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「完結済」断罪イベント大炎上。悪役令嬢のわたしが冤罪証拠を突きつけたら、王子と聖女が一晩でざまぁ要員になりました  作者: 夢見叶
第4部 隣国編・共同戦線と内部の敵

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第8話 共同戦線宣言と、両国会談の招待状

完結まで後8話

 目を開けると、最初に見えたのは絡められた指先でした。


 ベッド脇の椅子で、セドリック殿下がわたくしの手を握ったまま、少しだけ疲れた顔で笑っています。


「おはよう、リリア」


「殿下こそ、お疲れでは?」


「君の手を離したら負ける気がしてね」


 冗談めいた声に、胸の奥のこわばりが少しほどけました。枕元の未来ノートが開かれています。ページの端には、昨夜までなかった一文。


『二人で生きて勝つ』


「……殿下の字、ですわね?」


「君の計画に、僕の希望も混ぜさせてほしくて」


 わたくしはその上の見出しを指でなぞりました。


『戦争エンド書き換え計画』


「生きて勝つためには、戦場での勝ち負けではなく、戦場そのものを開かせない方程式が要りますわ」


「方程式?」


「はい。記録庫の数字も、国境都市の地図も、襲撃事件の紋章も、祖国からの親書も……全部つなげると、あの戦争エンドは『戦場が開いた時点でほとんど決まっていた』と分かりますの」


 わたくしはノートの余白に小さく丸を描き、その外側に矢印を伸ばしました。


「だから今度は、『戦場に行かずに済む構図』を選びたいのです」


「どこで戦う?」


「会議室、ですわ」


 自分で言って、思わず笑ってしまいました。


「処刑エンドと戦争エンドの次が会議室エンド。絵面は地味ですけれど、一番、命の数字を減らせそうですもの」


「僕は好きだけどね、そのエンド」


 殿下が肩をすくめたところで、扉が控えめに叩かれました。


「ガルディア陛下より。最終会議を今朝、御前にてとのことです」


「会議室エンドの企画書、いよいよ提出ですわね」


「相棒として、隣で頷き続けよう」


 わたくしは未来ノートを胸に抱き、殿下とともに立ち上がりました。


     ◇


 謁見の間の長机には、色分けされた三角形の図が広げられていました。


「赤が戦争で得をする教会強硬派と商会、青が穏健派、黒が両方に顔を出す某侯爵家」


「これらが国境の事件と聖女グッズと襲撃でこうつながる。構造は、もう見えました」


「構造が見えたなら、あとはどう壊すかだ」


「国境で一度派手に殴ればよい。聖女を盾にした連中も黙りましょう」


 その言葉に、戦争エンドの地図が脳裏で赤く点滅しました。


「陛下、発言をお許しくださいませ」


 未来ノートを握り、わたくしは前に出ました。ローゼリア王の親書の写しを掲げます。


「戦争エンドでは、『先に叩く』ことで聖女が前線に引きずり出されました。利権を手放さない人のしぶとさと、死者が数字に変わる速度を、わたくしは記録庫で嫌というほど見ました」


 投影魔術で戦争地図と親書の文面を空中に浮かべ、いくつかの箇所を赤く囲みました。


「『教会と一部貴族を抑えきれない』『聖女の奇跡の正当な評価』……責任を外に押し出し、聖女を盾にする言い回しばかりですわ。こういう陛下に密室でだけ真実を認めさせても、外に出た途端に別の物語に書き換えられてしまいます」


 その言葉の続きを、わたくしは飲み下さずに口にしました。


「だからこそ、今度は『数字を減らす方程式』を組み立てたいのです」


 一度息を吸い込み、皇帝を見据えます。


「ですから、公開の場で、王国自身に構造を認めさせるべきだと考えました」


「公開の場?」


 問い掛けに、セドリック殿下が助け舟を出しました。


「断罪ショーじゃなくて、証拠と対話の場だよ」


「悪役令嬢をひとり吊るす舞台ではなく、構造そのものを晒す舞台です」


 机上の紙に、わたくしは大きな円を描きます。


「王家、教会、利権貴族、聖女、帝国代表。全員が同じ高さの椅子に座る円卓。王座の段差なし、観客席なし、中央に証拠台だけ」


「断罪会場とは見事に反転していますね」


 宰相殿が目を細めました。


「今度は君が一人で膝をつく場所じゃない」


 殿下の小さな笑い声が聞こえます。


「帝国は庇護者ではなく調停役として円に入る。王国の代わりに殴るのではなく、『ここがおかしい』と指す役だ」


 皇帝陛下が口を開きました。


「帝国は君の国を庇わない、公爵令嬢。だが飛び火がこちらに及ぶなら、その火は我々の庭で払う。そのために会議室で戦うというなら――両国会談を提案しよう。戦場の代わりに、会議室で決着をつける場として」


 胸の奥で、戦争エンドのページから別のページへ太い矢印が伸びていく感覚がします。


「会議室エンド、開通ですわね」


 いつの間にか近くにいたイザベル殿下が小声で囁きました。


「世界の行く末が決まる場所が会議室なんて、素敵でしょう?」


 笑いを堪えながら、わたくしは未来ノートの余白に新しい見出しを書き込みました。


『共同戦線』


     ◇


 会談案を正式な文にする作業は、静かな戦場でした。


 小さな執務室。長机の上には返書の草稿と会談会場の見取り図。わたくしと殿下と宰相殿が並んでペンを走らせています。


「まずは、『我らは戦争を望まない』……ここでよろしいでしょうか」


 わたくしは冒頭近くにその一文を書き込みました。


「次に、『真実は公開の場で明らかにされるべきだ』。密談の余地は残したくないからね」


 殿下が別の行にペンを走らせます。


「断罪ショーで使われた台詞を、今度は逆手に取る形ですわね」


 宰相殿が見取り図を覗き込みました。


「王座の段差をなくし、全員が同じ高さの椅子に座る円卓。観客席ではなく記録係。――確かに、処刑台ではなく秤と帳簿を置く場所だ」


 残るは、最後の一文です。


「『その場で、我らは聖女と陛下の名誉を守る努力を惜しまない』……では、やはり甘いでしょうか」


 自分で書いてみて、違和感が喉につかえました。殿下が首を横に振ります。


「『守る』より、『正しく測る』の方がいいと思う」


「正しく、測る」


「誰かの肩を持つ約束じゃなくて、誰であれ事実に基づいて天秤にかける場にしたい。君の元婚約者も、聖女も、王も、そして君自身も」


 断罪台の記憶が胸の奥で軋みました。あのとき、秤などどこにもありませんでした。


 わたくしはペンを取り、末尾を書き換えます。


『誰の名誉であれ、事実に基づき正しく測られることを望む』


 宰相殿がそれを皇帝のもとへ運びました。戻ってきた紙には、端正な署名と、真紅の封蝋。


 固まりつつあるロウを見つめながら、わたくしは未来ノートを開き、新しく決まった会談の日付を赤丸で囲みます。


『共同戦線』


 震える指先でも、文字は紙の上に残ってくれました。


     ◇


 その親書が海を越え、ローゼリア王城に届いたときのことを、わたくしが具体的に知るのはずっと後でした。


 けれど今なら、王城で何が起きていたか、いくらかは想像できます。


 王の書斎で、父が帝国からの返書を開き、戦争回避のための両国会談と列挙された顔ぶれに一瞬だけ安堵し、すぐに顔を歪めたこと。


「避けたい戦争のために、避けてきた責任を並べられる場、か」


 小さくそう呟いたと、後に聞きました。


 訓練場から呼び戻されたレオンハルト殿下が、「帝国代表として、あの公爵令嬢が来るらしい」と聞いた瞬間、手の中の紙をわずかに震わせたことも。


 そして、聖女の私室。


 香の煙が揺れる静かな部屋で、ミアが親書の写しを見つめていたこと。


「聖女もまた、その場に招かれるべき存在と考える」


 その一文の上を、祈りで荒れた指先が何度も往復し、小さな皺を刻んだと聞きました。


 そのとき彼女は、心の中でだけはっきりと呟いたそうです。


 嫌です、と。


 声には出さず、誰にも届かないまま。


 同じ夜。帝都の自室で、わたくしは未来ノートの帝国ページとローゼリアページを並べて開いていました。


「会議室エンド、開通、ですわね」


 自分で書いた見出しに、そっと指を置きます。


 片側には、薄れかけたインクで残る断罪エンドの日付。もう片側には、赤丸で囲まれた両国会談の日付。


「今度こそ、わたくしたちは処刑台ではなく机を選んだのですわ」


 あのとき彼女が心の中で「嫌です」と呟いたことを、この時のわたくしはまだ知りません。


 ただ、ページの上で静かに光る一行だけが、はっきりと未来に向かっていました。


『共同戦線宣言』


 その文字が、戦争エンドの地図を塗り替える最初の一筆になることを願いながら、わたくしはノートを閉じました。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

断罪から始まった物語が、ついに「戦場ではなく会議室で戦う」段階に入りました。

リリアとセドリック、それぞれの国の思惑や、ミアたちの胸の内もこれから深掘りしていきます。

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