洞窟にて4
お待たせいたしました!今回は早い更新です。
眠い目を擦りながら書いたので、少し変かもしれませんが、スルーしてください。
それでは、どぞ。
『ナッ!!アンタハワタシガコロシタハズッ!』
「ッ!」
声のする方を向くと、魔物は赤く発光している鎖に拘束され、壁に押し付けられていた。
目の前に、ついさきほど蔓に刺され、死んだはずの彼女が立っていた。その背中には、緑色の6枚の羽が光り輝いていた。
その傍には、背の高い白い騎士団の制服を着た、銀髪の男が立っていた。その手には、赤い鎖が握られている。
「もう、貴女の好きなようにはさせません」
彼女はそういうと、こちらに振り返り、魔物に殺された一人の兵士の傍に座る。
兵士の体に手を添え、呟いた。
「目覚めよ」
変化は、すぐに訪れた。
兵士達の体がいきなりオレンジ色の光に包まれたかと思うと、その光が消えた瞬間
「あれ、俺……生きてる?」
「僕は……死んだはずじゃ」
ミイラのようだった体が元に戻り、兵士達が生き返った。
彼女はすぐに立ち上がり、蔓に拘束されていた人たちを見ると、蔓に呼びかける。
「元の姿に戻りなさい」
彼女の言葉に従うように、蔓は徐々に地面の中に戻っていった。
蔓に捕まっていた人たちは、唖然としながら彼女を見ていた。魔物もその光景に驚きを隠せないようだった。
彼女は、部屋の中心にあった棺のような物のところへ行くと、棺の中に立ち、手を胸の前で合わせた。
その姿は、まるで聖女の様だった。
「全ての者に癒しを」
その言葉と共に、空中から様々な色の光が舞い降り、その光が体に触れると徐々に体から痛みが消えていった。腕を見ると、蔓の巻きついていた跡が綺麗になくなっていた。傷も全く無い。体力が戻ってきた。
それは周りも同じようで、驚きの声が所々から聞こえた。
彼女は棺の上から微笑むと、ふわりと浮かび上がり、そのまま魔物の頬に触れた。
「こんなこと、もう止めましょう」
『ナニヲイッテルノ』
「貴女の息子さんが、悲しみますよ」
その言葉に、魔物が反応したのがわかった。彼女はそのまま話を続ける。
「出て来て下さい、アルテミシアさん。息子さんに会いに行きましょう」
その時、いきなり魔物の悲しみの表情になった。目には涙を浮かべて、ついさきほどの魔物の表情とは、全く違う。目に意思が宿っていた。
「あぁっ、あぁ……」
彼女は微笑むと、魔物を抱きしめた。いつの間にか、魔物を拘束していた鎖は消え、傍にいた男性は、少し離れた場所に立っていた。その顔には、微かに笑みが浮かんでいた。
「アルテミシアさん。言ってください」
「……わたっ…わたしは…レナードに…あい…たい……。もう、こんなこと…したくない…」
そういいながら、必死に何かに耐えながら涙を流しているアルテミシアと呼ばれた女性。
もしかすると、魔物に精神を食われる前の、本当の肉体の持ち主なのだろうか。もう、あのにおいは感じなくなっていた。
「ありえない……」
誰かがそう言った。
魔物に肉体を奪われた人間は、もう元に戻る事はない。戻ったとしても、それはただの化け物だ。精神が崩壊している。
何度も人間が化け物になる所を見てきた騎士団のメンバーにとって、目の前の出来事は衝撃の事実だった。
彼女はいまだに泣き続けているアルテミシアから少し離れ、手を宙にかざす。
すると、彼女の手の前に紫色に光る球体が現れた。球体はそのまま地面にゆっくりと落ちると、地面の魔法陣の中に吸い込まれた。
彼女は手を下ろす。
「これで、レナードさんに会いに行けます。でも、貴女の精神はそう長く持ちません。長くて、5分程度でしょう。それでも、いいですか?」
「それでも……いい。…あの子を見ることが出来るだけで、十分……」
そういいながら、アルテミシアが魔法陣に足を踏み入れた。その瞬間、その姿は掻き消えた。
アルテミシアの姿が消えると、彼女は傍に歩み寄っていた銀髪の男の首筋に触れる。
彼女の手から白い光が現れ、そのまま地面に落ちた。何回か光の球が転がると、球からいきなり白く巨大な狐が現れた。赤い目に九本の尻尾を持っていた。
狐は軽く背伸びをした後、彼女の傍まで歩き、こちらをちらりと見ると忽然と姿を消した。
彼女は、男の頭を数回撫でると、振り返って軽く礼をした。そして自分の胸に手を当てながら
「この子を、お願いしますね?」
優しく微笑んだかと思うと、背中の六枚の羽が消え、彼女の体が前に傾いた。
「あぶないっ!」
咄嗟に彼女が地面に倒れる直前に、彼女を抱きしめる。彼女はスヤスヤと眠っていた。体のあちこちに微かに傷痕があったが、止血していた。服も何故か新品のように真っ白だった。
頬に微かに爪で引っ掛かれたような傷があったため、それは魔法で治した。
少し顔色が悪いようだったが、寝顔は穏やかだった。
少し腕がつらくなり、少し彼女の体を動かす。それでも彼女はずっと眠っていた。
地面に座り、彼女の体を自分にもたれかからせる様にし、彼女の前髪を梳く。
(いったい、お前は何者なんだ……)
リュナミスは、そっと彼女を軽く抱きしめた。彼女の心臓の音が伝わってくる。
その音が心地よくて、瞳を閉じようとした瞬間。
「ニヤニヤ」
「…………」
兵士達とカミィラ、さらにパルサーシャが覗き込んでいた。
エリミアは彼女のほうが心配なようで、彼女の服の裾を引っ張ったままじっと彼女の様子を窺っている。
今まで自分が何をしていたのかを思い出し、エリミアに彼女を渡し、立ち上がる。片手には愛剣を持って。
「……今見たこと、全部忘れろ」
「無理に決まってるじゃないですか~、副隊長♪」
「いや~、魔法映写機持ってくればよかったな~」
「そそ、あの副隊長の安心したようなあの笑み!残しておきたかった!」
「後で覚えておけ、そこの兵士ども。帰ったら練習メニュー特別に、200回ずつ追加だ」
「わたしは記憶に焼き付けたから大丈夫!帰って絵に描いて、一生の宝物にするわ!」
「記憶から消せ!そんな物を一生の宝物にするなっ!」
「あっ、それワタシも欲しい。描いたら頂戴」
「いいわよ~♪カミィラちゃんの頼みなら、なんでもするわ♪」
「勘弁してくれ……」
「私を除者にして、楽しむなんて駄目じゃないですか」
「!!」
いきなり気配を消して後ろに現れた銀髪の男に驚き、思わず体がビクリと反応してしまった。
男はニコニコと笑いながら、軽く礼をした。
「はぁ、さすがに首が痛いですね。10年もアレをつけていたから、当然でしょうけど」
首を回しながら、男は兵士達の怪我の治療をしていた王子の執事に、視線を向ける。
執事はその視線に気づいたのか、すぐに治療をやめ、男の目の前まで来ると、膝を落とし頭を下げた。
「殿下、ご無事でしたか…っ」
その言葉に、執事と銀髪の男を除いた人間が驚いた。
確かに王子と同じような魔力を感じる。そして、真っ白な手袋に皇族特有の紋章が刻まれているのを見て、慌てて膝を折り、頭を下げる。
今まで顔を見たことが無かったが、まさかこんなに若い男だとは思わなかった。
「申し訳ありませんでしたっ、すぐに殿下と気づく事ができず……」
「あぁ、別にかまいませんよ。私のほうが悪いのですからね」
皇族とは思えない言葉をサラリと言った殿下に驚き、下げていた頭を上げる。
殿下は笑顔のまま、こちらを見ていた。そして、わざわざ同じ目線になるように腰を下ろし、頭を下げた。
その行動は予想外だった。
「私が悪いのです。彼女を私の事情に巻き込んでしまい………申し訳ありません」
その言葉に、つい先ほどの光景が頭の中で再生された。
彼女の白い肌に突き刺さった蔓、大量の血。倒れた後も全く動かなかった彼女の体。
唇を強く噛み、その記憶を頭の中から消す。
「ですが、彼女は不思議な力を持っているのですね」
殿下はそう言いながら、彼女の顔を見ていた。彼女はいまだエリミアに抱かれたまま、眠っている。その顔は安らかだった。
彼女は別の世界から来たと言っていた。さらに、膨大な魔力を簡単に制御できている。
そして、ついさっきの、あの行動。あの時すぐには気づかなかったが、普段の彼女とは雰囲気が違っていたような気がする。
本当に、彼女は何者なのだろうか。
殿下は眠る彼女を見ると、立ち上がり、執事に少し耳打ちをした後、口笛を吹いた。
すると、彼の隣に先ほど見た白い狐が現れた。殿下は狐を軽く撫でると、こちらに手を差し出した。
「さぁ、急いで帰りましょう。もうすぐ日が明けるそうですよ」
「はっ!」
すぐに兵士達に命令を出し、帰る準備をさせる。怪我人は殿下が呼び出した狐の背に乗せる事になり、兵士達の中で足に怪我を負った者だけ乗せた。
他の兵士達は自力で歩けるようだったので、徒歩で帰ることにして……。
「エリミア、いい加減に動け」
「………」
「エリミアちゃん、どうしたの?」
「全く反応が無い」
ずっと眠る彼女を抱きしめたまま、座っているから、なかなか帰れない。
何度も声をかけたが、全く反応が返ってこない。
仕方ない、とエリミアの肩に触れようとした瞬間、眠っていたはずの彼女が目を覚ました。
ゆっくりと起き上がる彼女に、今まで反応が無かったエリミアが動いた。
「おはようございます、零香」
「……私………そっか……」
まだ目が覚めたばかりで反応が鈍い彼女を、エリミアは立ち上がらせ、服についた土を払う。そして、こちらに振り返り、目を閉じた。
「開け、転移の門」
その言葉と共に、エリミアを中心に、巨大な紫色に光る魔法陣が展開した。
魔法陣は点滅を繰り返しながら、光り続けていた。
「皆さん、中心に集まってください。村まで転移します」
「出来るのか」
「私には、これぐらいしか出来ません」
これぐらいしか……上級魔法を簡単に呪文無しで発動させておいてか……。
実は魔法にも精霊と同じように階級がある。
上から神級魔法、上級魔法、中級魔法、初級魔法、最下級魔法だ。
俺が使えるのは、初級魔法全てと中級魔法の火系統しか使えない。殿下は中級魔法と上級魔法を2つ程度使っているのは見たことがある。
エリミアが発動させた魔法は、上級魔法の中でも特に難しい転移の魔法だ。普通の人間なら、呪文無しで発動させる事は不可能。俺でも無理だ。
エリミアの後ろに立っている彼女も、初級魔法ではあったが中級魔法並みの回復量だったのを思い出す。
彼女達は常識外れの力を持っているのだと、改めて確信した。
「リュナ兄~!皆、集まったよ」
カミィラの声にはっとして、自分がずっと同じ場所で考え事をしていたのに気づくと、すぐに魔法陣の中心へと歩いた。
すでに、全員が集まっていて、皆興奮しているようだった。しょうがないだろう、寝ていないのだから。
「いきます」
無表情のまま、エリミアが魔法陣に触れると、一瞬で暗い洞窟の中から、明るい外に出た。
日差しが眩しい。
目が光に慣れ、周りを見渡すとすでに村の家の前だった。
「うはぁ~……ようやく寝れる……」
「副隊長、すぐ部屋に行ってもいいですか?」
「おなかも減ったし、眠い~」
そういう兵士達に、パルサーシャがそれぞれの部屋に連れて行った。殿下は執事と共に、カミィラが部屋に行った。いつの間にか、あの狐は消えていた。残った3人はというと――――――――
「…………スゥ………」
「………zzzz………」
「………」
家に入ってすぐの椅子に座り、爆睡していた。
パルサーシャが2階の部屋に案内し終わり、カミィラを寝かしつけ、下に降りてきた時軽く笑いながら、彼らに毛布をかけた。
ただ、零香に毛布をかけたとき、パルサーシャは彼女の寝言を少し聞いた。
「………ごめん、ね………死ねな、かった………」
眠りながら涙を流し、そう呟いた彼女の頭をパルサーシャはただ黙って1回撫でた。
涙を拭き、ずれた毛布を直し、パルサーシャも自分の部屋に戻り、眠る事にした。
この話を書いているときに、いつの間にか8000アクセスを超え、9000アクセスを突破していた事に気がつきました。
ありがとうございます!^^
嬉しすぎて、吐血しかけましたw
いつも見てくださり、ありがとうございます。
これからもどうか、よろしくお願いします^^
感想など、お待ちしております。