お客様の願い「願い事を見つけたい」について考えてみた件
前回の打ち合わせから数日後。
私は占いの館のレンタルスペースで、書類を整えながら心の中で自分に言い聞かせる。
「今日も落ち着いて、しっかり打ち合わせしよう」
カーテンがゆっくり開き、あの青年が少し困った顔で顔を出した。
「ナナミさん……正直、願い事が思い浮かばなくて……」
私はにこやかに息をつきながら、机の上の書類を整理する。
「そうですね、無理に見つけなくてもいいかもしれません。願い事って、案外難しいものです」
青年は眉間に皺を寄せ、小さくため息をつく。
「個人的な欲望は代償が大きいし……
世のための願いは時間や手間がかかる
生活に密着した願いもあるけど、結局みんな困っていることだし、現実でもある程度対応されてるんだよね」
私も頷く。
「そうなんです。困っていること自体は、社会がある程度カバーしています。だから、願いとして使うには少し勿体ないんです」
青年は視線を床に落とし、小さく笑った。
「なるほど……願い事を見つけるのって、思ったより難しいんだね」
私は机の書類に手を置き、少し考える。
「無理に大きな願いを探さなくても、日常の小さな幸せや充実感も立派な願いです。
例えば、寝る前に『今日一日が平和だった』と感じられることとか」
青年の顔が少し和らぐ。
「なるほど……それなら、僕でも思いつくかも」
「はい。願いの形は人それぞれです。小さな幸せを積み重ねることも、十分価値があります」
青年は背を伸ばし、少し笑った。
「じゃあ、今回は無理に大きな願いを考えず、日常の幸せを意識してみるよ」
カーテンの向こうに背中を見送りながら、静かな館内に残った私は心の中で小さくつぶやく。
「なるほど……願い事を探すのは難しい。でも、それに気づくことも大切なんだ」
今日も営業レディとしての日常は、静かに、少しだけ重みを増して動き出す。
そして、この小さな気付きが、次回――青年が本当に必要な願いにたどり着くための橋渡しになるのだろう。




