勇者の助言
「まず、剣術面については高いレベルだと思う……最初の打ち合いは間違いなく互角だったし、そこからわかることとしては、技量面は決して俺と比べても劣っていない」
そこまで言った後、俺は肩をすくめる。
「俺の技量がどこまで高いか、と問われるとわからないけど……確実に言えるのは、技量という観点だけを見るなら、あなたはまだまだ現役だろうということだ」
「そう言ってもらえるのは嬉しいが、それだけで戦い抜ける世界ではないだろう?」
「そうだな。魔物を始め、凶悪な存在は単純な技量だけでは立ち行かないかもしれない……が、その技量面を押し出し、これからも戦い抜くことができるかもしれない手法がある」
「それは?」
「魔力面に関して強化する方向だ。あなたはおそらく肉体的に衰え始めた結果、どうしようか悩んでいるようだが、魔力はそれを補うことが可能だ。実際、俺は君より年上だが、魔力強化によって全盛期とまではいかないにしろ、高いパフォーマンスを出せている」
俺の言葉に「なるほど」とウィルは同意する。
「魔力面……今後も魔物と戦っていくのであれば、そちらを強化していくのも良いとは思うが――」
「……これは直に剣を合わせ感じたことだが」
俺は先ほどの戦いについて思い返しながら、語る。
「あなたは魔力強化については雑味が多いな」
「雑味?」
「色々と無駄な部分が多いということだ……もし、そういう面を指導してくれる人とかいれば、大きく成長できるかもしれないぞ」
俺の言葉にウィルは考え始める。思わぬアドバイスに戸惑っている面もあるようだが――
「……そうか」
声を発する彼の口元には、小さく笑みが浮かんでいた。
「どうするかはまだわからない……が、まだ剣を握る道がある、ということだな」
「ああ、それは間違いないと思う」
「それがわかっただけでも十分だ……ありがとう、勇者トキヤ。どんな選択をするか自分でもまだわからないが、助言を胸にこれからのことを考えていこうと思う」
「ああ、頑張れよ」
――そうしてウィルは去った。後ろ姿を見送る俺だが……やがてメルが一言。
「ずいぶんと突っ込んだ助言をしましたね」
「そうか? 俺は直接戦って感じ取ったことを言っただけだ。後は彼次第だが……」
「魔力強化ですか……仮にトキヤの助言に従うとしても、師事しようと思う人に巡り会えるかは運ですね」
「それは仕方がないさ……俺が指導するわけにもいかないし、そもそもできないからな」
そう答えてから俺は、メルへ向け、
「今後のことについて一つ思うところが出た」
「今回のことで、ですか?」
「ああ、仲間探しをするのは前提として……例えば、今後期待できる人とかどうだろう」
「……後進の育成も行う、ということですか?」
「そんなところ。俺だっていつまでも勇者として活動できるわけでもないからな……魔王についても、俺が最後まで面倒見るとか無理だし、俺みたいに召喚されて働かされるなんて悲劇を防ぐためには、この世界で将来を担う人材を育てた方がいいだろ」
「……トキヤがやる仕事の領分を逸脱しているような気もしますが、トキヤがやる気なのであれば否定はしませんよ。ただ、魔王と戦う可能性もありますから、それを踏まえた上で人選を進める必要があるでしょうね」
「そうだな」
とはいえメルは否定しなかったので、仲間探しについての選択肢として残しておこう……それで、
「よし、改めて旅を再開……いよいよフリューレ王国だな」
「はい、戦士ウィルから情報を得られたので、情報集めに奔走する必要はなくなりました……それと」
メルは懐からウィルにもらった地図を取り出す。
「非常に面白いことが書いてありました。仲間探しという観点からも、進展があるかもしれません」
「へえ、それは何だ?」
「ザナオンの居場所が記載されていました」
「……へ?」
俺は聞き返す……その名は、二十年前――魔王討伐の旅路で出会い、一時期仲間になっていた人物だ。
残念ながら最終パーティーに入ることはなかったが、魔王との決戦の際に援護要員として帯同していた人物でもある……戦士として二十年前から有名で、当時二十五歳だったので今では四十五歳になっている。
なおかつ、十年前の戦争でも前線で戦っていた……俺にとっては戦士として先輩といった感じの人物だ。
「ザナオン……まだ現役なのか?」
「そこについては記載されていません。直接赴いてみなければ」
「そっか……メルはザナオンについては近況知らなかったんだよな」
「彼は一つどころに留まっているわけではありませんからね……十年前の戦争では、剣の教え子と戦場に立っていたこともありました」
「なるほど、剣の指導者として……俺が語ったような人物を仲間にできる、かもしれないな。わかった、ならまずはザナオンに会いにいこう」
「はい」
方針は決まった。俺とメルは、いよいよフリューレ王国へと向かっていく――




