表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「完結済」断罪イベント大炎上。悪役令嬢のわたしが冤罪証拠を突きつけたら、王子と聖女が一晩でざまぁ要員になりました  作者: 夢見叶
第4部 隣国編・共同戦線と内部の敵

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/40

第4話 祖国からの親書と、責任のすり替え

 帝国宮廷の執務棟は、朝から静かにざわついていた。

 行き交う官吏の列の真ん中を、帝国の紋章入りの書状箱を抱えた従者が早足で進んでいく。側面に刻まれた「対外極秘」の文字が、やけに目に痛い。


 わたくしはセドリック様の仮の執務室で、昨日のお茶会のメモと未来ノートを並べていた。

「王国からの正式な返事は、まだ……」

 そう呟いたところで、扉が二度、控えめに叩かれる。


「入れ」


 現れたのは、先ほどの従者だった。


「ガルディア帝国皇帝陛下宛。ローゼリア王国国王陛下より、親書が到着いたしました」


 胸の奥が、きゅっと縮む。


 箱が開かれ、宮廷魔術師が呪詛検査を行う。

 淡い光が封筒をなぞり、「危険反応なし」と短く告げられたあと、深い青の封蝋にローゼリア王家の紋章を刻んだ一通が残った。


「……本当に、陛下から、ですのね」


 セドリック様が封筒を手に取り、わずかに眉を寄せる。


「本来なら、これは君の国の臣下が開くものだが」


「今のわたくしは、帝国に保護された証人ですわ。形式より、中身の方が急を要します」


 迷いは、口にした言葉の中に押し込めた。


「……分かった。なら、一緒に立ち会ってくれ」


 封蝋にナイフが当たり、ぱきり、と乾いた音を立てて割れる。


 ああ、この音で、ゲームの戦争ルートが確定していたのですわよね――そう思いながら、わたくしは表情を消して親書を見つめた。


     ◇


 少し後、小さな打ち合わせ室。

 テーブルを挟んで、セドリック様と宰相閣下、その端にわたくし。皇帝陛下はまだおられない。


「このたびは我が国の不始末により、貴国に多大なるご迷惑をおかけし……」


 セドリック様が、整った声で文面を読み上げていく。

 前半は、教科書通りの謝罪と礼の羅列だった。


 机の上には、帝国側が用意してくれた赤ペンが一本。

 わたくしはそれを指先でつまみ、くるりと回した。


「しかしながら、教会と一部貴族の強い影響力により、事態の収拾は容易ならざるものとなっております」


 そこで、ペン先が止まる。

 わたくしは親書の余白に、さらりと書き込んだ。


『教会と一部貴族』――その横に、『あなたが任任した人たち』。


「国境付近でもいくつかの不穏な噂が立ち……」


 その文の末尾には、『誰のせいで?』。


「聖女の奇跡が正当に評価されず、国の安寧にとっても由々しき状況であり……」


 そこは二重線で囲み、『利用フラグ』と、自分にしか分からない印をつける。


 視線を感じて顔を上げると、宰相閣下が興味深そうにこちらを見ていた。


「なかなか辛辣な採点ですね、リリアーヌ嬢」


「……国王陛下の字の癖は、以前とお変わりありませんわ。自分は被害者側という意識が、行間から滲んでおります」


 努めて平静に答えたのに、ペン先がわずかに震えているのが自分でも分かった。


「続ける」


 セドリック様の声が、少しだけ硬くなる。


「聖女ローゼット嬢の献身が、今後も我が国の安寧に寄与することを願っております」


 ミア様の名が読み上げられた瞬間、心臓が冷たく跳ねた。


「……それは、これからも聖女を使うという意味でございますわね」


 わたくしは迷わずその一文に大きく×を引き、『ミア様は人です』と強い字で書き込む。


「貴国の賢明なるご判断により、この火急の難事が円満に解決されることを信じております」


 最後の一文まで読み上げられたところで、わたくしは赤ペンを静かに置いた。


「火をつけた人が、消火活動の段取りまで他国に丸投げしている文章ですわ」


 思ったままの言葉が口をつく。


 宰相閣下が、わずかに口元を緩める。


「それは名言ですね。――陛下をお呼びして、正式な場で分析をお聞きしましょう」


 ここから先は、もう「一令嬢の感想」では済まされない。

 わたくしは膝の上で指を組み、深く息を吸った。


     ◇


 円卓のある会議室。

 中央の丸いテーブルの上に、投影魔術で親書の文字が半透明に浮かんでいる。

 それを囲むのは、皇帝陛下、宰相閣下、セドリック様、そしてわたくし。


 皇帝陛下は視線だけで文字を追い、「ふむ」と短く息を漏らした。


「謝罪と礼に3行、言い訳に10行。配分が良くない」


 一言で、親書の印象が切り分けられる。


 宰相閣下が、赤ペンだらけの原本を広げながら言う。


「要約すると――

 一、王家は反省していると言う。

 二、しかし実際の責任は教会と一部貴族にあると主張する。

 三、聖女の奇跡を盾に、国内統治と国境問題の両方を乗り切りたい願望が見える。

 以上です」


「火消しではなく、散らかった灰の片付けを頼まれている印象だな」


 皇帝陛下が淡々と続ける。


 そこで、陛下の視線がわたくしへ向いた。


「この手紙を書いた男を、君はどう見る?」


 膝の上で握っていた手に力がこもる。


「……陛下は、以前より責任という言葉を好んでお使いになります」


 自国の王を指す「陛下」という響きに、胸がちくりとする。


「ですが、その言葉を主語に付ける時、そこに自分は含まれておりません」


 喉が強張る。それでも、黙っているよりはずっとましだった。


 わたくしは立ち上がり、原本の親書を手に取る。

 赤ペンの書き込みで埋まった紙を、円卓の上に、ぴしゃりと叩きつけた。


「これは、責任を取らない人の文章ですわ」


「教会が、一部貴族が、と繰り返しながら、

 彼らを選び、任せてきた自分のことは、一行も書かれていない。

 聖女様の奇跡も、『正当に評価』と、美しい言葉に包んでおいでですが……

 実際には、都合よく使い続けたいだけですわ」


 ミア様の顔と、戦争記録庫で見た名も知らぬ兵士たちの資料が、頭の中で重なる。


 セドリック様が何か言いかけ、それを皇帝陛下の手が制する。


「他国の王をここまで言う覚悟が、君にはあるのか」


「……あります。

 けれど、それでも、あの国はわたくしの家です」


 皇帝陛下の視線を真正面から受け止めながら、わたくしははっきりと言い切った。


 沈黙を破ったのは、宰相閣下だった。


「家の大人を叱る子どもほど、厄介で、そして頼りになる存在はありませんね」


     ◇


 宰相閣下が立ち上がり、壁一面の大陸地図の前に移動する。

 赤や青のピンがいくつも刺さったそれは、第2話で見た戦争記録庫の地図の縮図のようだった。


「親書に出てきた地名を、確認しましょう」


 赤いピンが一本、教会勢力の強い地方へ。

 黄色いピンが、王国と帝国の国境近くへ。

 白い小さな旗印が、いくつかの街に刺さる。


「王は、敵と戦う前に責任と戦うべきでしたね」


 宰相閣下の一言が、地図全体に影を落とす。


 セドリック様が一歩前へ出て、皇帝陛下に向き直る。


「それでも、今ならまだ火種の段階です。

 教会と利権貴族、強硬派の線を一つひとつ折れば、

 戦争という最悪の結末だけは、回避できる可能性がある。

 帝国にとっても、火薬樽が爆発する前に釘を打っておいた方が、安くつきます」


 皇帝陛下はしばらく地図を眺め、やがて静かに口を開いた。


「帝国は君の国を庇わない。

 だが、火の粉を被るつもりもない。

 我々は消防士ではなく、利害調整者だ。

 手紙の差出人が責任を取らぬなら、その分の費用はきっちり請求する」


「まずはここから、歪んだ市場と聖女ブランドの流れを確かめましょう」


 宰相閣下が、新しい色のピンを一つ手に取り、国境近くの一点に打ち込む。

 カチ、と小さな音が、静かな室内に響いた。


 そこは、未来ノートの地図ページに何度も書き込んだ国境都市の名の場所。

 第5話で、わたくしたちが向かうことになる街だ。


 視界が、地図の一角だけを切り取る。

 王国の国境線。

 教会勢力と商会の印。

 そして、新しく刺さった帝国のピン。


「ここから先は、帝国としても人ごとではない」


 皇帝陛下の声が、その絵の上に静かに重なった。


 わたくしは未来ノートを開き、国境都市の名の上に赤い丸を一つ描く。


 処刑エンドと戦争エンドを避けるための、新しい分岐点に、強めのペン圧で印をつけた。


 ――さあ、次のページを書き換える準備は、整いましたわね。

第四部第4話まで読んでくださりありがとうございます! 

祖国からの親書という形で、ようやく「国」そのものと正面から殴り合う回になりました。

責任を取らない大人たちと、リリアーヌたちの選択は、ここからさらに拗れていきます。

続きが気になると思っていただけたら、評価・ブックマークで応援してもらえると、とても心強いです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編掲載中!
よろしければ応援お願いします!
婚約破棄?上等、封印証拠で公開監査し監査公爵と溺愛契約
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ