対策と鍛錬
俺とメルはバルドと顔を合わせた日、手配してもらった宿に入り一泊。翌日には作戦まで暇することになり、宿屋に併設する飲食店で朝食をとることに。
「さて、今日は何をしようか」
「作戦開始まで休んでいても良いのでは?」
俺の言葉にスープを飲みながらメルが応じる。
「討伐作戦そのものは長時間に及ぶ可能性があるようですし、旅の疲れをなくしておくのが重要かと」
「……かといって、食事の後に二度寝するという気もないしなあ……ちなみにメルは?」
「部屋に戻って適度に休みつつ魔法の構築をしようかと」
「魔法?」
「討伐作戦の際、魔族が介入してこないか……それを確認するための魔法です」
メルはそう言いつつ、食事を進める。態度からすると、既に頭の中でどういう手法にするのか決めている様子。
「時間はありませんが、今までの経験を活かして準備をしておきます」
「……今回、俺とメルは実質別行動になるな」
「はい、援護できないため無理はしないでくださいね。あるいは、バルドにしっかり援護してもらうか」
「そっちの方がいいかなあ……メルとしては援護も魔族の監視も両方やりたそうだけど、さすがに時間がないか」
「しっかりと準備ができれば可能かもしれませんが、さすがに難しいですね……」
「そこは仕方がないさ。で、メル。もし魔族が出現した場合は――」
「戦場に飛び込んでくるか否か、ですね。それによって対応も変わります」
「俺は前線に立って戦うだろうから、魔族がいるという連絡を受けても動きようがないかもしれない……誰に連絡をするかなど、きっちり決めておくべきか」
「バルドと改めて打ち合わせをしておきます」
「ああ、頼む」
――やがて朝食を終え、俺は宿の部屋に戻る。そしてこれから始まる作戦について思考してみる。
魔物の発生……フリューレ王国は相当手を焼いている様子で、バルドのような人物も駆り出されるような事態。正直、これが自然発生した魔物による仕業だと、素直に頷くことはできない。
「十中八九、魔族が関わっているだろう……問題はその関わり方だが」
――ジェノン王国にいた魔族は、何やら魔物に関する実験をやっていた。それを踏まえると、フリューレ王国内にいる魔物についても、実験の産物である可能性がある。
疑問は、ではなぜ実験をするのかという点についてだが……もしそうならジェノン王国にいた魔族と合わせ、魔族が大々的に何かしているということなのかもしれない。それが新たな戦争を起こすためのものか、それとも……、
「けど、やっぱり違和感が拭えないな」
正直、魔王が命令したとは思えない……魔王を二度倒し、色々と真実を知っているからこその呟きだった。
「むしろ魔族達が魔王の命令に従わず、結託して戦争準備を始めているとかの方がしっくりくるな……」
もしそうであれば、ジェノン王国とフリューレ王国の騒動は繋がっているかもしれない。だとすれば、この実験を指示する存在がいるはずだ。
その場合、そうした魔族を倒すことが騒動解決の道筋となるだろう……ま、ここについては討伐作戦中、メルが魔族を観測できるかどうかで考えればいいだろう。
「他にやることは……少し、体を動かすか」
寝ていてもいいけど、少しくらい剣は振っておくべきだろう。俺はそう思いつつ、ベッドの傍らに置いてある剣を腰に差して、部屋を出た。
その足でまずバルドの下へ向かう……昨日彼がいた建物内にいる人に声を掛けると、あっさり同じ部屋に通してくれた。
「おう、どうした?」
「剣を振れる場所を探しているんだけど、候補はあるか?」
「鍛錬をするのか」
「体が鈍らないよう動かす程度だよ」
「それなら町外れに騎士達の鍛錬場がある。話は通しておくからそこで剣を振ればいい」
「……俺がいることで大騒ぎになったりしないか?」
「トキヤが作戦に参加することは既に伝えたが、この町の人間が勇者トキヤであるとわかる人間はごく一部だろう。まあ問題はないんじゃないか?」
「それもそうか」
「ただ別の意味で大騒ぎになるかもしれんが」
……どういうこと? 眉をひそめているとバルドは解説する。
「ザナオンは思った以上早くこっちに顔を出す。街道を歩んでいる気配を捉えた。昼くらいには来るだろう」
「お、そうか……鍛錬場にいたら、ザナオンが決闘でも申し込んでくるとか?」
「それならまだ可愛いものだが」
おいおい、何かあるのか……気になってバルドを見ていると彼は、
「そこはザナオン次第だな。まあヤツが色々やる気なら、鍛錬場にいようが宿屋にいようが関係ないだろう」
「……何が起こるんだ?」
俺の問いにバルドは笑い、
「それは来てからのお楽しみだな。俺の想像通りの展開になるかもしれんし、ならんかもしれん――」




