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三度目勇者の異世界紀行  作者: 陽山純樹


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希望の剣

「定義上、魔剣ではあるが使用者に対し非常にきめ細やかな気配りをしている……魔力を付与することで使用者の能力を大きく高められると同時、使用者の負担を極力少なくしている」

「……変な物言いだけど、安心安全な魔剣ってことか?」

「ああ。それでいて能力は一級品だ」


 どこか感心するように……マヌエラは俺へ話を続ける。


「設計思想からして相当練り込まれている。魔力が付与されればどういった特性を与えるのかなど、組み込まれている技術はかなり綿密だ」


 ……元の世界で言えば、非常に高度なプログラム、みたいな感じだろうか。


「様々な種族が関わっているとさっき私は言ったが、おそらく各種族の得意な部分を持ち寄って剣は生み出された……魔力の調整面はエルフ、強化能力に関しては竜族、といった具合に」

「……この剣が異質なのは理解できたけど、そんな風に造られた剣は希少なのか?」

「希少も希少だ。少なくとも私は、過去歴史を遡ってそんな事例があったなんて見たことも聞いたこともない。どんな歴史書をひっくり返しても、そんな文献どこにもないだろう」


 そう語りつつ……マヌエラは自身の説を俺へと述べていく。


「だが、それでも今、トキヤが使っている剣は存在している……たぶんだが、様々な種族が集まってどうにかしなければいけなかった何かが、過去にあったのだろう。しかもそれは人間の歴史において決して語られていない話。それを聞いて、ワクワクしてこないか?」

「……ロマンはありそうだけど」


 俺の言葉にマヌエラは「そうだろうとも」と応じ、


「何かがあって、様々な種族が集いその剣が生まれた……そして役目を終え、剣はジェノン王国の宝物庫の中へ入った……そこに至るまでに紆余曲折はあっただろう。まあともかく、こうして日の目を見て世界を救っているわけだから、この剣を生み出した者達にとっても嬉しいだろう」


 そこまで語るとマヌエラは俺の剣を見据え、


「さしずめそれは、希望の剣とでも言うべきか」

「……希望、か」


 俺もまた剣を見据えつつ、


「今はまだ、戦線を維持できている。けれどいつまでもつのかわからない」

「トキヤが全て背負う必要はないが、魔王を倒した勇者である以上は期待もされているだろう……そこで、だ。私の研究を上手く活用して、切り抜けてくれ」

「研究……色々と剣について解明したけど、まだあるのか?」

「ああ、厳しい戦い……トキヤが十年前に果たした、魔王討伐の旅路よりも厳しい戦いが待っているだろう。それを切り抜けるために、私は君の剣を研究した。そして」


 と、マヌエラはやや芝居がかった口調で、


「その剣が、今の苦境を脱することができるきっかけを生み出すことも可能だと判断した」

「……具体的には?」

「トキヤが無意識にも使っている力……魔王さえも倒せた力。言わば魔を滅する力……それを今以上に活用できれば、押し寄せる魔物や魔族を、全て追い払うことができるだろう――」






 過去の情景を思い起こしながら剣を振っていると、俺はふいに動きを止めた。

 次いで町の外方向に目をやる。何やら視線を感じ取れる――誰かが鍛錬場に近づいてきた。


 やがて足音が聞こえ始める。そして人影を捉えた時、


「あ……」


 二人の人物が俺の所へ向かってきていた。片方はガタイのよい茶髪を持つ、戦士風の男性。遠目からでもわかるほど濃いヒゲを持った御仁で、そちらは見覚えがあった……以前の仲間であり、


「……ザナオンか」

「よお! 久しぶりだなトキヤ! 会えて嬉しいぞ!」


 屈託のない笑顔で男性――ザナオンは言った。


 彼ともう一人、後方に一人。長い金髪と黒い瞳を持ち、白を基調とした旅装姿。年齢は……背丈がやや小さいため、下手すると十代半ばくらいに見えるのだが、堂に入るような足取りから、大人びた雰囲気も感じられた。


「まさかまた召喚されるとは、運がないな」

「ジェノン王国に文句を言ってくれ。というか、三度目となったらさすがに俺のことを選んで召喚しているだろ」

「ははは、違いないな」


 なおも笑うザナオン。彼が見せる様子は、二十年前とほとんど変わっていない。


「いやしかし、お前も年取ったな……以前は伸ばしていなかったヒゲだが、何か理由でもあるのか?」

「単に放置しているだけさ。まあヒゲを伸ばした方が格好いい、などと言われることもあってこのままにしている面もあるな」

「ヒゲねえ……俺からしたら似合わないけどな」


 そう応じると俺達は互いに笑う……うん、関係性だって、過去のままだ。十年前、最後にあった翌日に顔を合わせているかのように。


「……で、彼女は?」


 俺はザナオンの後方にいる女性に目を向ける。


「身なりからすると弟子か?」

「そうだ……トキヤの気配を感じ、わざわざ町の門をくぐらずここに来たのは理由がある」


 そう前置きしてから、ザナオンは俺に告げる。


「唐突だが、彼女と一度戦ってくれないか――?」


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