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Dolls  作者: 夕凪秋香
第1章 クロッカス村
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迷子

部屋で寝ていたはずなのに、なぜか木にもたれかかって眠っていた零香は、傍に落ちていた昨日完成させたばかりのビスク・ドールを持って辺りを歩き回っていた。

部屋で眠っていたはずなのに、目を覚ましたらいきなり森の中で頭の中が混乱していた。

だけど、座ってるままだとセーターを着ているとはいえ寒いから、動くほうがマシだろうと森の中を歩いている。素足で寒いけど。


「……ここ、どこなんだろう…」


草を掻き分けたり、小さな川を渡ったり、時々休憩を入れながら歩く。だけど、ここがまだどこなのか特定できていなかった。


「…さむっ…」


冷たい風が体に当たるたびに、震えだす。寂しさも加わり、気分がものすごく落ち込んできた。思わず、その場に座って体を縮みこませた。


「…私、どうなるのかな…」


持っていたビスク・ドールを抱きしめながら、心を落ち着かせようとする。でも、反対に落ち着かなくなり、心細さから涙が零れた。手で拭っても、どんどん溢れてくる。何回拭っても、止まる様子がなかったので諦めた。


「ぐすっ、誰か…いないの~…っ」


零香は、どこか分からない場所で一人、泣き続けた。持っている人形が腕から抜け出していることに気づくこともなく。












金髪に碧眼、見た目はかっこ良く、愛想もいいという典型的な「イケメン」の部類に入る男――――リュナミス・アルトバーンは、血の繋がっていない義妹、カミィラと一緒に森の街道から自宅へと徒歩で帰っていた。片手に色々な荷物をまとめた袋をそれぞれ一つずつ持って、たわいもない話をしながら。


「でね、あの人いきなり机ひっくり返したんだよ?おかしいよね」


「あぁ、そうだな」


自分とは違って、純粋で無垢なカミィラの話を聞きながら、日頃なかなか出来ない話を心の中で楽しんでいた。カミィラ自身は、「話、つまらないのかな?」と心配するぐらいいつもより、リュナミスの反応が薄い。そんなことはいつもの事だったから、無視しながら話をする。


「今度の遠征が終わったら、隊の皆で食事に行こう!って提案したの、あの人なんだよ」


「――――――――グスッ」


「ん?」


小さな音だったが、それが泣き声だと気づいたリュナミスは立ち止まり、聞こえたほうへと顔を向ける。カミィラは「どうしたの?」といいながら、同じ方向を見てみる。遠くてよく見えないが、黒い髪を持った女性が地面に座っているのが見えた。


「あの人、どうしたのかな」


「分からないが、…ちょっと行ってみるか」


「うん」


二人そろって街道から逸れ、森の中へと入る。近づくたびに、声が大きくなっていく。そして、彼女の姿がくっきりと見えた。

長い髪を頭の上で結い、白い服を一枚だけ身に着け、長いベージュ色のスカートを穿いて彼女は地面に座っていた。その体は、小刻みに震えていた。


「ねぇ、どうしたの」


「―――――ッ」


カミィラの言葉に反応して顔を上げた彼女は、顔がひどい状態だったが、声はピタリと止んでいた。そして、カミィラとリュナミスの顔を交互に見て、黒い瞳に涙を溜めた。


「△■×○♯」


口を開いて、何かを伝えようとしているのは分かったが、何を言っているのかさっぱり分からない。こちらも、「どうしたの?」「何があった」と声をかけたが、彼女には伝わっていないようだった。彼女は、困惑した顔で胸元を握り締めて下に俯いていた。


「どうしたものか……」


「彼女、今まで見たことないような人だし…言葉も通じないし…」


困り果てたその時、彼女の後ろからピョコンッと小さな女の子が出てきた。紫色の瞳に金髪の長髪、黒いワンピースと白いエプロンを身につけ、頭に小さな紫色のコサージュをつけているその少女は、二人の前に彼女を挿んで立つと、優雅な礼をした。

その光景に驚き、こちらも礼を返す。カミィラも礼を返したが、そのままポケーッとその少女を見つめていた。義妹は、かわいい物が大好きなのだ。

少女は後ろを振り返り、彼女の手を掴み、何かつぶやいた。彼女は、手を掴んできた小さな手を見て驚き、うれしそうに頬を染めた。その顔は、幼い頃の面影を残した女性の笑顔だった。その顔に、少し心が惹かれた。


少女は、彼女の手のひらに魔方陣のような物を描き、その手を彼女の首に当てた。すると、小さな紫色の光が生まれ、彼女の首に集まる。訓練をしないと使うことの出来ない『魔法』を簡単に使っていることに驚いた。カミィラも同じ事を思ったらしく、二人で顔を見合わせ、彼女の結果を見た。

彼女は、首を擦りながら、少女に「どうしたらいいの?」といった顔を向けていた。少女はそれに笑顔で答える。

そして、彼女は口を開いた。


「…あっ、あぁー」


彼女の声は、とても綺麗だった。どうやら魔法を使い、言語変換魔法を使ったらしい。

彼女は、こちらを見つめて「私の声、判りますか?」と言ってくる。

戸惑いながらも、二人はうなづいた。


「よかった~。今さっきはとても落ち込みました…」


彼女は、安堵した顔で立ち上がり、スカートについた土を払う。そして、傍に居た少女を軽々と抱き上げる。


「ねぇねぇ、その子妹さん?」


カミィラが興味津々な顔で彼女に問いかける。普通はそこで彼女の名前を聞くところだと思ったが、彼女の答えに二人そろって驚愕した。


「その子…?あぁ……、エリミアの事ですか。エリミアは……私が作った人形ですよ?」


「ねぇ、エリミア」と名前を呼ばれた少女は、彼女の胸に体を預けながら、はっきりと言った。


「はい。私は、零香マスターによって作られた人形です」



少女だと思っていた子供が少女の形をした人形だったことに、カミィラは声を上げながら喜び、リュナミスはというと


「何で、気づかなかったんだ……」


何故か、頭を抱えながら落ち込んでいるのだった。












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