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三度目勇者の異世界紀行  作者: 陽山純樹


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強化と変化

 呼吸を整え、俺はウィルを見据える。彼はいよいよだと認識し、剣を構え直した。

 次の瞬間、今度は俺が先手を打った。俺の目は相手を離すことなく射抜きながら、一気に間合いを詰め一閃する。


 ウィルは即座に応戦した――のだが、さっきと決定的に違う点が一つ。俺が攻勢に出て、彼は防戦一方となる――


「くっ!」


 先ほどと同様、刃同士が交差する戦いが始まる。ウィルは俺の動きを見て反撃しようとするが、それよりも先に俺が剣を放ち反撃する機会を与えない。

 俺の剣はさらに速度が増し、ウィルはさらに守勢に回る……このままではまずい、と感じたのだろう。彼は一歩後退しながら身体強化を施し、速度に対応しようとした。


 その魔力量から、俺の急激な攻勢に戸惑い対応が一歩遅れたが立て直せる……そういう状況であり、もしウィルが応じることができるようになれば、再び火花散らす互角の戦いとなる。

 だが、そうはさせない――速度を高めた俺の剣に順応しようとするウィルだったが、それが完全に完了する寸前……というより、速度に応じようと魔力強化を施したその瞬間を狙い、俺は剣を放った。


 それをウィルは防いだが、その表情が変わる。今までと違う……そう瞬時に理解した。

 刹那、彼の体が僅かに浮いた。俺の剣はウィルを膂力で吹き飛ばすほどの剛の剣へと変化し、振り抜いた瞬間には彼の体が数メートル吹き飛んでいた。


「く、おっ……!」


 声を上げながらウィルはどうにか地面に着地し体勢を立て直そうとする。そこに俺は追撃し、決めるべく剣を振り抜いた。

 追撃の一撃をウィルはどうにかガードしたのだが、無理な体勢で受けた結果、防げはしたが衝撃は殺すことができず、大きくのけぞる。


 俺はさらに追撃。体勢を崩した彼の剣目がけてさらなる一閃――それが決定打となって、彼の剣を弾き飛ばすことに成功した。

 ウィルの剣が地面に落ちる。そして俺は彼の首筋に剣の切っ先を向け、


「俺の勝ちだな」

「……ああ、完敗だ」


 その瞬間、人々が放つ熱狂の声がこの場を支配した。






 決闘後、町の人々は速やかにこの場を去った。全員が「いいものが観れた」とばかりに喜んだ顔であり、戦い自体も気持ちの良い終わり方であった。

 で、ウィルは残っていたのだが……人がほとんどいなくなった時、彼は俺に尋ねた。


「勇者としての実力……それが、最後の攻防にあるというわけか」

「どういうことかわかるのか?」

「おおよそだが……魔力強化の方向性を瞬時に切り替えることができる……それも、戦っている相手にすら悟られない状態で」

「正解だ」


 ……単純な戦闘経験だけを言うなら、十年以上の歳月を戦うウィルの方が上かもしれない。けれど俺の方はそれこそ濃密な……魔王との戦いを二度も経験したことから、死線を間違いなくくぐってきた。

 だからこそ、魔力強化という観点からも色々な手法を編み出し、魔物や魔族の意表を突くような戦術を編み出して生き延びてきた……その一つが瞬間的な魔力強化と、変化だ。


 速度に特化した剣術から、相手を吹き飛ばせるほどの威力を出せる力の強化へと一瞬で変わった……ウィルは俺が行う魔力強化についても警戒し、その変化を見逃さないようにしていたはず。だが、俺の変化はウィルに悟らせないほど微少なものであり、彼は対応できず吹き飛ばされたというわけだ。


「相手の状況に応じて、切り替えを要求された……魔族との戦いでは、向こうも一瞬で戦術を変えてくる。それに対抗するためには、俺も同じような戦い方をする必要があった」

「なるほど、な……加えて言えば、まだまだそちらには手札があった。違うか?」

「まあ、な」


 もしウィルが俺の動きに対応できていたら、他にも……俺の剣は魔物や魔族を倒すことに特化したものではあるが、それを応用して戦う術は持っている。


「言っておくが、出し惜しみをしていたわけじゃないぞ。対人戦は、相手の魔力の流れを読み取れるから、その量などを見てどう戦えばいいかを判断していただけだ」

「魔族相手の場合はそんな悠長なことも言っていられないが、人間相手なら話は別だと」

「そちらもわかっていると思うが、魔物と人間とでは戦い方も変わってくるからな。俺は自分なりの戦術を見つけていて、それに基づいて戦っていただけさ」

「そうか……やはり、足りないものが多すぎるな」


 肩を落とすウィル。魔王を倒した勇者相手だったとはいえ、自身が持つ力について限界を感じている様子。

 もしかすると、剣を置く原因となったのかもしれない……ここで俺が何も言わず去れば、そういう結末になるだろう。


 だが……俺はウィルを見ながら、さらに言葉を紡いだ。


「一つ助言をしたいんだが、いいか?」


 ウィルが俺の顔を見る。次いで頷くと、俺は彼へ向け口を開いた。



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