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お客様の願い「野生動物との共存」について考えてみた件

青年から打ち合わせの連絡が入ったのは、

前回から数日後だった。


私は占いの館のレンタルスペースで、

いつものように書類を並べながら彼を待つ。


時間になると、カーテンが開き、青年が少し気まずそうに顔を出した。


「こんにちは。世のためになる願いを考えてきたんですけど……正直、途中までです」


「大丈夫ですよ。今回は打ち合わせですから」


青年は席につくと、スマホをポケットにしまいながら言った。


「最近、ニュースで見たんです。山の動物が街に出てきて、事故とか被害が増えてるって」

「熊やイノシシですね」

「それです。それを見て、何かできないのかなって」


私は小さく頷く。


「現世の日本では人口減少が進んでいます。人の生活エリアが縮小して、使われない土地が増えている」

「それで動物が?」

「ええ。ちなみに現世の人口減少、つまり転生数が減ってるのも、地獄的には結構深刻なんですが」


思わず本音が漏れると、青年は苦笑した。

「じゃあ……野生動物と人間が共存できるようにする、って願いはどうでしょう」

「悪くないですね」


私はすぐに営業モードに切り替える。


「では、基礎設定を詰めましょう」

「基礎設定?」


「まず範囲です。日本全体、都道府県単位、市町村単位」

「そんなに細かく決めるんですね」

「願いは雑だと、だいたいロクなことになりません」


青年は納得したようにうなずく。


「まずは基本方針ですが、共存か、棲み分けか

 どっちでいきますか?」

「違いは?」

「共存は奈良公園の鹿。棲み分けは進撃の巨人方式ですね」

「……壁を作る?」

「はい。コンクリート製もありますし、電気柵もあります」

「電気柵?それって安全なんですか?」

「死なないレベルに調整しますが、動物愛護団体から確実にクレームが入るので、おすすめはしません」


青年は頭を抱えた。

「それ、願い一つで解決できる話ですか?」

「範囲を指定していただければ、管轄する行政議会に法案を持ち込み、予算を確保して施行します」

「議会?」

「法案可決自体はチョチョイです。必要な人数の議員さんに、適切な手段で」


青年は何も言わずに遠い目をした。

「時間、かかりますよね」

「予算確保は少々。ですが一番の問題は用地取得です」

「用地?」

「里山は私有地が多いので、壁の範囲指定で揉めます」


しばらく沈黙。

やがて青年がぽつりと言った。

「物理的な壁より、手続きの壁の方が高いですね」

「その通りです」


青年は立ち上がり、軽く頭を下げた。

「この願いは一旦キープで。もう少し考えてきます」

「承知しました」


立ち去る青年を見送りながら、私は静かに息をついた。

世のための願いほど、現世では難しい。


それでも契約書にサインをもらうまでは

この打ち合わせは続いていく。


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