唐突な再会
冒険者ギルドの建物内を見回した後、俺は受付へと向かう……情報を集める、あるいは仕事を見つける、どちらにせよ冒険者登録をする必要がある。
旅をしていたのであれば、登録くらいしているだろう……と、言いたいところだが登録をしたのは二十年も前の話だ。十年前の戦いではギルドで仕事など請けずひたすら国の要請で魔族や魔物と戦っていたからな……俺の登録なんて失効しているだろう。
それに、冒険者ギルドに所属していることを示すギルド証は紛失しているし……俺は受付に「すみません」と告げ、
「登録をしたいんですが」
言った相手は若い女性だったのだが……俺の顔を見るなり目を見開いた。
「……登録、ですか」
「はい」
なおも凝視する女性。この態度だと……俺のことを知っているのかな?
「……確認ですが」
そして女性は俺へ尋ねる。
「あなたは……勇者トキヤ、ですよね?」
「はい」
隠し立てするつもりもないので返事をする。そこで、近くにいた冒険者が聞き咎めたのか俺に視線を向けてくるのがわかった。
「俺のことを知っているんですか?」
「その、十年前の戦いで……」
ジェノン王国も戦渦に巻き込まれたからな……この王都にも魔物が押し寄せ、俺が食い止めた。その時に俺の顔を見たのかもしれない。
「……俺の登録は残っているんですか?」
「はい、登録はしているはずなのに、なぜ再度登録申請を?」
「二十年も前の話なので、とっくの昔に失効しているものかと。それに、ギルド証も紛失していますし」
説明すると女性は「少々お待ちください」と言って、奥へ引っ込んだ。あの様子だと、面倒くさい申請書類を書く必要はなさそうだな。
数分経つと女性が戻ってくる。ちなみにこの段階で俺のことに注目する人間が増えている。先ほどのやりとりを聞いた人間が話を広めたか、それとも国が情報を流しもう噂が広まったか……考えていると女性は俺へ何かを差し出した。
「ギルド証です」
「……どうも」
トランプくらいの大きさをしたカードだった。軽い材質の金属で作られており、見た目以上に丈夫だったりする。
受け取って確認するとこの世界の言葉で俺の名が記されていた……うん、ひとまずこれで冒険者ギルドを利用できる。
「なら早速ですけど……」
魔族に関する情報取得か、仕事を引き受けるか……受付の女性へ告げようとしたその時だった。
突如、冒険者ギルドの入口が盛大な音を伴って勢いよく開かれた。何事か、と俺を含め冒険者や受付の女性が一斉に入口へ視線を移す。
そこに、女性が一人立っていた。巡礼をするような真っ白い法衣を着た、青い髪の女性。その要望は常人離れしており、美人という言葉では言い尽くせないほどの圧倒的な美麗さを誇っている。
そして特徴的なのは、耳。明らかに人とは異なり、ずいぶんと鋭く長い……元の世界で言うところのエルフ耳。そういう特徴を持っていた。
そして実際、特徴通り彼女はエルフと呼ばれる種族……この世界には、元の世界で言う空想上の種族が存在している。エルフはその最たるものであり、なおかつこの大陸にはエルフが統治する国家も存在する。
で、そんなエルフの女性だが……見覚えがあった。というより、この冒険者ギルドを訪れたのは、俺がここにいると気配で察したのだろう。
彼女はジェノン王国の人間にとっても有名であるため、周囲の人も誰なのかすぐわかっただろう。正体を理解し驚いて冒険者達が沈黙する中、俺は口を開いた。
「よお、久しぶりだなメル」
その言葉に、彼女――メルは俺を凝視し、
「……何を、考えているんですかこの国はぁぁぁぁぁ!?」
彼女に似つかわしくない、絶叫が建物内に響き渡った。




