クロッカス村2-4
少し予定より更新が遅れて申し訳ありません!
そして、いつの間にか3000アクセス超えてた…(・Д・;)
見てくださった方々、ありがとうございます!!
これからも頑張ります!!
「おいおい、あの女自分のゴーレムに食われたぞ?」
「それも俺達に笑いかけるほど、余裕の表情だったよな?何なんだ、いったい」
「……」
零香がゴーレムに飲み込まれるのを見ていた男達は、それぞれ自分の武器を構えながらゴーレムと対峙していた。ゴーレムはこちらを見ながらその場に停止していた。だが、その二つの瞳はあらゆる方向を向いていた。男の内一人が自分の槍を手で回しながら隣の男に話しかける。
「で、どうする?あのゴーレム倒して中身引きずり出すか、そのまま放置にしておくか」
「そんなもの、最初から決まってるだろ」
両手に剣を持った男は満面の笑みで答えた。
「倒して中身を引きずり出す」
槍を持っている男は頷きながら、笑みを浮かべる。
「そう思ったよ」
二人はそれぞれ槍と剣を構えるとすばやくゴーレムに斬りかかった。
ゴーレムは二人の攻撃を両手で受け止め、跳ね返す。二人同時に地面に着地すると剣を持っている男は背後にまわり、ゴーレムの足を片方斬りおとす。ゴーレムの体が傾く。それを逃さず、もう一人の男が下に潜り込む。
「おっと、まだ楽しませてよ?」
槍を軸にゴーレムの体に蹴りを入れる。だが、予想外に硬く足の反動が強い。
ゴーレムは下に潜り込んだ男の足を掴むと剣を持っている男のほうへ投げた。
「予想どうりだな」
剣の男は槍の男の足を剣で受け止め、力を込めて跳ね返す。槍の男は簡単に飛び、ゴーレムの肩に飛び乗り槍を刺した。
「邪魔な腕は斬り落とさないとね」
そのまま力任せに下へ切り裂いた。ゴーレムは片腕片足でフラフラしながらも、腕を振り回し地面に降りた男の体に拳を入れる。
「ぐぁっ!」
拳は見事に命中し、槍の男は少し血を吐きながら遠くに飛ばされた。だが、すぐに立ち上がり槍を持ってない手で口の血を拭く。その顔は笑みのような怒りのような顔だった。
「俺に傷を負わせるなんて、ゴーレムのくせに強いじゃないか」
その顔に剣でゴーレムの攻撃を防いでいた男が「手加減しろよ?」とため息を付いた。
「お前が力を使うと毎回木っ端微塵にするんだからな。中にはあの女がいるんだ。わかってるな?ミュー」
ミューと呼ばれた男は槍を水平状に持ちながら、ゴーレムのある一点を狙っていた。
「そんな事わかってるよ。さっさとコアを狙って終わらせるから、もう一本落としといてよね、シェイド」
「了解した」
シェイドはゴーレムの腕を剣で弾き返し、残っていた片方の腕を切る。バランスを保てなくなったゴーレムはそのままズシーンという音と共に、地面に倒れた。後はミューに任せ、シェイドは剣を鞘に収めた。
「ん、コア発見。頭の中心か……シェイド、離れて」
シェイドはゴーレムの傍から離れ、だるそうにずっと様子を見ていた男の横に立つ。
今もあくびをしながらゴーレムを見ている男にシェイドは呆れ、腕を組んでその場から様子を見守る事にした。
「風を纏え、シュナイデント」
その言葉と共にミューの愛槍『シュナイデント』に風が纏わり付く。
ミューは仲間の中でも一、二を争う魔力の持ち主で、自分を魔法で強化して戦うのを好んでいた。風の魔法を得意とし、速さと風の魔法では誰にも負けたことが無い。風の様に自在に槍を操り、その速さで目的の物を手に入れる彼に付いたあだ名は『疾風の槍 ミュー』。
ミューは後ろに下がり、さらに風の力を強くする。
そして、槍を投げる構えになった。
「貫け、シュナイ『そこまでです』はぁっ?!」
いきなり少女のような声が聞こえ、集中が切れたミューはふつふつと怒りながら周りを見渡した。シェイドも周りを注意深く見回す。すると、いきなり倒れたゴーレムの目の前に紫色の光を放つ魔方陣が現れ、突如強い光を放ち魔方陣のあった場所に人が現れた。その顔を見て、その場にいた3人は驚いた。
「お前ら…!ゴーレムに食われたんじゃないのか?!どうやって戻ってきた」
そこに立っていたのはゴーレムに飲み込まれたはずの男達と奴隷の子供と見知らぬ少女。
そして、一人の男に抱きかかえられているあの女だった。
「その説明は後で致します。その前にレイカが貴方達に用があるそうです」
変わった服装の少女がそう言いながら、あの女の近くに歩いていった。
そして、心配そうに女を見るとこちらに手招きをしてきた。しょうがなく、傍に近寄ると
「!?」
表情をあまり変えないあの男でさえも、驚いて表情を変えた。
男に抱きかかえられていたレイカと呼ばれた女は、左腕から血を流しその場所を右手で押さえながら一呼吸するたび、悲痛の表情を浮かべていた。
よく見ると、右足からも血を流していた。
「おい、どういうことだ。これわ」
「わからない。突然、苦しそうな声を上げたと思ったらいきなり血が出始めたんだ」
レイカを抱きかかえている男がそういうと、レイカがゆっくりと目を開けてこちらを見てきた。
そして、微笑んでゆっくりと手を顔に伸ばしてきた。思わず、表情が硬くなる。顔に手が触れた。その手は異様に冷たく、まるで氷のようだった。
「……ごめん、なさい……」
そう呟いた彼女は話すことさえ難しく、一言話すだけで息が切れていた。
シェイドは彼女の様子にひどく驚いた。それは他の男たちも同じ様だった。
「……ごめん、なさい……」
「なんで謝る」
彼女はシェイドの問いに答えず、「癒し…よ、ここに…」と呟いた。すると、体全体が軽くなり自分の手を見てみると、ゴーレムと戦って負った傷が綺麗に消えていた。
「…あなたも…」
そういうと、同じ様にミューの頬に触れまた呟くと、いつの間にか体の傷が癒えていた。ミューも驚いて自分の体を何回も確認している。
「……ごめん、なさい……」
そう言って彼女は目を閉じ、眠りに落ちた様に見えた。あの男が彼女の傍に行き、体を確認すると「気を失っているな」と呟き、ゴーレムを一瞬見ると彼女の体に癒しの魔法をかける。その行動に男達は驚いた。
普段、この男は他人にあまり関わろうとしない。人が嫌いなのだ、と昔本人から聞いた事がある。
仲間達とも話さず、いつも遠くから興味なさそうにこちらを見ているだけだった男が自分から人に触れたのだ。
幼い時から共に暮らしてきたシェイドとミューは驚いてその背中を見つめていた。すると、男はレイカの傍から離れ、ゴーレムの傍に座るとそれに触れる。
「…肉体を共有させていたのか…」
そういった途端、ゴーレムの体が崩れ残ったのは土の山だけだった。
男は立ち上がり、手を払うとまた彼女の傍に戻る。もう一度、癒しの魔法を使うとレイカの傷は完全に塞がり、血も止まった。すると、気を失っていたはずのレイカが目を覚ました。
ゆっくりと眠そうな目で周りの状況を確認し、自分が抱きかかえられている事に気がつくとすばやくその腕から降りた。その顔が何気に赤くなっているのに気づいたのは、治療した男と男の肩に乗って様子を見ていた少女だけだった。
少女は立ち上がったレイカの肩に乗るとつい先ほどまでの嬉しそうな表情を消し、無表情でこちらを見つめてきた。その表情はまるで人形とように整っていた。少女を肩に乗せたまま彼女は先ほどの男に礼を言うとこちらに向き直り、そしていきなり頭を下げて
「ありがとうございます」
と言って頭を上げ、また微笑んだ。
その笑顔にその場が和んだ。何故だろうか。
「色々と助けていただき、ありがとうございます。ですが……」
その瞬間、彼女の表情が一変した。その場の空気も一変する。
異様な空気に奴隷の少年は震え上がり、思わずシェイドの服の裾を引っ張っていた。
今の彼女は先ほどの優しそうな彼女ではなく、まるで女王のような気品を漂わせながらこちらを見つめていた。その瞳は、氷のように冷たく鋭い。
まるで、あの頃の目の前に立っている男の過去を見ているようだった。
「貴方達を許す事は出来ません。今まで村の人たちにしてきた事。そして、カミィラに剣をむけた事。謝っていただきます」
「何故謝らないといけないんだ?別に…」
続きを言おうとしたミューに彼女は鋭い目つきで睨んだ。思わずミューは背筋を伸ばした。
「私に用があったなら私だけを探せばよかったでしょう。ですが、貴方達は関係ないカミィラにまで手をかけようとした。村の人達にまで手をかけようとした。それが許せないのです。私が傷つけられるのは構わない。どこに連れて行かれようとも、何をされようとも構わない。だけど、私以外の人たちに手を出すようなら……私は貴方達を完膚無きまで叩きのめします」
この表情は本気だ。
そう悟った男達は先ほどの出来事を思い出していた。
もし、あの時彼女が完璧にゴーレムを操れるようになっていたならこの場にいた者達は勝てないだろう。術者が混乱していたおかげで、今回は勝てたが本来ゴーレムは守護者といわれるほど防御力が高く、攻撃力が高く、出来のいい物ほどその力は増す。
彼女が出したゴーレムは、少し動きが鈍い以外はそこらのゴーレムの数倍強かった。
もし、彼女が冷静にゴーレムに命令を下していたら男達は勝てないだろう。
シェイドとミューはその事を考えつき、彼女の存在が少し恐ろしくなった。
だが、次の瞬間恐ろしいという感情は消え去った。
「……すまなかった」
そう言って素直に頭を下げたのはあの男で、自分達よりも身分の高い男だった。
さすがに、自分達もしなければいけないと思い全員頭を下げて謝った。すると、
「くすっ、もういいですよ」
と優しい声が聞こえた。その声に反応して頭を上げると彼女は微笑んでいた。肩に乗っている少女は呆れたような顔でため息を付いた。急激な彼女の変化についていけていないミューとその他3人はポカーンと口を開けていた。
シェイドと最初に謝った男はつられる様に笑みを浮かべていた。
「本当は本人の目の前で謝って欲しかったんですけど、さすがに無理だと思うので、今回はこれで勘弁してあげます」
「詫びの品を届けよう。それでいいか?」
「なら、良いと思います。だけど、次こんな事をするようなら…わかってますよね?」
その言葉に男達は何回も頷く。
彼女は満足したような顔になると、片手を目の前の男に差し出した。
「…?」
「今度来るときは、友人として来てください。そのほうが都合がいいでしょう?それに、正々堂々私も貴方達も勝負できます。だから、友人になるための握手です」
「友人……」
その考えは全く無かった男は驚いた表情になると、元の普段の気だるけそうな顔で手を握った。彼女はその手を握り返すと、思いついたかのように少女に小さな声で何か話し始めた。話が終わると少女がいったん地面に降りて、何も無い場所から大きめのバッグを取り出した。そして、中から小さな宝石の原石を4つ取り出すとレイカに手渡した。
少女からそれを受け取った彼女はその内の一つを男の手のひらに乗せる。
「私と貴方達が友人であるっていう証です。ただの石ですけど、無いよりマシだと思います。今度、ちゃんとした物を作るので出来るまでこの石が代わり、という事でお願いします」
シェイドもミューも一つずつ、彼女に手渡しで渡された。
こんな宝石、すぐに買えるのだが二人には何故か今まで見てきた宝石の中で一番綺麗に見えた。
シェイドはサファイア色の原石、ミューはエメラルド色の原石、もう一人の男はガーネット色の原石を彼女から貰った。
もう一つ残っているのだが、残り2人の男が「いらない」と拒んだので最後の一つは奴隷の少年が受け取る事になった。少年は無邪気な顔でお礼を言いながら大事に貰った石を握り締めてた。
「そういえば、まだ私皆さんの名前を教えてもらってないですね……その前に私の名前を言ってませんでした。私の名前は、零香。樹新零香です。この子はエリミア。どうぞ、よろしくお願いします」
「レナード・アルバドス・エルクーレだ」
「俺はミュー。ミュー・クロイチェフ。あ~、まだ戦い足りない」
「落ち着け。…あー、俺はシェイドだ。ファミリーネームは無い」
「ふむふむ、レナードさんにミューさんにシェイドさんですね。あと君は?」
そう言って彼女は奴隷の少年と同じ目線まで下がり、優しそうに微笑んだ。
少年は少し驚きながら、小さな声でボソリと「……名前、ない」と呟いた。
彼女は驚いたが、これが普通なのだ。子供の奴隷はほとんど名前をつけられる前から奴隷として扱われる。名前などありはしない。あるとすれば、売りに出されたときの番号のみ。
彼女は少し悲しそうな顔を見せたが、すぐに何かを思いついたようだ。
「じゃあ、今君の名前を考えようか」
「えっ……」
戸惑う少年を無視して彼女はどんな名前がいいか真剣に考え始めた。
百面相をしている彼女の表情は面白かった。おもわず笑ってしまった。
ミューも大笑いしだし、レナードでさえも腹を押さえながら笑いを堪えている。
女性に対して失礼だと思うが、何故か自分の意思では止められなかった。
なかなか名前が思いつかないのか、頭を抱えている彼女にレナードは少し助け舟を出した。
「また今度訪れたときまでに考えておけばいいだろう。どうせ次会うことになるのは祭りの時になる。十分、考える時間はある」
彼女は「わかりました。その時までにカッコイイ名前、考えておきます!」と意気込んでいた。少年は、そんな彼女の傍をうろうろと不安そうに歩いていた。が、
「レナード様、遠くに沢山の人の気配があります。どうやら騎士団のようです」
真剣な顔でどこか遠くを見つめながら言った。その言葉にレナードや他の男達はため息を付いた。レイカとエリミアの頭にはハテナマークが浮かんでいるように見えた。
「急いで帰るぞ。馬を持って来い」
「すぐ傍に」
すでにそこには彼らが乗ってきた馬が全てそろっていた。
それぞれ馬に乗りながら、レイカに挨拶をして村を出て行った。そんな彼らにレイカは手を振りながら大声で叫んだ。
「いつでも歓迎しますから、いつでも来てくださいね!!」
彼女の姿を少し振り向いて手を振り返す彼らの表情は、明るかった。
「……本当は優しい人だったんだね……」
そう呟いた自分を作った主人を見上げながら、エリミアは心の中で
(あいつらも警戒しとかないと………)
と、新たに零香を狙う男達リストに追加する事にした。
そんな事は露知らず、零香はまだ少しだけ痛みのある左腕を押さえながら
「さてと、早く帰らないと晩御飯が間に合わない」
と呟き、エリミアを抱えながら家に走って帰った。
その後、彼女の部屋は村の人たちからの感謝の品物や彼らから送られてくる品物で埋め尽くされる事になった。
3000アクセスを超えたので、予定通り番外編をあげようと思います。
どうしようかな~…♪
どうぞ、お楽しみに♪