それは因果応報だった…。
妹ばかりを優先する令息の婚約者となった令嬢のお話です。すぐに終わります。
「申し訳御座いません。ウィル様はミミリー様の体調を心配されて本日のデートには来られなくなりました。」
申し訳ないと頭を下げる使用人に、メアリーは表情を歪ませた。
メアリー・ジュエル伯爵令嬢の婚約者、ウィル・マーナー伯爵令息は彼の妹であるミミリーの事ばかり優先している。ミミリーの体調不良を理由にデートをドタキャンする事は何度もあり、今日でもう何回目になるかも分からない。デートに行けてもミミリーを同伴させてデートとは言えない状態になるし、メアリーの頼みよりもミミリーの頼みに耳を傾けてばかりだった。そしてメアリーは確固たる証拠はないが、ミミリーは態と邪魔をしてきていると確信していた。
「メアリー、それは誤解だよ。ミミリーはそんな事をするような子じゃない!」
ある日我慢できなくなったメアリーがウィルにミミリーの事を訴えたが信じて貰えなかった。ならばせめてミミリーの事はともかく、婚約者である自分の事も考えて欲しいと言ってみたのだが、
「僕が愛しているのはメアリーだ。でも妹のミミリーの事だって大事なんだよ。ごめんねメアリー、でも分かってくれ!」
ウィルはそう言って謝罪と言い訳をするだけだった。けれどメアリーはウィルの事を愛していた為、その後も我慢し続けた。しかし相変わらずウィルはミミリーばかりを優先し、この状況が変わる兆しが全く見えない為、とうとうメアリーは耐えられなくなってしまった…。
◆◇◆
「メアリー、よく今まで我慢したな。」
「…うぅっ、ぐすっ、お兄様!」
「…。」
ジュエル伯爵家に戻ったメアリーは、メアリーの兄であるアドル・ジュエル伯爵令息に抱きついた。アドルはメアリーを痛ましそうに見つめながら頭を撫でた。そんな2人の様子を、ジュエル伯爵家に招かれているアドルの婚約者サラ・ストーン子爵令嬢が眺めていた。
「ウィルの奴、よくもメアリーをこんなにも傷付けてくれたものだ。婚約解消ではなく、アイツの有責で婚約破棄させて貰うしかないな!」
ウィルを憎み、怒りを露わにするアドルにメアリーは少し嬉しそうに笑った。どんな時でも自分の味方をしてくれる兄の存在に、メアリーは何時も救われてきた。
「サラ、君もそう思うだろう。妹ばかりを優先させる最低な婚約者相手に、メアリーはよくここまで我慢したと思わないかい?」
アドルがサラに話を振る。サラは何時もメアリーの話を静かに聞いてくれる大人しい令嬢だ。メアリーがウィルの事で悩んでいると、アドルだけでなくサラも話を聞いてくれた。サラが何を言ってくれるか分からないが、メアリーの味方をしてくれるに違いないと2人は思っていた。
「…いえ、マーナー伯爵令息は妹想いの素敵な男性だと思いますよ。」
「…へ?」
しかし、サラから出た言葉はウィルを褒める言葉だった。
「…っ、な、何を言っているんだサラ? メアリーはアイツにずっと悩まされて、傷付けられてきたんだぞ!」
一瞬何を言ったのか理解出来ずにいたアドルは黙っていたが、ウィルを褒めた事を理解出来るとサラに詰め寄った。メアリーも目を丸くしてサラを見た。
「アドル様、落ち着いて下さい。マーナー伯爵令息は彼の妹を大切にしているだけですよね。メアリー様が暴言を吐かれたり暴力を振るわれた訳でもない。そして浮気をされた訳でもないのですから、婚約破棄だなんて言い過ぎではありませんか?」
「サ、サラさん?」
無表情で淡々と、ウィルを庇う発言をするサラにメアリーは困惑と共に段々悲しくなっていく。泣きそうな表情になったメアリーに気がついたアドルは、サラを睨み付けた。
「っ、サラ、自分が何を言っているのか分かっているのか!? 妹を大切にしているだけ、なんて言葉では済まない事をアイツはしているんだぞっ!? 婚約者のメアリーを蔑ろにして妹ばかり大事にするだなんて、そんな事が許されていい筈がないだろうッ!!」
アドルはウィルを擁護し、メアリーの気持ちを考えていない様子のサラに対する苛立ちと、サラの間違った考えを正さなければならないという使命感からか、必死な様子で声を張り上げた。
「…婚約者よりも妹ばかりを優先する事は許されない。アドル様はそう思うのですね?」
「っ、あぁそうだ、当たり前だろう?!」
「…サラさん。」
サラに態度に変化は見られないがアドルの考えは伝わった。そう思ったアドルとメアリーは何処か安堵した様子を見せた。
「それならば、アドル様は私に許されなくて当然だと、受け入れるのですよね?」
しかし、次に出たサラの言葉の意味を2人は理解出来ずに固まった。
「…は? な、何の話だ…。」
「ふふっ、ここまで言われても分からないのですね。アドル様だって、婚約者を蔑ろにして妹ばかり優先していたではありませんか。」
身に覚えがないと困惑するアドルにサラは冷たく失笑した。今まで2人に見せた事がないサラの様子に、場の空気が緊張に包まれていく。
「メアリー様の体調が悪くなったと言って、何度もデートをキャンセルされましたよね。それにデートに行けてもメアリー様が付いてきて、2人で出かけた事なんてありませんでした。さらにメアリー様が行きたいと言った場所をデート先に指定した事が何度も、何度も何度も、ありましたよね…ね?」
「っ、!」
「あっ…。」
言葉の節々に負の感情が乗せられていると強く感じるサラの声に怖気づきながらも、メアリーとアドルはハッとした顔をして思い出した。サラとアドルは両家の為に結ばれた婚約者だ。しかしアドルはサラの事を好きになり、何の不満もなく幸せだった。しかしアドルとサラが婚約者になってから、メアリーが体調を崩す事が増えたのだった。メアリーの傍にいる為にサラとのデートをキャンセルする。一緒に行きたいと願うメアリーの為にサラとのデートに同伴させた事を振り返り、自分の過去の振る舞いはウィルと同じだと思い、アドルは気不味い表情をした。
「メアリー様が私を気に入らないと思っていた事は気付いておりましたよ。でも、私とアドル様は政略結婚の為に婚約者となりましたので個人的な感情ではどうにも出来ません。それに伯爵家よりも身分の低い子爵家の私から断る事なんて、尚更出来ませんでした。」
「…っ!。」
メアリーはアドルの婚約者となった当時のサラの存在が面白くないと思い、2人の仲を邪魔しようと思った。仮病を使ってデートのドタキャンをさせる。2人のデートに必ず同伴する。デート先を自分の希望の場所にて、サラよりもメアリーの方がアデルにとって大切な存在なのだとマウントを取る等の嫌がらせをしていたのだった。ミミリーと同じ事をメアリーもしている、その事実に気がついたメアリーは苦い顔をした。
「そんな…サラ…っ!」
そしてアドルは、サラが自分との婚約解消を望んでいた事を知り、ショックを受けた様子で呆然とサラを見た。
「でも、メアリー様がマーナー令息と婚約者になってからは私に嫌悪感を向ける事はなくなりましたよね。メアリー様は私の人格が気に入らなかったのではなく、大好きなお兄様に婚約者が出来る事が気に入らなかっただけなのだろうなと思いました。」
メアリーはウィルと両想いになって婚約者になった。兄のアドル以上に大好きな存在が出来た事と、サラの言う通りでサラ自身を嫌っていた訳ではなかった為、メアリーはサラとアドルの邪魔をする事を止めた。
「それはきっと、ミミリー・マーナー伯爵令嬢も同じなのではないでしょうか? 私はマーナー令嬢とお話しした事はありませんが、お二人はよく似ていると思いますよ。」
そして自分のやった事を忘れて、未来の義姉となるサラに懐いた。サラがメアリーをどう思っているかなんて考えもせずに…。
「あ、あ…わ、私、その、ごめんなさい。」
今のメアリーはかつてのサラと同じ立場にいる。婚約者に妹ばかりを優先されて自分は蔑ろにされる。それがどれだけ辛いのか思い知らされたメアリーは、サラへの気不味さと罪悪感に襲われて弱々しく謝罪を口にした。しかし、サラは表情を全く変えない。
「でも、メアリー様は私とは違って婚約解消しようと思えば出来ますものね。私はメアリー様とマーナー伯爵令息はとてもお似合いだと思いますので個人的には残念だと思います。ですが…」
サラは最後まで言わずに視線をメアリーからアドルに移した。アドルは不安な表情で何を言われるのかと身構えた。
「…妹ばかりを優先する最低な婚約者だと思うなら、アドル様の仰る通り、離れた方が良いかもしれませんね。」
「「っ…。」」
メアリーとアドルは、無表情のサラから視線を逸らす事が出来ず、顔色を悪くさせたまま黙り込むしかなかった…。
よくある設定のお話でしたが、主人公がただの被害者ではなくて「婚約者に優先される妹」でもあったという設定にしてみました。自分が意図してやった事で傷付けられた相手と同じ立場になった時(虐めをした人が、虐められるようになる等)、因果応報だ、罰が当たったのかと思える人って少ないんじゃないかなと思います。大抵の人は悪い事をしたなんて思わなかったり、覚えていないのではないかと思います。今回の話の主人公のメアリーはサラにした事を忘れてました。かつてサラにした事が自分に返ってくるように婚約者に蔑ろにされましたが、ただ自分は可哀想だとしか思いませんでした。そしてアドルも同じで、妹を優先してばかりのウィルと自分が似ているなんて思いもせずに彼を非難していました 笑 サラは立場上、思う事はあっても子爵令嬢として我慢してましたが、自分達の行いに結びつかずに相手を非難するアドルとメアリーにプチンッ、と切れてしまった…という感じです。
あとがき長くてすみませんでした。ここまで読んで下さり有難うございました! もし宜しければ評価して頂けると嬉しいです!




