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三度目勇者の異世界紀行  作者: 陽山純樹


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歴戦の魔法使い

 順調な旅に変化が訪れたのは、ザナオンがいると思しき場所まであと数日、というくらいの場所に辿り着いた時だった。


「――勇者トキヤ」


 夕刻前、宿場町に辿り着きここで宿をとろうという段階となって、俺に声を掛けてくる人物が。視線を転じると、そこにはこのフリューレ王国所属であることを示す、青い鎧を着た男性がいた。


「突然お呼びして大変申し訳ありません。私はこの町の騎士です。ご依頼したいことがありまして……ご同行願いたいのですが」

「……俺達はここに来たばっかりだけど、噂を聞いて待っていたのか?」

「いえ、あなたの気配を知っている方がいまして」


 ん、誰だろう……その人物について尋ねると男性は、


「バルド=フォレント様です」

「……へえ?」


 俺は少し驚きメルを見る。


「バルドがここにいるらしいけど」

「……伝え聞いた近況では、フリューレ王国の農村で暮らしていたはずですが」


 ――騎士の口から出た人物は二十年前、共に魔王へ挑んだ仲間の一人。ただその年齢は二十年前の時点で五十近かったはずで、今は七十手前という年齢になる。

 卓越した魔法使いであり、二十年前の時点でかなりの名声を所持していた。人間最強の魔法使いは誰か、と問われれば必ず名前が上がるほどであったレベルで、魔王討伐を果たすために必要な存在であったのは間違いない。


 最終的に、魔王へ挑む際は後方支援……というか、魔王を守る精鋭部隊と戦っており、魔王自身と直接相対したわけではないが……その戦果は目を見張るものがあり、魔王討伐後の名声はまさしく頂点を極めていた。


 ただ一方でもう年齢的にも落ち着く頃だろ、と彼は農村に移り住み、そこに来る押しかけ弟子の面倒を見ていた……が、十年前の戦争で再び参戦。弟子と共にフリューレ王国の戦線を支えていた、という話だったはず。

 残念ながら俺は彼と同じ戦場に立つことはなかったのだが……で、今回の魔物討伐においても駆り出されている、という話らしい。


 そしてバルドならば、近づいてきた俺を察知するなんて朝飯前だろう……そこで俺はメルへ、


「とりあえず、話を聞くか?」

「そうですね……バルドと顔を合わせる方が話が早いでしょうか」

「うん、だろうな……バルドに会うことはできるのか?」

「はい、こちらです」


 騎士が案内を始める。俺とメルはそれについていき、やがて二階建ての役所らしき建物に辿り着いた。

 中に入ると、町の役人とか兵士とかが慌ただしく駆け回っていた。その様子から何かがあると感じ取り、俺とメルは表情を引き締める。


 そして騎士は入口から少し進んだ場所にある扉をノック。


「バルド様、お連れしました」

「入ってくれー」


 やや間延びした男性の声……ただ、扉越しでもわかる、声音の奥に存在する得も言われぬ 重さ。返事に応じて騎士が扉を開けると、


「よう、久しぶりだなトキヤ」


 ――そこにいたのは、黒いローブを着た白髪の男性。七十手前のはずだがしっかりと腰は伸びており、むしろ俺より背筋が真っ直ぐなんじゃないかと思うくらいだ。


「……ああ、久しぶりだなバルド」


 俺が返事をするとバルドはニヤリと笑う。背筋はいいが年齢相応にシワも深く、さらに言えばローブ姿でも細いとわかる――だが、その立ち姿は大男を想起させるような迫力があった。


「うん、そっちも相応に老けたなあ……ああ、君は下がっていいよ。あんがとさん」


 騎士に告げると彼は一礼し歩き去る。俺とメルは部屋の中に入り、彼女が扉を閉めた直後、俺が口を開いた。


「そんな年齢にもなってまだ前線に出るのか?」

「人手が足らなさすぎて担ぎ上げられちまったんだよ。まったく、こんな老いぼれにまで話が回ってくるとは、フリューレ王国もヤキが回ったもんだ」


 肩をすくめながらバルドは語る……俺も彼も一度目の魔王討伐から相当老けたけど、関係性は昔と変わらない、と言ってよさそうだ。


「ま、そういうトキヤも同じか。まさかジェノン王国が三度同じ事を繰り返すとは、話を聞いた時はひっくり返りそうになったぜ」

「俺もまたかよとツッコミを入れたよ……ちなみに、弟子とかには任せられなかったのか?」

「一人前になりたての子とかも全員、駆り出されてるんだよ。足らなかったから俺が出た」

「……フリューレ王国内の魔物騒動は、危険な状況に来ているのか?」

「ギリギリってところだな。今は不足している人員を傭兵とか勇者とかで補ってやりくりしているが、これ以上魔物の数が増えれば、町や村がいよいよヤバいことになる」

「それを防ぐためにバルドが出陣というわけか……魔物は、増え続けているのか?」

「ここ一年で魔物の出現数や範囲が広くなっている。まあ魔物が発生するような魔力溜まりを放置すれば、発生場所が増えるからいつかこうなってしまう、という可能性もフリューレ王国内では危惧されていた」

「その危惧が現実のものになってしまった……あるいは、他に何か原因がある?」


 俺の問い掛けにバルドは笑みを浮かべる。察しが良い、とかわかっているじゃねえか、ということを言いたげな顔だ。


「話が早くて助かりそうだな。それじゃ、さっそく話し合いといくか――」


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