魔物の軍勢
「まず、お二人さんに確認だ。フリューレ王国内の状況をどこまで知っている?」
俺達は部屋の中にある丸いテーブル――資料が置かれているそれを囲むように配置された椅子に座って話をする。
「ジェノン王国からフリューレに入ったばっかりだろ?」
「……国境を抜ける前に、戦士から情報を得た。最新情報ではないから町に辿り着くごとに簡単に調べてはいたけど」
「ほう、戦士から」
「ウィルという人物だ。知っているか?」
問いにバルドは「おお」と声を上げ、
「彼か。そういえば一度郷里に帰ると言っていたな」
「……実は有名人だったりする?」
「それなりに評価が高い戦士だった。色々と悩んでいる様子もあったが、戻ってきてくれれば助かるな」
……俺の助言が役立っているかどうか、次第かな。
「彼が情報源であれば、かなり正確な情報を持っていると考えていいだろう……現在の情勢は、大雑把に言うと多数の魔物が群れ……いや、もはや軍勢と差し支えない規模にまで膨れ上がった魔物達がいる。それを討伐しようと考えている」
「その魔物は、突然大量発生したのか?」
「いや、近辺には魔物の発生源がかなりあって、そうした場所で多量の魔物が生まれた結果、軍勢と化した」
そう語るとバルドは難しい顔をする。
「現在時点で魔族などが関与している気配はない……が、討伐を行おうとしている前後で介入してもおかしくない。それくらいの規模があるからな」
「偶発的に生じた軍勢ではあるが、それを使役できるとしたら、フリューレ王国に打撃を与えられる……魔族が動く動機としてはありそうだな」
――魔族は基本、自らが生み出した魔物を使役するが、自然発生した個体を魔力などを操作し、動かすというケースもある。今回はそういう事態に発展する可能性があると。
「魔族が出てくる前に軍勢を倒したいということか」
「そうだ。魔物達はここから西にあるツォンデルに居座っている。その場所を囲むように周辺にいる騎士団や傭兵が連携、国が指揮を執って討伐を行おうとしている」
「えっと、ツォンデルというのは――」
「地方名ですね」
俺の言葉にメルが割って入る。
「ここから西は低地になっているのですが、そこに森が広がっています。魔物はおそらくその森の中に群れを成している……ということで良いのですか?」
「おおよそ正解だ。問題は魔物が多数いるせいで他の場所にいる魔物が吸い寄せられるようにツォンデルへやってくる……を、繰り返した結果軍勢になった点だ。しかも低地のせいか空気が澱みやすく、魔物の発生場所も多い」
「ずいぶんと厄介な場所だな……」
「国としては手を付けたかった場所みたいだが、他にも人里近い場所とか、あるいは重要な要所とか、日々押し寄せる魔物に対応していたとか、色々理由があって放置してしまい、どうしようもない状況に陥ったということらしい」
……フリューレ王国の騎士団とかが満足に動けていたなら、こういう事態にはならなかったのだろう。俺がそう考えていると、バルドはさらに続けた。
「国としてはこうした現状を憂いながら、とにかくやれることをって感じだ。さすがに俺も知らんぷりしているわけにもいかず、現場に戻ってきたわけだ」
「……バルドが戻ってきたのはいいが、深刻な状況になったから、経験のある人間として国が半ば無理矢理依頼してきた、ということじゃないか?」
「対応が後手後手であるのは国も認めているよ。まあ復興は順調に進んでいたし、魔物の数もある時までは減っていたから、大丈夫だと高をくくっていた……ということらしいな」
「ある時まで……? 魔物が増えるきっかけとかあったのか?」
「そこは、わかっていない」
と、バルドが言う。ただ雰囲気的には何か思うところがある様子。
俺とメルは沈黙し、続きを無言で促す……バルドはその考えを汲み取り、
「二人もどうやらおかしいと考えているようだな……確かに、順調に数を減らしていた魔物が逆に増加し始めた……しかも、国が正規軍だけでは対応できないと判断するほどに。フリューレ王国は魔物を放置していたわけじゃないから、どういうことなんだと首を傾げる人間もいるよ」
「バルドは推測とかしているか? 例えば原因がこれじゃないのか、とか」
「俺の口からは何も言えないな。結局のところ情報が不足しているから、何を言っても俺の意見でしかない」
「そうか……」
「そっちはどうだ? 話を聞いて思うところはあるか?」
……俺はバルドを見据える。視線が合い、少しの時間静寂が部屋の中を満たし、
「ジェノン王国では、魔族が潜伏していた。しかも魔物を生成する活動もしていた。ジェノン王国でもそれである以上、フリューレ王国だってそうである可能性は、高いと思う」
「密かに魔族が活動していると」
「魔物が増加した理由が魔族なのか、それとも魔物の増加に便乗して何かしているのかは不明だが……ともあれ、大規模な討伐を行うというなら、次の戦いに魔族が関与する可能性は、十分あると思う」
「なら、どうする?」
問い返したバルドに対し、俺は……少し間を置いた後、話し始めた。




