勇者の相棒
バルドからやたら気になることを言われた後、俺は町外れにある騎士達の鍛錬場に赴いた。
屋外かつ土がしっかりと踏みならされた場所で、現在人影はなし。ちなみに「俺が単独で剣を振っていても問題ないのか」とバルドに尋ねたら、
「町から依頼を請けた戦士なども利用するから、問題にはならんよ」
とのことだったので、俺は剣を抜き鍛錬を始めることにする。
まあ鍛錬といってもそう気合いの入ったものではなく、単純に剣を振りつつ体の動きを確認するくらいだけど……とりあえず、演舞のように剣を振りながら体を右へ左へとやりつつ、握りしめる剣の感触を確かめる。
……ここで改めて、俺が持つ技量についておさらいをしよう。現在握っている剣、これが力の根源であり、魔王を倒した相棒だ。
この剣はジェノン王国の宝物庫で俺が手にするまで眠っていた一品だが、ではなぜ魔王も倒せるだけの力を持つこの剣が使われなかったのかというと、単純に扱える人間がいなかった、というのが答えだ。
俺自身、魔力量は平凡でもその質がこの世界の人とは違う。その要因で今持っている剣を扱え、戦うことができた。
ではこの剣は一体何なのか……ふいに過去の出来事を思い出す。それはこの剣のことを調べたとある研究者について。
元々、ジェノン王国に存在していた強力な剣、くらいの扱いだったものを研究し、この剣が何なのかを暴いた人物。まあ半ば強引に調べていた……というか、俺を呼びつけて研究をしていたと言うべきか。
その人物は今、どうしているのか……あ、なんか過去、その研究者と話をした出来事が思い出される。結構インパクトが強かったので、忘れたくても忘れられない。
ふと手を止め、俺は剣を眺める。白銀の刀身に目を向けていると、その時の光景が蘇った――
「――まあ、一言で表せば意味不明な武器だ」
俺が研究者の部屋を訪れ扉を閉めた瞬間、開口一番そう声が聞こえた……ハスキーな声の女性であり、長い黒髪を持つ美人――ではあるのだが、その長髪は切るのが面倒だから伸ばしているだけだし、化粧っ気がまったくないのが研究に全てを振り切っている、という雰囲気を出していて近寄りがたい気配を発している。
で、いきなり話し出す彼女に対し俺は眉をひそめ、
「……俺が持っている剣の話か?」
「他に何がある?」
彼女は肩をすくめながら俺の疑問に返答する。
「ようやく結論が出たのだ。喜べトキヤ」
「……まあ、この剣の正体を知れるのはいいことかもしれないが」
頭をかきつつ返答しつつ、
「でも、こんなタイミングで呼び出さなくてもいいだろ」
――それは十年前、魔王との戦争を行っている最中の出来事だった。彼女の部屋を訪れたのは、フリューレ王国で首都防衛戦を行っていた。
絶え間なく押し寄せる魔物達に俺は日々戦い続けていたのだが、その首都に彼女がいて「剣の真価を引き出すために研究してやろう」と、頼んだわけでもないのにいきなり剣を奪い取られたのが始まりだった。
最初はおいおいと思ったが、彼女の研究によって剣の能力が解明されたことで、首都防衛戦にも大きく貢献できた。よって、俺も彼女の呼びつけを無碍にはできなかった。
それは、この戦いを勝利する呼び水になるかもしれないから……そして彼女の名前は――
「で、意味不明と言っても結論が出たというのはどういうことだ? マヌエラ」
名を呼ぶと、彼女――マヌエラはニヤリとする。
「剣の正体だよ」
「正体……少なくとも人の手で造られた物ではない、と以前言っていたよな?」
「その通りだ。神族、エルフ、あるいは竜族……大穴で魔族、そういった物が生み出した武器だと私もつい最近まで思っていた」
「違うのか?」
「一部分は合っている……お前が持つその剣は、合作だ。様々な種族の手によって、生み出された剣だ」
彼女の言葉に俺は腰に差した剣を見る。
「その種族には人間も入っている……どういう経緯で生み出されたのかまではわからん。残念ながらその剣には銘がないため、歴史的な情報が読み取れないからな」
「……剣が生まれた理由は不明だが、色々な種族の手によって生み出された点は解明したと」
「そういうことだ……で、だ。その剣は特性的に言うと魔剣に近い」
「魔剣?」
聞き返すとマヌエラは「ああ」と返事をする。
「といっても、呪われたりするような負の特性はない……むしろ、使用者を守り、強化するような特性が存在している……魔剣の定義としては、使用者に様々な効果をもたらす特性を持つ剣というものだが、大抵はデメリットがある。剣の力で無理矢理何かを強化すれば、他の部分で何か弊害が出るという話だ」
「例えば両腕を魔力で限界まで強化して無茶苦茶な力を得られる……反面、強引に力を引き出したことで体を痛める、とかそういうことか?」
「そうだ……だが、その剣にはデメリットがない」
語るマヌエラは嬉々としており……俺に昔話でも聞かせるように、さらに語り続けた。




