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転生チート先払いなのに現世でスルーされ続ける件

現世に降りてから、営業活動にも少しだけ慣れてきた。

成果は出ていないけれど、動き方だけは板についてきた気がする。


今日も私は、駅前に立っている。

手にはティッシュ。

白地に青い文字で、会社名とフリーダイヤル、

それから商品名とキャッチコピー。


――転生を勧める保険

――願いを叶えて転生しよう


正直、自分でも少し胡散臭いと思う。

でも、内容はきちんとしている。

むしろ説明すればするほど、現実的で厳しい商品だ。


私たちRSHの保険商品は、こうだ。


死後三年が経過した時点で、必ず転生しなければならない。

拒否はできない。延長もできない。

転生先は選べないし、もちろん転生チートもない。


その代わり、現世にいる間に「一つだけ」、

願いを叶える補償が先払いされる。


「チート先払い」


ただし、条件がある。


法律違反は不可。

他人への危害も不可。

物理法則を逸脱する願いも不可。

超能力系も不可。

時間跳躍は論外。

願いによって直接、あるいは間接的に被害が生じる場合、

その願いは保証対象外となる。


……できることは、正直かなり限られている。


頭の中では、私は完璧に説明できる。

研修で何度も繰り返した内容だ。

相手の反応を見ながら、順番を変えて説明する想定までできている。


でも現実では、その機会がない。


ビラ配りのときは、もっとひどかった。

受け取ってすらもらえない。

差し出した瞬間に視線を逸らされ、手を引っ込められる。

あれは、精神的に地味にくる。


だから、ティッシュに変えた。


「どうぞー」


受け取ってもらえる。

それだけで、少し救われる。

でも、ほとんどの人は中身を見ない。

軽く広告をチラ見して、そのままポケットへ。


話しかけようとすると、距離を取られる。

商品名を指でなぞる人は、ほぼいない。

「転生」という言葉を口に出す前に、会話は終わっている。


それでも私は、ポケットの中のスマホを確認する。

画面は暗い。

着信も、通知も、何もない。


音量は最大。

マナーモードでもない。


……鳴らない。


今日も、一度も鳴らない。


夕方になり、人通りが減ってきた。

ティッシュの箱も軽くなった。


今日も、契約はゼロ。

問い合わせもゼロ。


それでも、私は地獄に帰らない。

もう少しだけ、ここに立つ。


スマホは静かなままだ。

でも、鳴る可能性がゼロだとは、まだ思っていない。


私は新人営業レディだ。

元は死神だったけれど、今はただの営業だ。


だから明日も、

また説明できない商品を抱えて、現世を歩く。

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