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「完結済」断罪イベント大炎上。悪役令嬢のわたしが冤罪証拠を突きつけたら、王子と聖女が一晩でざまぁ要員になりました  作者: 夢見叶
第2部 学園編中盤・陰謀の影と隣国皇太子

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第3話 王城会議と、招かれざる聖女

 「中央大陸諸国会議、ですって……」


 早朝の馬車の中、窓の向こうに王城の塔が近づいてくるのを眺めながら、わたくしはつぶやいた。

 前世で見た、あの最悪の未来の画面に並んでいた単語だ。


「顔がこわばっているぞ、リリア」


 向かいで書類をめくっていた父――アルベール公爵が、視線を上げた。


「緊張なさっているのは、お父様の方ではなくて?」

「していないと言えば嘘になるが、王城の会議とはそういうものだ。笑顔で剣を突き合わせる場所だからな」


 冗談めかしながらも、父の手元には帳簿の写しがある。

 祈り地図、特定商会の取引先、ミア様宛ての招待状――先日サロンで突き合わせた紙束の一部だ。


「今日の議題は、諸国会議で何を話し、誰を出すか。教会も、当然関わってくる」


 馬車が止まり、冷たい朝の空気が流れ込んだ。



 会議室前の前室には、既に数人の貴族が集まっていた。軽く挨拶を交わしつつ、案内役の騎士の後ろを進む。


 扉の隙間から、ちらりと中が見えた。

 壁一面の大陸地図と各国の旗。机の上の羊皮紙。学院で見た「聖女の祈り地図」とは違い、ここに塗られているのは国境線と利権だ。


 やがて扉が開き、全員が膝を折る。


 席順は、すでに決められていた。


 奥の正面に王。

 右手に教会席。豪奢なローブの大司教と、その隣に表情のこわばった穏健派司教。

 左手に、レオン殿下と宰相。

 長机の側面に、公爵家を含む有力貴族。


 王を挟んで、「教会」と「次代の王」が向かい合う配置だった。


 わたくしは父の一歩後ろに控えながら、その「図」を頭に刻む。



「本日の議題は、数か月後に開催される中央大陸諸国会議の議題案と、我が国の代表団構成について」


 宰相の声が響く。


「国境紛争の調停、魔物被害への共同対策、貿易路の安全確保……」

 硬い単語が並んだあと、彼はわずかに言い淀んだ。


「そして、我が国は聖女の奇跡を有する国として、諸国から注目されよう」


 その一文で、会議室の空気が変わる。

 わたくしの背筋に、うすい寒気が走った。


 わたくしが口を開く前に、椅子が一脚、音を立てて立ち上がる。


「その注目こそ、神の御名を広める好機にございますな」


 柔らかな声で言ったのは、大司教だった。

 銀糸の刺繍が光るローブ。指には太い金の指輪。


「聖女ミア様にも、ご同行いただくのがよろしいかと存じます。各国の民の前で祈りを捧げられれば、いかほどの心が救われましょう」


 慈愛に満ちた提案。

 けれど、その内側に潜む「看板」としての価値を、わたくしは知っている。


 隣の穏健派司教が、一瞬だけ眉を寄せた。だが何も言わず、視線を伏せた。


「良い案だと思います」


 真っ先に賛同したのは、レオン殿下だった。


「ミアなら、きっと自ら望むだろう」

「彼女の祈りで救われる者がいるなら、それを閉じ込めておくのは違う」


 真っ直ぐな声。迷いのない瞳。


 大司教は、殿下の言葉に乗るように微笑んだ。


「殿下の慈悲深さは、まさしく王道の徳にございます」

「聖女様がご同行なされば、諸国は神の加護にひれ伏すほかありますまい」


 そして、何気ない調子で一文を足す。


「……聖女様がいらっしゃらずとも、我らにはやりようはございますが」


 さらりとした一言。

 けれど前世の記憶を抱えたわたくしには、「聖女を失っても別の手段で事を起こせる」と聞こえた。


 大陸地図の上に、砲火と炎の画面が重なる。



「聖女のご同行は、慎重に考えねばならぬ」


 王の低い声が、場の熱を冷ます。


「アルベール」


 名を呼ばれた父が立ち上がる。


「聖女様を神の贈り物ではなく、戦略資源と見る国も出ましょう」

「王城の加護を離れた場で、完全な警備は不可能です。教会の権威そのものを快く思わぬ国もあります」


 淡々とした現実論が置かれていく。


 王は小さく頷き、次にわたくしを見る。


「リリアーヌ。お前はどう見る」


 椅子を引いて立ち上がり、一礼する。


「畏れながら、わたくしも父と同じく、聖女様のご同行には慎重であるべきだと考えます」


「聖女様の奇跡が眩しければ眩しいほど、それを独占したいと考える国も現れましょう」

「称賛だけならまだしも、嫉妬や恐怖の視線も、聖女様お一人に集まります」


 本当は、「聖女拉致未遂」などという物騒な単語が頭の中で点滅している。

 けれどそれは、誰にも見せられない「ゲームの文字」だ。


「殿下のお優しさが、聖女様を案じてのものであることは、わたくしも理解しております」

「ただ、祈る人を守るためには、祈りの場を選ぶこともまた、必要ではございませんか」


 そこまで言ったところで、レオン殿下の瞳が鋭くなった。


「君は、あまりにも人を疑いすぎる」


 静かな、けれど感情を含んだ声。


「ミアは人を救いたいと祈り続けてきた。その想いを、『危ないから駄目だ』で封じるのは違う」


 ミア様の意思を代弁しているつもりなのだろう。


 わたくしが返答を探す前に、大司教がまた口を挟んだ。


「恐れは、しばしば尊き志を曇らせるもの。……公爵令嬢よ」

「民は奇跡を求めておりますぞ。聖女様のお姿が、どれほど多くの心を結ぶか」


 やわらかな声で、わたくしを「臆病なブレーキ役」に見えるよう刺してくる。



「……聖女のご同行が諸国に与える影響は、今ここで測りきれぬ」


 王が、ゆっくりと結論を口にする。


「我らはかつて、教会の力に頼りすぎて、見えなくなったものがあった」

「今回、聖女は同行させぬ。代わりに、記録と証言、資料を整えよ」


 大司教は目を細めてから、穏やかに頭を垂れた。


「かしこまりました」


 その笑みは、「この程度の後退なら、いくらでも巻き返せる」と言っているように見えた。



 会議が終わり、長い廊下を父と並んで歩く。


「教会からの反発は強まる。心しておけ」


 低い声で告げる父に、わたくしは「はい」とだけ答えた。


 角を曲がろうとしたところで、背後から呼び止められる。


「リリアーヌ」


 振り返ると、レオン殿下が立っていた。周囲に人影はない。


「お先に失礼いたします、お父様」

「ああ」


 父が歩み去り、わたくしと殿下だけが残る。


「なぜ、あそこまで強く反対した」


 殿下の声は、抑えた怒りを含んでいた。


「ミアを案じているのは、君も同じだと思っていた」


「もちろん、案じておりますわ」


 わたくしは丁寧な口調を崩さず、殿下を見る。


「だからこそ、です。わたくしは、ミア様を聖女利権の駒にさせたくないだけです」

「諸外国の思惑が渦巻く場にお連れすれば、聖女様個人ではなく、奇跡だけが取引される。……それが危険だと申し上げておりますの」


 レオン殿下の眉が、きゅっと寄せられた。


「……君は、いつもそうだ。自分の正しさばかり押しつける」


 冷たい一文が、廊下に落ちる。


「ミアの気持ちを聞く前に、『危ないから駄目だ』と決めつける。君の正しさが、誰かを傷つけているかもしれないとは考えないのか」


(正しさで人を追い詰める。それは、原作ゲームの悪役令嬢と、どれほど違うのでしょう)


 喉元まで出かかった言葉を飲み込む。


「……失礼いたします、殿下」


 わたくしは礼をして、ゆっくりと頭を上げた。


「わたくしには、わたくしにできる形でしか、この国を守れませんので」


 それだけ告げて背を向ける。



 公爵邸の自室に戻る頃には、空は朱に染まっていた。


 ドレスを脱ぎ、室内着に着替えると、わたくしは机に向かう。

 鍵付きの革表紙ノート――未来ノートを開き、今日のページをめくった。


「中央大陸諸国会議 聖女同行案いったん見送り」

「王 教会依存のツケを自覚」

「レオン ミア同行に前のめり。わたくしの慎重論=正しさの押しつけと受け取る」


 最後にペンを赤インクに持ち替え、ページの隅に一文を記した。


「聖女を国際舞台の看板に掲げる → 戦争エンド直通ルート」


 二重線で囲み、しばらく黙って眺める。


 窓の外では、王都の灯りが一つ、また一つと増えていく。

 その光を見つめながら、わたくしは今日も、紙の上で別の道筋を探している。


 ノートを閉じる音が、小さく部屋に響いた。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

王城会議での火花バチバチ回、楽しんでいただけましたでしょうか。

「続きが気になる」「リリアとレオンのすれ違いが刺さった…」など、少しでも心を揺さぶれたなら、★評価やブックマーク、感想をいただけると本当に励みになります。

今後のざまぁ&溜めてからのカタルシス展開も全力で用意していきますので、どうか見届けてください!


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