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三度目勇者の異世界紀行  作者: 陽山純樹


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運命を背負う種族

 鍛錬場を離れた後、俺は作業をしていたメルと合流。とりあえず食事でもしながら話そうかという段取りとなり、俺達は食事を出す酒場に入ってメシを食うことに。

 で、その間にザナオンが説明を施す。それは、


「端的に言うと、ルシールから頼まれたんだよ」


 そうまずは切り出した……ルシール、という人物は二十年前、俺と共に戦っていた仲間の名だ。

 しかも魔王に挑んだ仲間の一人で、神族代表として戦っていた戦乙女。彼女の剣に俺も幾度となく救われた。


「十年前の戦争でルシールも出陣し、トキヤとも一緒に戦ったはずだが、その後アイツも後進の育成に励んでいたんだが……」

「その中でヘレナを頼まれた?」

「そうだ。理由は大きく二つある。一つは剣術面。具体的に言うと、ヘレナは戦士の適性が極めて高い神族だったんだが」


 ――ここで、俺は神族について一つ思い出す。彼らは人間と比べ高い魔力と長命さを併せ持つが、そうした特徴だけを挙げてもエルフとさして変わらないように思える。けれど、決定的に違う点がある。

 力ある神族は同族の適性、あるいは才能を見定めることができる能力を持っており、それを用いて職業などを決めている。この力で神族は少数でも繁栄を維持しているのだが――その一方で神族は運命を背負う種族、などと語る人もいる。


「戦士としての適正だけを言えば、ルシールを超えていた」

「彼女を、か……なるほど、そういう経緯ならザナオンを頼るのも理解できる。つまり、ヘレナの潜在能力を引き出せる指導者が神族にはいなかった」

「そうだ」


 ――神族と人間を比較して、人間に勝てる点があるとすれば技術面。魔法で何から何までやってしまう神族に対し、人間は魔力なしでも様々な技術を編み出して武具や生活道具などを作れる……それは戦闘面でも同じであり、魔力が伴わない技術の部分……つまり剣術とか槍術とか、そういう面については人間が上回っている。

 もっとも、剣術に魔力を乗せて戦うのが普通であるため、魔力制御技術などを踏まえると、やっぱり神族の戦闘力は人間より上なんだが……ここで俺はザナオンへ、


「確認だが、ルシールでも指導できなかったのか?」

「ヘレナは神族の中でもより戦士特化だったらしくてね。ルシールは魔力面からアプローチして剣術を鍛えていたが、ヘレナは剣術を軸に魔力面を強化していくのが合っているらしい。その違いによってルシールはヘレナの教育に苦戦していたし、俺にヘレナを預けたわけだ」

「……理由はわかった。つまり、剣術を徹底的に鍛えて、神族の中であまり見ない随一の戦乙女にする、というわけか?」

「本人は戦乙女じゃなくて最強の戦士になるって豪語しているけどな」


 ザナオンは言いながらヘレナを見る。当の彼女は深く頷いていた。


「神族だから強いのは当然……なんて言われ方は癪だし、ありとあらゆる戦士と決闘して、最強を証明する」

「……ずいぶんとまあ、神族らしからぬ考えを持っているな」


 俺は言いながらザナオンを見る……こういう野心的な考えを持っているからこそ、ルシールはザナオンに彼女を託したと言えるかもしれない。


「ふむ、ここまでは理解できた……もう一つの理由は、先ほど戦った彼女の能力に関係しているのか?」

「ああ、そうだ」


 ザナオンは頷く。それと共に、ヘレナは憮然とした表情となる。


「ルシールを含め、神族はヘレナが持つ戦士としての適正については神族の中でも最強だろう、というお墨付きを与えた」

「そこまで評価されているのか」

「そうだ。しかし、そこに至るには技術的な問題だけでなく、ヘレナ自身が持つ魔力制御能力が大きく立ちはだかっている」

「俺が言った時間制限だな……どういう理屈だ?」

「ヘレナ、話していいのか?」

「いいよ」


 ザナオンの確認にヘレナはあっさりと返事をする。


「よし、なら説明するが……現在ヘレナが学んでいるのは二つ。一つは剣術でもう一つが魔力の制御法」

「制御面に問題があると」

「現在ヘレナは魔力を全解放して戦闘をする場合、時間的に数分くらいしかできない。それ以上時間が経過すると、ヘレナの魔力が拡散して周囲に被害を及ぼすようになるし、果ては自身も傷つける」

「……魔力の制御法というのは、神族同士で学べるものじゃないか? 魔法については人間の技術を上回っているし」

「神族は魔力の制御法を幼い頃から学ぶのは知っているだろ? ヘレナの戦士面を強化する場合、そのやり方と相性がすこぶる悪い……結果、制御が上手くいかず、俺の弟子になる前は全力解放すらできない状態だった」

「それを是正するために……ザナオンの下で修行していると」

「そういうことだ。最初は人間の技術でどうにかなるのか? という疑問はあったが……人との関わりがあるルシールがそう判断したんだ。俺としては彼女の言説を信じ、ヘレナを鍛えるだけだ」

「――質問、良いでしょうか」


 ここでメルが声を上げた。それにザナオンが頷くと、彼女は質問を始めた。


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