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「完結済」断罪イベント大炎上。悪役令嬢のわたしが冤罪証拠を突きつけたら、王子と聖女が一晩でざまぁ要員になりました  作者: 夢見叶
第4部 隣国編・共同戦線と内部の敵

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第6話 帝都の影、軍と商会の戦争利権

 夜の帝都。皇宮の片隅の作戦室で、わたくしは壁一面の地図を見上げていました。

 国境都市、王都、帝都。その上に刺さったピンと、机いっぱいの帳簿と寄付板の写し、特定商会の木箱マークのメモが、静かに積み上がっています。


「では今夜は、線を引く作業といきましょうか」


 宰相閣下が指を鳴らすと、地図の上に三つの印が浮かびました。


「聖女を抱える教会。物資を供給する商会。兵を動かす軍部」


 わたくしは寄付板の写しに赤ペンを走らせます。


「多額の寄付をしている侯爵家と特定商会、教会を守る会。どれもゲーム本編の戦争ルートで得をしていた側でしたわ」


 未来ノートから一枚破り、簡単な三角チャートを描きました。

 頂点に「教会」「軍」「商会」、辺に「寄付」「世論」「物資」。矢印でつないだ瞬間、紙の上にいやなほど整った三角形が浮かび上がります。


「分かりやすい図ですね」


 宰相閣下が小さく頷きました。


「どこか一辺を折れば、戦争は立ち上がりにくくなる。ただ、教会は君の国の内政、商会は民間、軍は帝国の心臓。どこを叩いても反発が出る」


(この三角形に光を当てたのは、わたくし……)


 胸の奥で罪悪感が顔を出したとき、宰相閣下がさらりと言います。


「揺れたのは、もともと腐っていた部分です。見えなければ、いずれもっと派手に爆ぜていた。あなたは火薬ではなく、灯りを持ち込んだのですよ、公爵令嬢」


 隣でセドリック殿下が笑います。


「その灯りの向きを、一緒に決めよう。リリア」


     ◇


 翌朝の軍議の間。長机の両側に将軍たちが並び、その端にわたくしの席があります。

 殿下が状況を説明し終えると、宰相閣下が合図しました。


「アルベール嬢、利権の図を」


 昨夜の三角チャートを掲げ、簡潔に告げます。


「教会と特定商会、一部レオン派貴族、そして利害を共有する軍人たちが、聖女を前線に出すことで得をする構図を作ろうとしておりますわ」


「しかし、戦とは本来そういうものだ」


 タカ派と呼ばれる将軍が立ち上がり、笑みを浮かべたまま淡々と言います。


「聖女が出れば民は勇気づけられる。短期決戦で済むなら、長期の膠着より死者は減る。犠牲は必要だ。問題は、その犠牲をどこに集中させるか、だろう」


 前世で見た戦争ルートのテキストが、頭の中でぴたりと重なりました。背筋が冷たくなります。


「戦争は、痛みだ」


 隣でセドリック殿下が立ち上がりました。


「痛みを知っているからこそ、避けられるなら避けるべきだ。犠牲は必要だと最初から数えるものではない。避けられなかったものとして最後に残る数字だ」


 重い沈黙のあと、宰相閣下がまとめます。


「帝国として他国の聖女を戦争広告塔にする案は、ここで公式に否定しておきましょう。世論を煽るために他国の象徴を使えば、その火種は長く残りますからね」


 会議が解散に移る中、タカ派将軍がわたくしの横を通り過ぎざま、小さく微笑みました。


「あなたのような方が前線に立てば、戦はすぐ終わるのですがね」


 耳元のささやきに、肌の上を冷たいものがなぞります。けれどわたくしは、ただ静かに会釈するだけでした。


     ◇


 軍議のあと、殿下と腹心騎士と三人で乗った馬車は、帝都の朝の中を戻っていました。

「……妙に静かですね。見回りの兵が、さっきから一人も」


 腹心騎士が眉をひそめた瞬間、馬車の側面に激しい衝撃が走りました。

 外側の防御結界がきしみ、窓越しに鈍い音が伝わります。


 ひびが走るのが見えた瞬間、わたくしは未来ノートと書類束を抱えて床に身を投げ出しました。


「殿下、下へ!」


 セドリック殿下の袖を引き倒した頭上を、強化された矢が数本、天井すれすれに飛んでいきます。殿下は短く詠唱し、内側から第二の結界を張りました。


「外には出るな」

「承知いたしましたわ」


 殿下と騎士が外へ躍り出ると同時に、魔術と矢の光が馬車を叩きます。黒い外套の影が数人、路地に散っていました。


(このパターン、知っていますわ)


 攻略本で読んだ「国境イベント・聖女拉致」の項目が頭の中で開きます。けれど、今回乗っているのは。


「聖女ではなく、悪役令嬢ですの」


 震えそうになる指を押さえ込み、窓から身を乗り出しました。

 敵の足元の石畳に、小さな魔法陣をいくつも描きます。陣が光り、石畳が滑りやすく変質しました。


「うわっ?!」


 もつれた足が転び、矢の軌道が逸れます。その隙に、殿下の魔術が一人を吹き飛ばし、腹心騎士の剣が別の一人の武器を叩き落としました。


 短い攻防ののち、何人かは逃げ、何人かは石畳の上に倒れ伏します。


「殿下、三人ほど、まだ喋れそうです」


 腹心騎士の報告に、殿下が短く頷きました。


「詰所に運ぶ」


     ◇


 帝都の外れの詰所の一室。縄で縛られた実行犯たちが椅子に並び、その前に殿下と腹心騎士。少し後ろの席に座ったわたくしは、未来ノートを膝に乗せてペンを握っていました。


「本来なら、君たちの行為は敵国による破壊工作として扱われる。そうなれば、戦時法の下で裁かれる」


 殿下が淡々と告げます。


「だが、ここで話すなら帝国の治安問題として扱う余地が生まれる。裁かれ方は変わる」


 沈黙が続いたところで、わたくしは静かに口を開きました。


「あなたがたを切り捨てる人たちは、きっとこうおっしゃるでしょう。犠牲は必要だと」


 さきほどのタカ派将軍の言葉をあえて引用すると、男たちの顔色が変わります。


「……国境で、小さな衝突を起こせと言われた。王国側の紋章を装備に偽装して、村を一つ燃やせばいい、と」


 一人が観念したように吐き出しました。


「それから、聖女が泣けば民は動くとも言われた。だから、そのあとは聖女を狙う作戦があるって話だ。今日のは、その前段らしい」


「帝国の中にも協力者がいると聞いたが」


 殿下の問いに、男は激しく首を振ります。


「名前なんて出したら、俺たちごと消される。あんたらにも守り切れねえ」


 それ以上は何を聞いても口を閉ざしたまま。

 けれど、その怯えだけで、帝都のどこかにまだ見えない影がいることは十分伝わりました。


「……あなたがたの証言は、戦争記録庫のどこかに必ず残しますわ」


     ◇


 詰所の裏庭で、腹心騎士が実行犯たちの装備を検分していました。

 鎧の内側から、小さな金属プレートをつまみ出した彼が、眉をひそめてこちらを振り向きます。


「殿下、紋章が」


 差し出されたそれを見た瞬間、わたくしと殿下は同時に目を見開きました。


 天秤と麦束を組み合わせた意匠。

 寄付板の隅で何度も見た紋章。特定商会の木箱に刻まれていた印。王都で山のように届いた招待状の封蝋。


「○○侯爵家……」


 家名が喉の奥からこぼれました。

 ローゼリアでも帝国でも、戦時特需の利益を吸い上げてきた、レオン殿下側近の侯爵家。


 わたくしは未来ノートを開き、その名をゆっくりと書き込みます。

 国境都市、寄付板、聖女グッズ、今日の襲撃。そのすべてから矢印を伸ばしました。


「本当に、最悪な構図ですこと」


 セドリック殿下が、その横顔をじっと見つめます。


「君が全部を背負う必要はない」


 穏やかな声。けれど、その奥には鋭い決意がありました。


「だが、この名前は必ず会議室の真ん中に引きずり出す。聖女を戦場に出そうとしている連中を、今度は公開の場に立たせる番だ」


 わたくしは家名の上に軽く指先を置き、深く息を吐きました。


(処刑台そのものを壊しなさい――お母様の言葉ですわね)


 今度壊すべき台は、聖女を飾りにして戦争を正当化する壇上。

 そこに刻まれるべき名前が、ようやく一つ、はっきりと見えたのです。


 余白に小さく書き足しました。


『帝都・○○侯爵家を公開の場へ』


「殿下。わたくし、倒れる前にどこまで準備できるか、試してみることにいたしますわ」


 冗談めかしたつもりの言葉に、殿下の眉がぴくりと動きます。


「倒れないところまで、だ。リリア」


 その訂正が妙に嬉しくて、わたくしは小さく笑いました。

 ノートの上の家名の周りで、インクの矢印が、まだ見ぬ会談のページへ向かって伸びていくように見えました。


ここまで読んでくださりありがとうございます!

帝都編もついに本格的に陰謀パート突入です。

聖女を巡る戦争利権と、○○侯爵家の暗躍……リリアたちの選択が、これから国のかたちを決めていきます。

少しでも続きが気になると思っていただけたら、評価やブックマーク、感想をぽちっとして応援してもらえると、とても励みになります!

次話も全力で書きますので、引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。


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