女性魔族
男性魔族が放っているのは、明確な殺気と凶悪な魔力。次の一撃で女性魔族を仕留める――そういう目論見が確実にあると、俺にもわかった。
一方で女性の魔族のは、両手を相手に向け魔法を放とうとしている――が、手に集めている魔力はおそらく攻撃ではなく防御するためのもの……彼女には明らかに殺気がない。
おそらく彼女は迷っている。男性魔族に命を狙われているが、困惑している……どうにか話し合いで解決できないか。そんな風に考えているのがわかる。
そんな中で、俺は――男性魔族が仕掛ける。それは双方の距離を一気に詰め、終わらせるだけの勢いがあった。
そんな動きの魔族に対し、俺もまた動いた――それは瞬間的な魔力強化。速度に特化した強化によって、俺は男性魔族が攻撃を決めるよりも早く、彼の間近まで到達した。
――魔族達は、突如襲来した俺の存在に気づいたはず。だが、こちらに視線を向けた時には全てが終わっていた。俺の斬撃は、女性魔族へ攻撃しようとして隙だらけだった男性魔族へ入り、
「――ガッ」
声、かどうかも怪しい音が漏れると共に、男性魔族は一瞬のうちに消え失せる。そして残る女性魔族に対し、俺はその首筋に剣を向けた。
「……動くな」
次いで警告。俺の視線は鋭く相手を射貫く。間近で観察すると、赤い髪の女性魔族は男性魔族と同様、人間が羨むであろう美貌を持っていた。
「事情を説明すれば、命までは取らない……どうやらそちらは、フリューレ王国の侵攻に疑義を持っているようだからな。事情を説明してこの場を去ってくれれば、見逃すつもりだ」
「……あなたは……」
魔族が呟く。雰囲気から俺のことは知っているのだろう。
剣を向けてはいるが、彼女は両手を下ろし抵抗する意思を示さない……相手が勇者トキヤである以上、何をしようと滅ぼされるのは自分、と考えているのかもしれない。
さて、彼女は答えてくれるのか……少しの沈黙の後、俺は尋ねた。
「まず、確認だ。さっき俺が滅ぼした魔族の言動から察するに、フリューレ王国へ攻撃を仕掛けようとしている……しかもそれはさっきの魔族単独ではない、大規模なもの。山中のどこかに拠点もある。そうだな?」
俺の問いに、女性魔族は少しの間無言だったが……やがて、意を決したかのように頷いた。
「……うん、そう。ここから山を登った先に、山の外側から見えないように砦が建造されている」
「砦……資材をわざわざここまで運んできたのか?」
「この山はさほど人が訪れない。魔物を利用して資材を密かに運ぶのも、そう難しくはない」
なるほど……フリューレ王国は魔物の対応に苦慮している。そうした中、人里から遠く離れた場所に目を光らせることなんてできないし、人がいない場所で魔物がやっていることなど、わかるはずもない。
「その砦とやらは、魔王が滅んでから建設されたものか?」
「少し違う。聞いた話によると、陛下が侵攻する間に建設が始まり、最終的にフリューレ王国を攻撃する前線基地とする予定だった」
「前線基地? こんな山奥で……兵站をつなぐこともできない状況で?」
……いかに魔族と言えど、飲まず食わずで延々戦えるわけではない。魔物を生み出す魔力だって補給しなければならない以上、こんな場所に砦を建設しても――
「魔物を用いれば、どうにでもなる……と、語っていたらしいよ。でも実際は、砦ができるまでにフリューレ王国は陛下を押し返し建設されなかった」
「なるほど……で、資材などは残っていたから、さっきの魔族が拠点にしようと動いたとうわけか」
俺の言葉に女性魔族は頷く……ふむ、質問したら答えが返ってくるような感じだな。
「なら、そうだな……拠点にはまだ魔族がいるのか?」
「残っているのは……」
彼女が語った内容によると、まだ魔族が三体いるらしい。しかも現在進行形で魔物を生み出しており、決戦準備を整えているとのこと。
「そうか……さて、どうするかな」
このまま来た道を急いで引き返し、レメイトへ報告したとしても……迎え撃つまでに間に合わない可能性が高いかもしれない。
「攻撃を開始するのはいつだ?」
「……私は詳細を聞いていない。でも、砦にいる同胞は、仲間が消えたことに少しすれば気づくと思うし、そうなったらどうするか……」
「……まあ、そうだな」
たぶん俺が来た道を引き返し、メルやヘレナを呼んでくるだけの時間すらないかもしれない。
ふむ、魔族が残り三体だとするなら……同時に襲いかかってきたら大変だが、各個撃破ならたぶん対応はできるだろう。うまいことおびき出すことができたなら……だが、さすがに勇者がいるとなれば、厳しいか?
どうするか……そんなことを考えていると、女性魔族が口を開いた。
「……もし、現段階で滅んだことを認識し、それが勇者の手によるものであれば、すぐにここへ急行してもおかしくない。でも、そうはなっていない」
「まだ気づかれていないと?」
女性魔族はコクリと頷き……俺にとって、思いもよらない提案をしてきた。




