。
簡単に腕がはずれ、力が抜けて地面に座り込んでしまった。
後ろを振り向くと、無表情のリュナミスと目が合った。
「リュナミスさん?」
「動くな」
「……はい」
彼に背を向けた状態で座っていると、彼が魔法で怪我を癒す為呪文を唱えた。
徐々に背中の痛みは消えたが、体が異様にだるい。
痛みが無くなり、足に力を入れて立ち上がろうとするが、傍に来ていたエリクに支えられてようやく立つ事ができた。
「ありがとう…ございます」
「あれだけ魔力を消費していたら、動けなくなるのも当然ですよ」
零香は「そうですか。次回からは気をつけます」と呟く。まだ魔力の感覚がわからない。
今こうやって立っているだけでも、辛いのを隠しながら、泣きながら謝ってくるカミィラの頭を撫でる。
「ごめんね。ごめんね」
「もう良いよ。それより、カミィラが無事で本当に良かった」
「だけど、私のせいでレイカが怪我しちゃった」
「私が一匹残してたのが悪いんだから、カミィラは悪くないよ」
そう言って、腕を支えてくれていたエリクから離れ、少し歩く。
彼らの視線を背中で受け取りながら、行く場所は魔物の肉片の集まった場所。
生々しい血の臭いに鼻が曲がりそうになるが、零香は汚れるのを気にせず、肉片の前に座る。
「……ごめんね」
魔物とはいえ、生きるために人を襲ったのだろう。
その命が、どうか安らかに眠ってくれる事を祈りながら、零香は目を閉じ手を合わせた。
そして、後ろを振り返り、シュラを呼んだ。
シュラが心配そうに見つめてくるのを、安心させるように微笑むと、シュラに言った。
「穴を、作ってくれる?」
「…わかった」
シュラはすぐに穴を作ってくれた。
1mほどの穴に零香はそっとまだ温かい魔物の遺体を、入れて、その上から土を被せた。
土を被せ終わると、クオが手を掴んできて服の裾で拭って綺麗にしてくれた。
クオの顔を見上げると、血を浴びていたはずなのに服は白く、髪も月の光で煌いていた。
「主よ、あまり無茶をしないでくれ。心臓が止まるかと思ったぞ」
「ん、ごめん。でも、勝手に体が動いたからしょうがないよ」
「しょうがない、ですむ問題ではないぞ……」
呆れたようにため息を付いたクオに、零香は満面の笑みを見せた。
「心配してくれてありがとう」
そう言うと、何故か頬を朱に染めて顔をそらした。
だが、尻尾が横に高速で動いているからわかりやすかった。
クオを見ながら笑うと、隣でエリミアも一緒になって笑った。
すると、呆れたような安心したような声でパルサーシャが言った。
「はいはい、そこの人達。家に帰るよ」
「あっ、その前に……」
手を合わせ、頭の中で花畑の花達を思い浮かべ手を広げる。
すると、手に白い菊の花が現れた。それをそっと土の上に置く。
そして、もう一度手を合わせてから立ち上がる。
立ち上がると近づいてきたカミィラの目の前で、手から小さいピンク色の花を咲かせて見せた。
「髪に付けてあげる」
零香は満面の笑みでカミィラの髪に、手のひらのピンクの花を挿した。
カミィラは驚いて、その花を見て、いきなり頬を真っ赤に染めた。
「………レイカが男だったら、猛アタックするのになぁっ……」
「ん?」
「なっなんでもないよ!ありがとう、レイカ」
「どういたしまして。似合ってるよ、カミィラ」
零香の笑みとその言葉で、今度こそカミィラはノックアウトした。
後ろにフラリと倒れそうになり、なんとか持ちこたえるが、耳まで真っ赤にしていた。
「カミィラ、大丈夫?」
「だっ大丈夫…」
「カミィラ~、レイカに見惚れてないで帰るよぉ。帰ってワインを飲もうじゃないかい」
「見惚れてない!!」
カミィラをからかうパルサーシャの言葉に疑問を覚えながら、零香は自分の頭に触れる。
すると、プチッという音と共に髪をまとめていたゴムが切れ、髪の毛が広がった。
「あっ、切れた」
切れたゴムを握りながら、一度ため息をつくと、皆の視線が自分に集中しているのに気づく。
体を射抜かれるような勢いで見られ、零香はオドオドしながら首を傾げる。
すると、横に立っていたクオがいきなり肩を掴んできて、腕の中に引き込まれる。
「クオっ?」
「~♪」
いきなり髪の毛に頬ずりされる。
訳がわからずされるがままになっていると、目の前にリュナミスとエリクが立っていた。
その表情は、無表情に近い。
「どうしたんですか?」と聞こうと口を開いた瞬間、腕を引っ張られクオの腕から開放されていた。
いきなり強く引っ張られ、首がグキッと鈍い音をたてた。
首を押さえながら二人を見ると、ついさっきまで無表情だったのが嘘のように微笑んでいた。
「さぁ、帰ってワインでも飲みながらゆっくり休みましょう。魔力も大量に消費していますしね」
「そうですね。それが一番かと思います」
「あの、お二人とも?」
「さぁ、そこにいる狐なんて無視して行きましょう」
「先にエリミアが魔方陣を開いて待っていますからね。遅れたら彼女に怒られます」
「ちょっあの、どうしたんですか?様子が先ほどと違いませんか?」
その言葉に、零香を挟んで腕を掴んでいる二人は同時に
「いいえ?これが普通ですよ」
「これが普通だ」
と、満面の笑みで言われた。
零香は心の中で(絶対嘘だ)と思いながら、二人にカラ笑いを見せ、引き摺られる様にして帰路についた。
その後ろを、二人に文句を言いながらクオがついて来たが、二人は完全に無視をしていた。
家に帰り、二人が先に食堂に行くと、家の端っこで落ち込んだクオに零香は頭を撫でてあげた。
「うぅ、何故こんな扱いを受ける……」
「ははははは……それは……私にもわからないな」
「ただ、我はかまって欲しかったから擦り寄っただけなのだがなぁ」
「タイミングが悪かったんだよ。うん」
一番の原因はその姿の所為だろうな、と薄々気づいていたが、零香はクオの姿が気に入っていたので、そこは言わなかった。
一応、「男じゃなくて、女になってみたら?」と言って試してみたが
「胸の肉が邪魔。動きづらいし、肩が重くてしょうがない。やはり、男の体が良い」
とDカップ以上はありそうな豊満な胸を自分で触りながら、そう呟いた。
零香は拳を握りながら、魔法を唱えようかと思ったが理性で踏みとどまった。
胸の大きい方に「胸が小さいの、うらやましい」と言われると心から喜べないのは私だけでしょうか?(^ω^)