洞窟にて1
今回、短めです。いつもの半分程度しかないです。
途中、いきなりシリアスです。
それでは、どぞ。
孔雀のような鳥がゆっくりと地面に降り立つと、蛇と青年が先に下に飛び降りた。
零香は孔雀の毛を掴みながら、ゆっくりと地面に足をつける。
地面に足が付いた途端、緊張していた気持ちが和らいだ。
周りを見回してみると、木が生い茂った森と、人が一人通れるぐらいの大きさの入り口の洞窟のような物が、一つあるだけだった。
洞窟の奥を見ようとしても、奥は月の光が届かず、真っ暗で何があるのかわからない。
本当にここが目的地で合っているのだろうか、少し不安になった。
「ここで本当に合ってるの…?」
蛇に向かって言うと、蛇は首を縦に振った。
タシカ………ココダ
「その発言で、ものすごく不安になりました」
蛇にムッとした顔を向けられてきたが、その前に青年が手をこちらに差し出してきた。
微笑みながら手を出す訳がわからず、一応左手をその手に添えてみる。
すると、優しくギュッと握られ、そのまま彼は洞窟に向かって歩き始めた。
突然歩き始めたから、最初こけそうになったが、どうにか体勢を戻し、彼に半歩遅れるペースで歩き始めた。
洞窟の中に入ると、生温い空気が体に纏わり付き、背筋がゾクッとした。
蛇が白く発光しているから、明るく感じられたが、それを上回るほどの嫌な雰囲気が洞窟中から感じる様な気がした。
前にいる彼と蛇を見ると、彼らはこれに気づいていないようだった。
(私の勘違い…?でも、この感じはどこかで)
過去の記憶を思い出そうとして、楽しかった日々の記憶が思い浮かんだ。
家族でピクニックに行った記憶。その時に幼い妹と四葉のクローバーを二つ見つけて、しおりにして後日、両親に送ったときのあの笑顔。
お母さんが作った御飯を食べながら、皆でその日の出来事を報告しあった時の事。
あの頃はこんな日常がずっと続くんだと思っていた。
突然、楽しかった思い出が赤い血で塗り替えられた。
まだ幼かった私は、呆然と父と母が殺される瞬間を、目の前で見ていた。
二人の血が、私に飛び散りお気に入りだった白いワンピースが、赤色に染まった。
嫌、正確には三人の血だった。
妹も、同じように私の目の前で殺されたのだから。
そして、血がついた包丁を持ったまま私を見ながら荒い息を吐く男。
残忍な笑顔を浮かべて、獲物を狙うような目で私を見る、男。
その顔から、目が離せなかった。
だって、よく知っている顔だったから。
突然、手から痛みを感じた。
ハッとして、嫌な記憶を頭から消して、自分がいつの間にかその場に座っているのに気づいた。
痛みを感じた左手を見ると、どうやら目の前で心配そうに私の顔を覗き込んでくる、彼の仕業のようだった。今でも、強く握られていて、痛い。
「あの、手痛いので、緩めてもらっていいですか…?」
そういうと、彼は慌てて握っていた手を離してくれた。
少し手が赤くなっていたが、擦ってみるとすぐに元に戻った。
私は、どうしてしまったんだろう。ここは、あの場所とは違うのに。
ダイジョウブカ?タイチョウガ、ワルイノカ
「ううん、大丈夫。平気だから」
……ソウカ、ナラサキニススモウ
頷きながら立ち上がり、裾に付いた土を軽くはらう。そして軽く頬を叩き、気合を入れなおす。
「よしっ」と気持ちを一転させると、彼がまた目の前に手を差し出してきた。
何で手を繋ぐ必要があるのかわからないが、少し戸惑いながらもまた彼の手を握った。
彼は微笑むと、そのまま洞窟の奥へと進んでいく。私も半歩遅れながらついて行った。
歩きながら洞窟の中を観察していると、所々不自然に石が削られているところがあった。
どんどん奥に進むたび、それは明確になってきた。
「この洞窟って、人が作った物なんだ……」
セイカクニハ、ヒトトセイレイガツクッタモノダ。アノコロハ、セイレイモヒトモ、トモニクラシテイタカラナ………
「今は、そうじゃないの?」
セイレイハ、ムカシニクラベテ、ネンネンソノカズガヘッテイル。
サラニ、ニンゲンデマリョクヲモツモノガアマリウマレナクナリ、ワレワレノソンザイヲカンジルコトガデキルモノガ、スクナクナッタ。
シダイニ、ワレラノナカマハ『カミ』ノモトニカエッテイルノダ。ジブンノ『ソンザイイギ』ヲモトメルタメニ。
ニンゲンニ、ヒツヨウトサレナクナッタカラナ。
「……」
マァ、トキドキモドッテワ、グチヲイッテカエルヤツヤ、ジブンノ『アルジ』サガシヲシダスヤツモイルガナ。ワレモ、オナジダ。
「一つ、いい?」
ナンダ
「君、精霊だったんだ」
蛇が軽く彼の肩からズルリと落ちかけた。
いや、発光して半透明な蛇なんて見たことないが、探してみたらいるかもしれないと思って……。
精霊という考えが、全くなかった。思いつかなかった。
蛇が呆れたような顔でため息を付いて、彼の首にもたれかかっているのを見ながら、また周りの観察をしていると、
「ん?」
横に、人が十分通れる道が2つほどあった。それぞれ左と右の分かれ道になっていて、真ん中に看板のような物があった。
気になって、前を歩いていた彼を引きとめ、看板を指差す。
木でできた看板で、何か暗号のような物が書いてあった。
「これ、何ですか?」
「……」
少し考え込んだ後、口パクで何か伝えようとしているのは分かったが、何を伝えようとしているのかが全く分からなかった。
首を横に振り、「わかりません」と伝えると、彼は考え込んでしまった。
ふと、そこで気づく。
(そういえば、この人今さっきから一言も話してない……)
ただ、表情で相手の気持ちが分かったので会話は要らない様な気がしたが、やはり言葉が伝わらないと都合が悪いときがある。今回みたいに。
「帰ったら、カミィラにこの世界の字教えてもらわないとっ」
そうと決めれば、さっさと儀式を終わらせて帰ろう。と、分かれ道の右側の方へと向かった。
何故、右の道を選んだ?という方が多いだろう。理由は簡単。
『女の勘』
である。
色々な出来事を勘や経験から解決していた零香は、自分の勘を信じて彼と蛇を置いて進んだ。
だが、今回は信じないほうが良かった。彼らから離れるべきじゃなかった。
少し力を込め、手から炎を出し、明かり代わりに進んでいたときだ。
前に右足を出すと、カチッという軽い音が聞こえた。
「ん?」
その音をあまり気にも留めず、数歩歩くと、後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた。後ろを振り向くと、彼が慌てた表情でこちらに走りながら、手を伸ばしていた。
零香は、何か起きたのだろうか?と彼の方へと数歩歩いた。すると
「きゃぁっ!」
突然、足元が開いた。
気づいたときには遅く、零香の体は暗闇の中に吸い込まれていった。
数秒後、零香の落ちた穴から水に何かが落ちた音と土砂が崩れた様な音が聞こえた。
彼は、後悔と悔しさを表情に出しながら穴の中を見つめていた。
心の中で、彼女とどうか無事に再会できる様祈りながら、彼は彼女が選んだ道とは反対の道へと歩みを進めた。
看板について
字は日本語でも英語でもなく、カミィラたちの世界の字です。
零香には、暗号にしか見えない代物でした。
書いてあった内容
右に進む者、命知らずの挑戦者。後ろを向くな、走り続けろ。さすれば、正しき道にたどり着かん。
左に進む者、用心深き者。見た目に騙されるな、己を信じよ。さすれば、道は開かれん。
と書いてありましたww
実は、零香が戻ろうとせずその場で彼を待っていたら、トラップは発動しませんでした。
もちろん、先にも色々と仕掛けられていたんですがね。最初で落ちる、主人公。
ちなみに、これを考えたのは兄です。