戦争の爪痕
数日後、俺達は国境を越えてフリューレ王国に入った……といっても、ゲームのようにフィールドが変化するとかイベント的なものはない。国境線となっている橋を抜け、俺達は町へと辿り着く。
本来ならここで情報集めをするつもりだったのだが、戦士ウィルから色々情報をもらったことから省略し、さらに以前の仲間であったザナオンがいる場所へ向かうことにする。
道中、向かう間にザナオンについて情報を集めてみる。いるとわかっているので話題に出せば、知っている人に辿り着くことはできる。
「最近、弟子と共に大型の魔物を討伐したらしい」
そんな話を聞くことができた。どうやらまだまだ前線で戦う現役らしい。
「俺より年上で、四十を迎えているはずなんだが……」
「前線、といっても最前線で剣を振るっているかはわかりませんよ」
そうメルは告げる……確かにそうなんだけど。
「肉体的には間違いなくピークは過ぎていると思いますが、トキヤと同じく魔力強化によって補っている感じでしょう」
「かもな……それと、弟子がいるらしいけど……」
ちなみに弟子については訊いても誰も知らなかった。まあザナオンがいる場所に近づいたら詳細も出てくるだろう。
「ザナオンに育てられた戦士は結構いるよな」
「はい、二十年前の魔王討伐以降、後進の育成に力を入れていましたからね」
「実際、十年前の戦争では大きな役割を担っていた……フリューレ王国にいるとなったら、功績的に貴族とかにもなれそうだけど、そんな感じじゃなさそうだな」
「本人が望まないでしょうね」
……まあ貴族ってガラでもないからな。
――というわけで、俺達は情報を集めつつ旅を進めていく……また、現状のフリューレ王国に関する状況も、空気感で理解してくる。
ジェノン王国に戦士や勇者が少ない……という状況は、まさしくフリューレ王国の内情が大きく関係していた。というのも、訪れる町全てで規模の大きい魔物討伐が行われている……魔物の数もそうだが、町近くに出現する頻度は周辺諸国と比べれば明らかに多いようだ。
では、なぜそんなことになっているのか……以前、ルークと話をした際におおまかな理由は聞いていた。十年前の戦争――爪痕が大きく、廃村などに魔物が住み着いてしまった。魔力が澱み、魔物も発生するようになってしまった。
それを是正するべく、フリューレ王国は対処している……この大陸において人間が統治する国家として最大領土の国ではあるのだが、魔物に手を焼いている状況を見ると、十年という歳月では戦争から復興できているわけではなさそうだ。
「……フリューレ王国は、戦争の被害がもっとも大きい国でした」
街道を歩きながら、メルは俺へと語る。
「この十年で財政的にも色々と人々に支援をしたようですが……そうした要員もあって、軍事費などを捻出するのも大変みたいです」
「だからこそ、戦士や勇者に頼ると……魔物を討伐するための部隊を維持するのが難しいという話か」
「人員的な面も関係あるでしょう。十年前の戦争で、多くの勇士が亡くなられてしまいましたから」
「そうだな……」
俺も色々思い出す。悲劇――魔王による大陸全土を巻き込んだ戦争は、間違いなく多数の悲劇を生み出したし、俺もその悲劇を目の当たりにしたことがある。
この国はそうした悲劇の最前線であった。魔王は天王がいる国を中心に攻撃を仕掛けた。フリューレ王国も当然狙われ、領土規模が大きく相応の軍事力を持ってはいたが、魔王の猛攻は途轍もなく激しかった。だからこそ、多くの騎士が倒れた。
俺も剣を振るい戦線の維持に努めてはいたが、広範囲に戦いを仕掛ける魔王に対し、局所的に勝利をしても大局的な戦況を覆すことはできない……とはいえ、フリューレ王国は重要な戦いに勝つべく俺に要請をしたりして、ここで負ければ崩壊するという状況で勝利を繋ぎ、最終的に魔王を倒すことができた。
そうした戦いにおいて、ザナオンもまた勝利に貢献した人物である……情報を集めたことによって現在いる位置もおおよそつかんだ。そこへ向け歩を進める。
「なあメル、もし彼の弟子で良い人がいたら……」
「勧誘をしてみる、というわけですね。そこはトキヤの判断に任せます」
「俺の判断でいいのか?」
「このパーティーのリーダーはトキヤですから。最終決定権はそちらに」
「わかった……とはいえ、メルにもちゃんと相談するからな。場合によっては魔王と戦うことになるかもしれない以上、軽い考えではまずい」
「ザナオンの弟子達は正義感が強い人が多かったですし、案外あっさりと手を貸してくれる可能性もありそうですが……実力的に良いかどうかは別問題ですからね」
「……まあ、ひとまずザナオンに相談かな」
俺は結論を口にしつつ――ザナオンの顔を思い出す。
二十年前出会った時は、茶髪の格好良い青年だった。それが二十年経った今ではどうなのか……二度目の召喚の際はそこまで容姿が変わっていなかったけど。
なんとなく今の彼について想像しつつ……俺とメルはフリューレ王国内を進み続けた。




