合同作戦
「バルド、魔族が出てくるというのはあくまで俺の推測でしかない……が、大規模な戦いである以上、魔族がフリューレ王国内にいるのであれば、様子を窺いにやってくる可能性もある……で、だ。俺達をここに呼んだのは討伐に参加するよう依頼するためだな?」
「その通りだ」
「わかった、俺達も協力する……というわけでメル」
「はい」
「俺は討伐に参戦して魔物を倒す。メルは魔族が出てこないかを監視してくれ」
「わかりました……私としても魔物の増加は自然現象なのか疑問に感じています。魔族の関与は十分あり得る……調査しましょう」
「二人とも、助かる」
そうバルドは言うと、今度は俺に語る。
「今回の討伐にはザナオンも加わる予定だ」
「俺達は元々ザナオンに会おうと思っていたんだ。討伐と共にそれが果たせるなら、手間が省けるな」
「二人が会いたいということは連絡しておこう……討伐については数日で作戦を固める。二人はこの町から出陣ということでいいか?」
バルドの確認に俺とメルは同時に頷いた。
「よし、それじゃあ俺から町の人間には報告しておく」
「作戦開始はいつからだ?」
「三日後だ。ああ、討伐準備については必要ないぞ。必要な物資はこちらから支給する」
「それはありがたいけど……俺に依頼をするのはバルドの一存だろ? 問題ないのか?」
「現状、戦力をかき集めている状態だからな。少しでも人員を増やしたいところだったから渡りに船だったぞ」
「そんなに切羽詰まっているのか」
「というより、全貌が見えんから少しでも戦力強化を、というところだな」
そこまで語るとバルドはため息をついた。
「俺の弟子もいくらか作戦に参加するが……かなり不安がっていた。なおかつ魔物の数を考えると、時間が掛かるかもしれん」
「長期戦も考慮する必要があるのか……」
「しかも時間が経過すればするほど色々なリスクが高まる。ツォンデル周辺にいる騎士や戦士の合同作戦だが、当然ながら連携レベルは拙い。短時間の戦いならボロが出ることはないだろうが、時間が経過すれば……」
「命令などが上手く伝わらず、バラバラになってしまうと」
「だから、魔物を一気に倒せる力を持つ人間が欲しかった。トキヤが参戦するのは、千の兵に匹敵する助力だな」
「……期待しているところ悪いけど、俺だって年齢的に全盛期から力は落ちている。どこまでやれるかはわからないぞ」
「そこは上手くフォローはさせてもらうさ」
……むしろ俺の援護を手厚くすることで、魔物の撃破数を増やそうとしている雰囲気があるな。
バルドの頭の中で、作戦についても色々思案を巡らせていることだろう……そこで俺は、
「馬車馬のごとく働けと言われても頑張るが、俺が倒れたら戦線が崩壊するような戦略はやめてくれよ」
「ひとまず、頑張ってはくれるか」
「目の前に、俺の倍くらい生きている爺さんが作戦を立てているからな。こっちだって勇者として少しは頑張らないとな」
その言葉で、バルドは豪快に笑う。声もずいぶんと老齢を重ねてしまったが、その笑い方は以前と何も変わらなかった。
「……そうか、こちらも老骨に鞭打って戦場に立たせてもらう。トキヤ、よろしく頼む」
「ああ……本当なら、もっと若い世代の人間が出てきてほしいところだな」
「既に芽は出始めている……と、そうだ。先ほどザナオンの話が出ていただろう? 連絡をするから、作戦前に一度顔を合わせるといい。向こうからこっちに来るはずだ」
「ザナオンも弟子と共に戦うってことだよな?」
「そうだ、その弟子は――」
と、言いかけたところでバルドの口が止まった。
「その辺りの詳細はザナオンから聞くべきか」
「何かあるのか?」
「トキヤにとっては予想外の者が弟子になっている。その経緯は軽く聞いた程度だから、ザナオンから聞くべきだろう」
何だろう……と、俺はここで当初の目標について思い出した。
「そうだ、バルド。俺達が旅する目的は魔王に関する調査なんだが……」
「魔王が復活した、って話だな」
「バルドは何か知っているか?」
「残念ながら何も。ただ二十年前と十年前、魔王と関わった俺からすると、魔王が再び復活した、なんて噂すら俺達の耳に入るとは考えにくいと思うがな」
バルド自身も疑問に思っている……が、さりとて魔王が復活していないなどと決めつけているわけでもない。
「そこで調査というわけだな」
「ああ、俺も疑問があるから、それを調べる……で、今は俺とメルだけだが、仲間も集める必要があると思ってる」
「仲間探しか……ああなるほど、作戦中にめぼしい人間に声を掛けてもいいか、という話だな」
「場合によってはバルドの弟子とか……」
「ふむ、どうだろうな……そういう話なら、なおさらザナオンと顔を合わせるべきだな」
どういうことだ? 疑問に思っているとバルドはまとめるように俺へ告げた。
「さて、話はこれまでにさせてもらおう。宿は大急ぎで手配するから、ひとまず建物の外で待っていてくれないか――」




