契約
魔族の契約――それは、相手に従属させるための命令魔法みたいなものである。
魔族は基本的に我が強く、相手を従わせる場合も正面から戦い、倒した側が無理矢理主従契約を行う……みたいなことが多いらしい。
大昔、魔族は同種族同士でも喧嘩が絶えなかった。それこそ、今のように一大勢力となるようなこともなかった……が、魔王という存在が種族のとりまとめを行ったことで、強烈な個性と力を持つ魔族がまとまった、という形だ。
けれど、魔王という存在だけで完全に制御できるかと言われるとそうでもない。どれほど魔王が強かろうとも、弱肉強食が基本である魔族は、反発する存在がいくらでも出てくる……よって、種族をまとめる方策として、よりわかりやすい物を作った。
それが、契約魔法。といっても単に主従を決めるだけではない。例えば、絶対に裏切らないという対等の契約など、色々と種類はある。加えて魔族同士だけでなく、魔族と他の種族――人間とも契約が可能。とはいえ、基本魔族が多種族に契約魔法を行使する場合は、主従関係的に魔族が上になることが多いのだが――
彼女の契約魔法が発せられる。その魔力の流れは、明らかに俺を主人として主従関係のものだった。
確か、聞いた話によると契約魔法自体は割と自由度が高く、自分が不利になる契約も易々とできる。ただそれは自発的に行うようなことは決してない。だって自分で不利になるような契約をする者はいない……まして、相手が多種族であるならなおさらなのだが、目の前の女性魔族は不利な契約を行った。
「……これで、終わり」
そして女性魔族は言う。
「勇者トキヤなら、魔力の流れで契約内容はおおよそ理解できたと思うけど……」
「そうだな……俺に攻撃をしない、俺の命令は聞く。内容としてはこんなところか?」
「単純だけれど、逆にわかりやすいからこそ、契約の内容も明瞭になる」
……ちなみに契約魔法を解除するには、大がかりな術式が必要になる。容易に契約関係を解消できたら、意味がないためだ。
俺との契約関係を解消したければ、他所からそれなりの量を持つ魔力と、術式を発動させる魔法陣を描かなければいけないが――つまり、女性魔族は自発的に契約を破棄できないということだ。
まあ、彼女は優秀らしいし、土壇場で契約を破棄できる何かを持っているかもしれないが――
「……契約について、私が自発的に解消できるとか思っている?」
俺の心を読むかのように、女性魔族は告げた。
「なら、この作戦中に魔法を解除できないように組み込んでおくか」
と、こちらが何かを言い出す前に彼女は処置をした……なんというか、
「そこまでしなくてもいいんじゃないか?」
「でもこのくらいしなければ、信用してもらえないでしょう?」
確かにそうなんだけど……まあ、ここについては議論しても意味はないし、やめておくか。
「……念のため、確認だが」
俺は女性魔族へ告げる。
「君はフリューレ王国に攻撃を仕掛けようとする魔族に命を狙われ、なおかつ魔王の命令自体にも疑義があるため、俺と手を組んで残る魔族を打倒する……で、いいんだな?」
「うん」
即座に頷く女性魔族。そこで俺は、
「なら……拠点の魔族を倒した後、どうする?」
「帰ってもいいけれど、たぶん戻ってきた時点で命はない……陛下について調べたいところだけれど……」
「命はない?」
「陛下からもたらされる命令は、非常に強硬的であり、もし敗北し逃げ帰ればその場で処刑されてもおかしくない」
「……そこまで、無茶苦茶なのか」
俺は十年前の戦争を振り返る。魔王は魔族を率い戦争を仕掛けてきたが……例えば、戦に負けて処刑された魔族、みたいな話はほとんど聞いたことがない。
「十年前の戦争では、そんなことになっていなかったと思うが……」
「そういう命令もあって、疑問を抱く同胞も多い……とにかく、命令だけなら恐怖による支配を行おうとしている」
「そういう点からも、君は何かあると思っているわけか……」
ふむ、これまでの話を聞く限り……俺は内心で色々考えた後、
「まあいいさ、とりあえず今は拠点にいる魔族を倒すことを考えよう……具体的にはどうする?」
「拠点の砦に近づいて様子を窺う。あなたは拠点が見えるくらいの場所から気配を断って少し後をついてきてほしい」
「君が単独で戻ってきたなら、訝しんで拠点から出てくると」
「それが単独であれば、うまいこと物陰にでも誘導して倒す。それを繰り返すか、あるいは拠点から外に出ているなら、先にそちらを叩く、という形でもよいかも」
「了解、それじゃあまずは近づこう……と、その前に一つ」
重要なことを確認していなかった。
「名前を聞いておこうか」
「フィリス――フィリス=フロークン」
「わかった。ならフィリス、動くとしよう」
――奇妙な形ではあるが、魔族との戦いだ。絶対にここで食い止める……決意と共に、俺は魔族フィリスと共に歩き始めた。




