お客様の願い「慢性的渋滞を解消したい」について考えてみた件
前回の顔合わせから数日後。
私は占いの館のレンタルスペースで、今日も打ち合わせの準備をしていた。
書類や契約書を整えつつ、心の中で自分に言い聞かせる。
「今日も落ち着いて、ちゃんと説明するぞ」
時間になると、カーテンがゆっくり開く。
あの青年が少し困った顔で顔を出した。
「ナナミさん……またお願いがあるんですけど」
「もちろんです。どんな願いですか?」
青年は小さく息をつき、少し恥ずかしそうに言った。
「僕はバイト先にバスで行ってるんだけど、信号に引っかかることが多くて……もう少しスムーズに流れるようにしてほしい」
私は軽く息をつき、にこやかに答える。
「なるほど。信号の待ち時間ですね。実現はできます」
青年の目がぱっと明るくなる。
「本当に? 毎日5分も6分も待たされるんです!」
「はい。ただし……」私は説明を続ける。
「道路の信号間隔は定期的に調整されています。
必要なら、管轄警察の関係者にチョチョイとすれば
短期的には変えられますが、長期的には元に戻ります。
助かる人もいれば、逆に混む道路も出ますし、
日常的には細かく調整されているので、願いを使うほどではありません」
青年は眉間に皺を寄せ、少し考え込む。
「……なるほど。願いとしては、微妙ってことですね」
ナナミは軽く笑って、少し付け加える。
「願いを使うにはちょっともったいない感じです。契約せずに別の願いを考えて大丈夫ですよ」
青年は少し肩を落とすが、納得したようにうなずく。
「今回も契約見送りですね……」
「大丈夫です。こうして考えるだけでも、少しだけ仕事をした気分になりますから」
青年は立ち去り、私は心の中でつぶやく。
「小さな幸せは確かにあるけれど、願いとしては控えめ……
でも、こうして日常をちょっとだけ変えることを想像するのも、悪くない」
営業レディとしての日常は、今日も少しずつ前に進む――
次の打ち合わせに向けて、準備を整えるのだった。




