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「完結済」断罪イベント大炎上。悪役令嬢のわたしが冤罪証拠を突きつけたら、王子と聖女が一晩でざまぁ要員になりました  作者: 夢見叶
最終部 最終決着とざまあ・救済・結婚

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第4話 黒幕の告発と、教会の崩落

完結まで後4話

 会談三日目の朝、王城の大広間には、目に見えないさざなみが満ちていました。


「うちの領に、一度も祈りが来ていないなど……」

「あの商会、やけに勢いづいていた理由が、昨夜ようやく分かったよ」


 昨日、円卓の中央に広げられた祈りの地図。その線は、一晩で王都中に噂として広がったようでした。


 わたくしは書類の束を抱え、柱の陰で小さく息を整えます。隣では、セドリック殿下がいつも通り穏やかな笑みを浮かべていました。


「顔が少し強張っているよ、リリア」

「当然ですわ。今日の議題は、ここ十年分の戦と血の勘定合わせなのですもの」


 冗談めかして返すと、殿下は肩をすくめます。


「矢面に立つのは、僕と両国の宰相たちだ。君はいつも通り、必要な時だけ刺してくれればいい」

「では、わたくしの名前を守る代わりに、殿下の評判を少しだけ犠牲にさせていただきますわ」

「構わないよ。好かれるためにここへ来たわけじゃないからね」


 軽口を交わしながらも、殿下の青い瞳は会場を静かに見渡していました。その先には、大司教とその取り巻き。レオン派の貴族。帝国の強硬派武官。特定商会の代表。


 やがて、王が席を立ちました。大広間のざわめきが、すっと引いていきます。


「本日の議題は一つ」


 父王の声が、石造りの空間に響きました。


「戦が起きた時、誰がどのように利を得るのか。それを確かめる」


 息を飲む音が、あちこちから重なります。

 かつて吊るされたのは、わたくし一人でした。今日は、あの時には見えていなかった仕組みそのものが吊るされる番ですのね。


 帝国宰相が立ち上がり、魔導具に魔力を流し込みました。円卓の上に、淡い光の相関図が浮かび上がります。


 中央には「戦争」。その周囲を囲むように、「中央教会強硬派」「レオン派貴族」「特定商会」「帝国タカ派」の文字。そこへ、赤・青・黒の線が幾筋も結ばれていました。


 赤は献金と寄付。青は融資と独占契約。黒は、記録には残らない圧力と口利き。


 二年前、帳簿の隅に、わたくしがふざけ半分で描いた三角形。その落書きの完成版が、今や両国の代表全員に見える形で宙に浮かんでいるのです。


「まずは事実だけを」


 帝国宰相は感情を交えず、淡々と数字と日付を読み上げていきます。


「国境紛争勃発後、中央教会への寄付は過去最高を記録。その直後、特定商会への軍需品発注が急増。同じ時期、聖女の祈りは、ある一帯の領地に集中している」


 魔導図の一部が強く光り、線がさらに太くなります。


「祈りが集中した領の地価は二倍。収穫高も周辺に比べ明らかに高い。帝国側では、タカ派軍人の軍備増強費の一部が、同じ商会からの融資で賄われている」


 重い沈黙が会場を包みました。反論の余地が、数字の隙間に見つからない沈黙です。


 やがて、セドリック殿下が立ち上がりました。


「以前、申し上げたことがありますね」


 殿下はゆっくりと、光の相関図の上を指先でなぞります。


「戦争で一番儲かるのは、兵を出さない者だ、と」


 指先が止まった先には、祈りと金だけを矢印として送り出している四つの陣営が集まっていました。


「彼らは戦わない。祈りと金と、他人の命だけを、前線に送り出した」


 しん、と音が消えたような一瞬。直後、椅子の軋みとざわめきが一斉に爆ぜました。


「こ、これはただの数字遊びだ! 信仰の世界に俗な計算を持ち込むとは!」


 顔を赤くしたレオン派の貴族が叫びます。しかし、王国宰相が短く言い捨てました。


「十年続く数字遊びを、偶然と呼ばれるおつもりですか」


 貴族の口が、開いたまま閉じなくなります。


 視線を横に向けると、レオン殿下は相関図から目を離せずに拳を握りしめていました。ミアは蒼白な顔で、両手を祈るように胸の前で組んでいます。


 ここで終われば、まだ誤魔化そうとする者もいたでしょう。

 けれど、今度は教会の内側から声が上がりました。


「陛下。発言の許しを」


 重い椅子の軋む音。立ち上がったのは、これまで会談では目立たなかった穏健派の司教でした。膝がわずかに震えているのが、遠目にも分かります。


「許す」


 王の一言に、司教は深く頭を垂れ、それから真っ直ぐ前を向きました。ミアを見ないように、しかし逃げもしない顔で。


「聖女は、知りませんでした」


 静かな声が、よく通ります。


「祈りがどの領を豊かにし、どの村を見捨てることになるのかを。寄付の優先順位を定め、帳簿に印を押していたのは、我ら教会側です」


 大司教が椅子から半ば立ち上がりかけました。


「何を申すか。あれは――」

「違います」


 司教は震える手を握りしめ、なおも続けます。


「彼女は、ひたすらに救いたいと祈りました。わたしたちは、その祈りを、戦と利権のための道具として使ったのです」


 その一言で、空気が変わりました。

 騙された被害者としての聖女だけではない。見ないふりをしてきた教会側が、自らの罪を認めた瞬間でした。


 ミアの肩が、小さく震えます。瞳に浮かぶのは、「騙されていた」涙と、「目を逸らしてきた」自分を責める涙。そのどちらも。


 わたくしはそっと彼女の横顔を見ました。


 あなたは今日、聖女という役から降りるきっかけを得ましたのよ。次に何を選ぶかは、あなた自身の台詞で決めなさいませ――心の中だけで、小さく告げます。


 やがて王が立ち上がり、宰相から受け取った文書を広げました。


「中央教会大司教およびその一派」


 その声は、かつてわたくしの罪状を読み上げた時と同じ抑揚で。しかし、向けられている先は違います。


「神の名と聖女の奇跡を用い、戦を望む者と結託し、民を見捨て、利を貪ろうとした罪」


 大司教の顔から血の気が引いていくのが、ここからでも見えました。


「大司教は位階を剥奪し、全財産を没収の上、辺境修道院にて生涯を祈りと労働に捧げよ。関わった司祭・司教は、それぞれの責を調査の上、相応の罰を受けるものとする」


 次いで、レオン派中核貴族の名が読み上げられます。


「関係した貴族家は、領地の一部を没収し、戦で荒れた辺境復興に自らの手で従事せよ。特定商会は営業免許を取り消し、資産の一部を戦災孤児院に拠出すること」


 最後に、視線が帝国側へと向きました。セドリック殿下が、静かに一歩進み出ます。


「帝国タカ派軍人の処遇は、我が国の軍法会議にて裁かせていただきます」


 父王はそれを受け、締めくくりました。


「神の名を盾とした者ほど、その名から最も遠い場で贖え」


 大広間の空気が、ぐらりと揺れた気がしました。長年積み上げられてきた教会の権威が、目に見えない音を立てて崩れていくようでした。


 大司教はなおも叫びます。


「これは神への冒涜だ! 女神は必ずや――」


 けれど、その声に耳を傾ける者はほとんどいません。かつて彼の足元に群がっていた聖歌隊の子どもたちでさえ、目を伏せていました。

 ミアが小さく「ごめんなさい」と呟きます。穏健派司教が首を振りました。


「謝るべきは、我らです」


 その一言で、個人の謝罪では到底足りない規模の罪であることが、誰の目にも明らかになりました。


 数日後。会談の合間に、わたくしは馬車の中から大聖堂前の広場を眺めていました。


 豪奢な祭服は脱ぎ捨てられ、質素な外套をまとった元大司教が、石畳の上に膝をついています。通り過ぎる人々は、彼を避けるように迂回していました。


 広場の一角では、穏健派の司教が、信徒たちと共に施粥を行っています。


 石畳の隅に、誰かが落とした一輪の白い花が転がっていました。

 あの日、断罪の場を飾っていたのと同じ花。けれど今は、誰の飾りでもなく、踏まれてもなお形を保っている、ただの花です。


 誰か一人を悪役に仕立てて終わらせる時代は、少しずつ終わりに向かっているのかもしれませんわね。


 そう思いながら視線を上げると、王城の高窓に差し込む光が目に入りました。会談の間では、次の議題の札が用意されているはずです。


 王太子レオンと、元聖女ミアのこれから。


 仕組みの断罪は、ひとまず終わりました。ここから先は、わたくしたち一人ひとりが、どの未来を選ぶのか。


 わたくしは未来ノートの最後のページを思い浮かべ、静かに息を吸い込みました。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

ついに「仕組み」そのものに刃を向けた回でした。誰か一人を悪役にして終わらせない世界は、

少しだけ息苦しいけれど、そのぶん優しくもあるはずだと信じています。

続きが気になる、二人の選ぶ未来を見届けたいと思っていただけたら、評価やブックマークで応援してもらえると、とても励みになります。


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この席は断罪じゃなくて事実を列挙する場だったはずでは?
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