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Dolls  作者: 夕凪秋香
第1章 クロッカス村
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クロッカス村3-2


シリアス話です。

王子の過去の話メインです。結構内容としては、重いお話。

時々文章がおかしいので、いつか修正すると思います。



それでは、どぞ。





食事を終え、水浴びをしてエリミア達と眠りに入った零香は、ふと目を覚ました。

ソファからゆっくりと起き上がりながら、ベットのほうを見る。



「スー…スー…」


「……ん……」



ベットの中にはエリミアとゴーレムのシュラが抱きしめ合いながら、幸せそうな顔で眠っていた。

シュラ、という名前はエリミアとカミィラが考えたものだ。

この国の言葉で「黒」を意味するらしい。理由は、黒い髪が綺麗だから。

簡単で、分かりやすい名前だけど、どこかに愛着を感じた。


そっとソファの上から降りて、二人の頭を撫でてネグリジェの上にカーディガンを着て、扉をそっと開けた。

寝静まった部屋の前を通りながら、階段を下りて行く。そこに意外な人がいて、ゆっくりと傍まで行く。



「こんな夜中に、どうしたんですか?殿下」


「!…あぁ、キアラさんでしたか。少し眠れなかったので、月を見ていました」



晩御飯の時の軍服のような白い服を脱いで、王子はシャツとズボンという軽装で窓に腰掛けていた。

結んでいた髪は今は結びを解き、月の光で輝いていた。本当にこの世界の男性は、美顔の人が多いな……。



「僕の顔を見つめて、どうしたんですか」


「いえ、綺麗なお顔だなと思っていただけです」


「よくそう言われますよ。だけど、僕はこの顔が嫌いだ」



そう言いながら自分の顔に触れる王子は、悲しそうに笑った。



「何故嫌いなのですか?」


「……僕の右目とこの髪が原因ですよ」


「右目と髪が……」



王子は頷きながら、もう一度月を見ると、右目を隠していた前髪を耳にかけた。

左目は青い。だが、右目は赤かった。オッドアイか。



「赤い瞳は魔物になった者にしか現れない。僕は生まれた時から、この瞳だった。それは、半分は人間の血、半分は魔物の血を受け継いでいる事になるのです」



私は黙って話を聞いていた。彼は耳にかけていた髪を元に戻し、今度は自分の髪に触れた。



「この髪の色も貴女の黒髪と同じく、珍しいものなんですよ。だけど、父と母は僕とは違う色ですから、それは一大事になったそうです。ミケルがそう言ってました」


「ミケル?」


「食事のとき、僕の後ろに立っていた男性ですよ。赤髪で目が緑色の人」



そういえば、見たような気がする。

食事をする準備を私の代わりにやる、と言ってくれたあの青年。あの人がミケルという人なのか。



「…あれ?あの、殿下は今年はお幾つなんですか」


「16です」


「一つ違い。ミケルさんって何歳なんですか?」


「確か67です」



はっ?あの、見た目20代後半ぐらいにしか見えない方が、お爺ちゃんの年齢!?

自分のお爺ちゃんの顔とミケルさんの顔を思い浮かべる。駄目だ。同じ年齢とは思えない。



「どうしたんですか?」


「なっ、なんでもないです!続きお願いします」



頭を横に振って真剣に彼の話を聞く。彼は少し落ち着きながら、ゆったりとした口調でまた話し始めた。



「…銀髪で生まれた子供はこの世界で、僕が初めてだったんです。王宮は大騒動になって、僕は王宮以外の場所では顔を隠すようにと言われました。銀髪なんて、この世界で僕一人だから王子だとすぐにばれてしまう。狙われやすい存在だったんです」


「はぁ」


「6歳までは普通に過ごしていました。だけどある夜寝ていて、いきなり首が苦しいと思って起きると、首にあの蛇がいたんです」


「なるほど」


「僕は必死でその蛇を隠すために、王宮の中でも顔を隠すベールを被って生活し始めました。声も出せなくなって、父上と母上とミケルにだけ蛇の事を伝えて、なるべく表に出なくてもいいようにしてもらいました」


「よく小さい時に思いつきましたね」


「他の人よりもマセてましたから。でも、さすがに2年も経つと暇になるわけです。だから、父上に頼んで必ず顔を隠すことだけ気をつけるようにして、騎士団に入りました。僕には剣と魔法ぐらいしか王宮で出来なかったから、それを活かそうと思ったんです」


「あの、殿下。少しいいですか?」


「ん、なんですか?」


「できれば、簡単にまとめてからお話してくださるとありがたいんですが」



正直言うと、ただ話が長いと思っただけである。

話を聞いていたら、夜が明けそうなぐらい話すだろうな、この人。

その証拠に、まだ話足りないのか口を尖らせて横を向いてしまった。



「駄目、ですか?」



上目遣いで彼を見つめながら言うと、彼は少しの間考え、何か思いついたようだ。

私を数秒ほど見て、彼は右手を私の目の前に差し出した。



「?」


「手、繋いでいただけますか。簡単にまとめてしまうと、つらい過去を思い出してしまって」


「……それぐらいなら、喜んで」



私は彼の手を握る。少し硬くて、温かい手の感触を感じながら彼をまっすぐ見つめた。

彼は「ありがとう」と笑顔を浮かべ、窓の外を見始めた。



「僕は、この容姿のせいであらゆる人物から狙われるようになりました。命を狙う者、地位を狙う者、体を狙う者、力を求め狙う者」


「はい」


「僕は幼い時、どんな人でも信じる子供でした。本当は信じてはいけなかったのに…」



そういう彼の手は、震えていた。それだけ、つらい過去だった事が分かる。

彼の手を握っている左手に力を込めて、握る。



「僕が8歳のとき、城に賊が入り込んで、僕は誘拐されました。どこかの貴族に頼まれて僕を誘拐したようです。その時僕は何も知らず、声をかけて来た人が賊とも分からず、彼らのアジトに付いて行ってしまったんです」


「……はい」


「その後は、恐怖と混乱しかなかったっ。貴族の男が現れて、賊の頭のような人に何か話すと、僕はその貴族の男にいきなり押し倒された。服を脱がされ、抵抗しようとすれば殴られ、僕は…っ」


「もういいです!もう、話さなくてもいいですからっ」



彼は体を震わせながら、顔は恐怖の表情のまま涙を流していた。

私は彼の話を止めようと、頭を包み込むように彼の体を抱きしめた。彼はまだ震えながら、腕を腰に回してぎゅっと抱きついてきた。

でも、彼は震える声で自分の過去を話し続けた。



「僕はっ、必死に助けを求めた。だけど、賊達は僕を哀れむような目で見てその行為をじっと見ていた。手を差し伸べてもくれなかった。……僕は結局、城の兵士達が賊のアジトに突入してくるまで、体を……犯され続けたっ」


「っ!」



私は彼の話したこと全てを想像して、その様子が自分と重なり、あの時のことを思い出す。

記憶から消し去りたい、あの記憶を。

彼の体を強く抱きしめながら、自分も震えている事に気づく。


駄目、知られたくない。私は必死に震えを止めて、彼をさらに強く抱きしめる。


彼は立場や性別は違うけど、私と良く似ている。


見た目よりも幼い心を持っている彼にとって、消し去りたくても消し去れない記憶。

それは、とてもつらいだろう。誰にも言えず、言ったとしても侮蔑か哀れな目で見られるのだから。

幼い時の彼は、心の奥に深い傷を負ったのだろう。私も同じだったから、そう思う。



「僕は今でさえ、この女性にも男性にも見えない顔のせいで、言い寄ってくる人は絶えない。だから、僕はこの顔が嫌いなんだ。人間でも魔物でもない、中途半端な自分を思い知らされる。見た目でしか僕を判断しない人を見て、僕はいったい誰なのか、判らなくなる」



そういう彼の姿は、過去に囚われ続ける私と同じだ、と思った。でも、彼はまだ立ち直れる。

優しく、それでも強く彼を抱きしめながら私はそっと呟いた。




「……貴方は、貴方ですよ。エリク・リュクシア・アラドールという、一人の人間です」



「……っ!?」



彼の体の震えがピタリと止まった。私は腕をゆっくりと緩めながら、彼の顔を見る。

涙でぐしゃぐしゃになっているけど、今まで感じていた仮初めの顔ではなかった。彼の本当の顔。

私は微笑みながら彼の顔に両手で触れ、彼と目が合うように固定した。

彼は目を見開き、涙を少しだけ流していた。



「貴方の右の瞳も、この髪も、貴方の個性じゃないですか」


「僕はこんなふうに生まれたくなかった。父上と母上のように生まれたかった」


「親に似て、後悔する人もいるんですよ?もっといい顔で生まれたかったって」


「それでも、僕は嫌だ。こんな魔物と人間の血を引いた僕なんてっ」


「たとえ、魔物の血を引いていようとも人間の血を引いていようとも、貴方は貴方です」


「人に物を見るような目で見られるなんて、もう嫌なんだっ!」



「貴方は、物なんかじゃない。自信を持って強く、自分は『自分』だ、と思ってください。もし、貴方をそんな目で見るような人が出てきたら、こう言ってください」



彼の頬から手を離して、少し距離を開けて、私は胸に手を置いて微笑んだ。




「『僕を自分の物にしたいなら、僕が欲しいもの全てを揃えて来なさい』と。それで、空想のものを言っておけば、集めようとしても無駄です。だって、空想の物だからあるはずないんですから、絶対に揃える事なんてできません」





「……ははっ、あははははははははははっ」





突然顔を隠しながら笑い始めた彼に驚いて、変な事言ったかな?、と慌てた。

彼は笑いすぎて涙を流しながら、ゆっくりとこちらに歩いてきた。

ゆっくりとした動作で抱きしめられた。彼は笑いながらも、手には力がこもっていた。



「はは、そうですよね。僕は、僕だ。たとえ魔物の血を引いていても、僕は僕」


「そうですよ。今更気づいたんですか?」


「えぇ、今更気づきました。……ありがとう、キアラさん」


「……零香でいいですよ。ファーストネームは零香ですから、そう呼んで下さい」


「それじゃあ、レイカ・キアラさんですね」


「何故フルネーム」


「一応確認ですよ、レイカさん」



そういうと、彼に一度強く抱きしめられ、体を離した。彼は、すっきりしたような顔で私の目の前に立った。



「今までで、こんなに話したのは仕事以外初めてです。父上たちにもこんなに話したことは無い」


「これからは、沢山話してあげて下さい。今までの分も、これからの分も。喜ぶと思いますよ」


「えぇ、帰ったら一度家族だけで話をします。・・・・本当にありがとう」



私は首を横に振り、「色々助けてもらったお礼です」と言って頭を下げた。



「これで、貸し借りは無しですよ」


「……ありがとう」



私達は微笑みながら、同じように欠伸をした。

思わず口を手で隠しながら、彼も同じような顔で私を見て、同時に噴出した。



「あはは、もう眠くなってきましたね。殿下」


「そうですね。もう夜も遅いですし、寝ましょうか」



頷きながら、私は自分の部屋に向かうために階段を上り始めた。

彼も下の階にある自分の部屋に戻ろうとして、一旦立ち止まった。



「……エリク」


「えっ?」



私は階段を上る足を止め、彼のほうへ顔を向けた。彼は天使のような笑みを浮かべ、優しい言葉で言った。




「殿下ではなく、エリクと呼んで下さい。レイカさん」


「……わかりました。エリク様、おやすみなさい」


「おやすみなさい、レイカさん」



私はもう一度頭を下げ、自分の部屋にそっと戻る。

エリミアとシュラを起こさないよう、カーディガンを脱いでソファに横になり、薄い毛布をかける。

欠伸をかみ締めながら、天井を見る。



「……だから、私は『自分』で死にたいと願う」



小さく誰にも聞かれないように、自分で自分に向かってそう呟いた。

眠気に従い、ゆっくりと目を閉じる。




すぐに意識は落ち、私は眠りの世界に誘われた。














彼は自分の部屋に戻り、ベットに腰掛ける。傍には昔から自分に仕える執事が、静かに口を閉ざし立っていた。

彼は自分の顔に触れながら、つい先ほどのことを思い出す。

自分の汚く消し去りたくても消せない記憶を、彼女は優しく理解してくれた。

自分を一人の人間として、初めて見てくれた人。



「……彼女は、僕を僕として見てくれている。自分より立場が上でも、言葉は変えてもそのままの彼女でいてくれる……。こんなに嬉しい事があるか…?」


「殿下……」


「一日も会っていないのに、彼女の存在はすでに僕にとってかけがえの無い物になっていた」


「それでは、殿下。どうするのですか?」


「……決めたよ。もう僕は顔を隠さない。この右目だけは隠すけど、それ以外は本当の自分として行動する」


「…承知いたしました」


目の前で膝を付き、深く頭を下げる執事を見て、ベットに体を投げ出す。

ふかふかしたベットに横になりながら、天井に手を伸ばす。



「それと、彼女の力はとても強い。僕にとっても国にとっても、これから必要になってくるだろう」


「それでは、彼女を城に連れて行くのですか」


「……あぁ、祭りが終わり次第、彼女達を騎士団に誘う。彼女達の力を貸してもらおう」


「承知いたしました。すぐにでも準備を始めます」


「頼むよ、ミケル」



執事が部屋から魔法で消えるのを感じながら、彼は手を強く握る。



「この国を、魔物どもに滅ぼさせて堪るかっ」



そう言葉を吐き捨てると、彼は右目を押さえながら目を閉じる。

久しぶりに、彼は深い眠りに落ちた。それは心地よく、疲れきった体を癒した。










ようやく次から書きたかったお話がかけます(^ω^)

少し執筆していますが、ふふふふふ、書くの楽しいww



前回7/1にあげた話のアクセス数に驚きました。

ぶっちぎりで最大アクセス数を更新していましたw

888アクセス数でした。


読んでくださり、本当にありがとうございます。

これからもよろしくお願いします!!


感想、意見などお待ちしております。



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