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お客様の願い「1億円欲しい」について考えてみた件

初回の顔合わせから、三日後。

私は占いの館のレンタルスペースで、二回目の打ち合わせの準備をしていた。

書類や契約書を整え、心の中で確認する。


「今日も落ち着いて、しっかり説明するぞ」


時間になり、カーテンがゆっくり開く。

先日と同じ青年が、少し気まずそうに顔を出す。


「こんにちは。今日は……少し具体的な話を聞きたいんです」

「もちろんです。では、どんな願いを考えていますか?」


青年は少し考え込む。

「例えば、1億円って手に入りますか?」


私はにこやかに答える。

「できますよ。ただし、錬金術みたいにいきなり現金が湧いたり、銀行口座の残高が増えるわけにはいきません。適切なプロセスが必要です」


「適切なプロセス?」と青年は首を傾げる。


「例えば、知り合いに大富豪がいれば、遺産相続で優先的にお客様に遺産が配分されるように調整できます。

ただし、大富豪の寿命はお客様より短くなければなりませんし、相続税もお客様が準備する必要があります。

相続するものが現金だと都合がいいですが、不動産や金融証券、貴金属だと少し手間が増えます」


「自分に大富豪の知り合いなんかいない」

と青年は肩を落とす。


「ちなみに1億円の相続税ってどのくらい?」


「――ざっくりですけど。」


青年の質問に私は電卓を叩き、数字を見せた。


「120万円?!」

「1200万円です」


彼の驚きに、半ば被せるように私は答えた。


「相続税ってそんなにするの?」

「ケースバイケースですね。これ、安い方です」


私の答えに、青年の口はポカンと開いたままだ。


「税金とか払わないで済む方法はある?」

彼が聞いてくる。


「そうですね。非課税の場合は年間50万円が目安ですから、1億円を非課税で手に入れようとすると、200年かかります」


さすが私。

このくらいなら電卓なくても計算できる。


――あれ?彼の反応が薄い。


「いやいや、そんな長生きできない」と青年は顔をしかめる。


「そうなんですか?」

私は自分の死神年齢を基準にして、あっけらかんと答える。


青年は肩をすくめ、笑って言った。

「1億円は無理そうだね。じゃあ、また出直します」


少し残念そうに、カーテンの向こうに消えていく背中を見送り、私は心の中でつぶやく。


「少額分割の方が堅実だと思うんだけどな」


まあ、今回は契約書にサインはもらえなかったけど、

次は何とかサインもらおう。


そう思うと、少し肩の力が抜けた。

今日も契約が一歩前に進んだ気がする――

ナナミの営業レディとしての日常が、ゆっくりと前に進んだ。


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