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三度目勇者の異世界紀行  作者: 陽山純樹


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魔物調査

 メルの仕事に協力するということで、俺は彼女と共に王都を出た。討伐対象の魔物は王都から少し離れた場所らしいのだが、俺達なら移動魔法を用いればあっさり辿り着ける距離だ。

 王都から少しの間は街道を進んでいたのだが、やがて道を逸れ平原へ。そして街道の人が小さくなったくらいのタイミングで、魔法を用い移動することになった。


「早速移動魔法がちゃんと扱えるのかが問題になるんだけど……」

「大丈夫ですよ、行きましょう」


 俺の言及にメルはそう答えた後、足に魔力をまとわせ駆けた。俺はそれに追随するべく魔力を足に集め、走り始める。

 彼女の動きは軽やかで、まるで跳ぶように平原を駆ける――それに俺はついていくことはできた。彼女が加減しているのもあるだろうけど、魔力で強化された両足は痛みなど発することがなく、俺が想像したように……さらに言えば、以前のように動くことができている。


「魔力強化については、問題なさそうだな」

「魔力に年齢は関係ありませんからね」


 俺の呟きを聞いていたか、前方にいるメルが声を上げた。


「魔法使いは例え老齢になっても強い人も多いです。それを踏まえれば関係ないのはわかりますよね?」

「言われてみればそうだな……魔力強化はできるから魔物は倒せそうだな。ただし基礎的な身体能力が明らかに悪くなっているから、そこがどう影響してくるかだな」

「心配する必要はないと思いますよ」


 さらにメルが言う。俺の様子を見て、問題ないと考えているのか。


 彼女はエルフとして魔法の達人であることに加え、他者を癒やしたり強化したりと支援系魔法が非常に得意だった。魔力の流れを分析するのも得意であり、一目見て俺の能力を看破し、おっさんになってしまったけど魔物討伐ができると確信した様子。

 なら、俺はその期待に応えるべく頑張ろう……と、ここで先へと進む彼女へ注目する。その姿は二十年前、俺が最初に出会った時から何一つ変わっていない。


 年齢は、俺とそう変わらないはず。とはいえエルフは長命だし、俺と同年代だとしても、エルフの中では若輩者という位置づけだろうけど……。

 そんなことを思っていると時、彼女がふいに俺へ首だけ向けた。


「どうした?」

「……久しぶりに会ってですけど」

「ああ」

「老けたとか思ってません?」


 ……いやいや、そんなまさか。


「そっちは何も変わってないだろ」

「いえ、なんだかんだで仕事ばかりなので、髪は少し傷んでいますし肌だってあまりケアとかできていませんので……」

「それだって、少し休めば瑞々しい肌と髪になるだろ。エルフなんだから」

「……そう思います?」


 問い掛けてくるメル。何が言いたいのだろうと首を傾げつつ、


「何も変わっていないよ、メルは。最初に出会った時と同じ、とても綺麗で頼れる存在だ」


 と、何の照れもなく述べた瞬間――メルは前を向いた。そして無言となり、少しの間俺達が風を切って駆け抜ける音だけが響く。

 反応を見て俺はどうしたものかと思っていると……やがて彼女は立ち止まった。俺もブレーキを掛けると、そこは森の前……直線上には小高い山が見えていた。


「ここに魔物がいるのか?」

「……はい、王都周辺に魔物がいるとして、調査及び討伐の依頼が里に舞い込んできたのです」


 先ほど沈黙していたことなどなかったかのように、彼女の顔は戦闘モードに入り俺へ説明を行う。


「最初はジェノン王国が騎士を調査のために派遣する気だったようですが、魔王が復活したという一報を聞き、ひとまず国内の町や村の防衛を強化しようということにしたようで、動ける騎士が少数だったらしく断念したようです」

「それで、メルの方へ……というかエルフの里に話が回ってきたと」

「要請、と言っても手を貸してもらえないか、という打診くらいの雰囲気でしたが」

「それで里はメルを派遣すると応じた?」

「里長は複数で動くつもりだったのですが、ジェノン王国内にいた魔族が妙な動きをし始めたため、警戒する必要がでました。ならば里からは私だけが……と。たださすがに単独調査は危険もありますから、王都に直接出向いて騎士を数名借り受けようかと。そのくらいなら問題ないと思いまして」

「で、俺と出会った……か」


 俺は森を見据える。確かに森の外から魔力は感じられるが……。


「魔物っぽい気配はあるけど……まだ距離があるか」

「気配探知は私に任せてください。トキヤは戦闘準備を」

「ああ」


 答えつつ剣を抜く。同時に少しだけ強く剣を握ると、剣先から魔力が溢れた。

 この剣の力についてはちゃんと扱えそうだ。後はおっさんになった俺が十年前と比べどの程度のパフォーマンスを出せるのか。


「私が先導します」


 メルは宣言すると歩き出した。本来は前衛担当である俺が前に出るべきなのだが、自分の力に半信半疑な俺に配慮し、先んじて動いた。


「悪いな、メル」

「いえ、お気になさらず」


 ……ここでふと、俺は彼女と共に森へ入りながら一つ問い掛けた。


「なあメル、魔物討伐とは関係ない話なんだけど……」

「何ですか?」

「おっさんになってしまった俺をどう思う?」


 先ほど彼女が行ったような問い掛けをすると、メルは俺の顔を見た。


「……どう、とは?」

「俺は人間だし、メルと違って明らかに老けているだろ」

「何も変わりませんよ、トキヤは」


 即答だった。なおかつ真面目な表情を見せる彼女に今度は俺が沈黙する。


「確かにちょっと、顔は老けているかもしれませんけど」

「ほらみろ。人間だから仕方がないけど」

「ですが、トキヤはこの世界の勇者であり、また同時にその強さも勇ましさも変わっていませんよ」


 今度は大真面目に彼女が語る番だった。その内容に俺は本当かなあ? と内心で首を傾げたのだが――

 その時、前方から気配。俺でも感じ取れるものであったため、会話を中断し臨戦態勢に入る。


「メル……」

「はい、どうやらお出ましですね」


 彼女が返答した直後、森の奥――視界に、魔物の姿を捉えた。


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