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三度目勇者の異世界紀行  作者: 陽山純樹


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戦士の人生

 ――やがて、俺のいる酒場にメルがやってきた。そして俺のいるテーブルに辿り着くや否や、


「……どういう過程を辿ってこうなりましたか?」


 そう彼女が問い掛けたのは理由がある。俺の席周辺に多数の人が押し寄せ、俺と声を掛けてきた戦士を囲んでいるのだ。

 多数の椅子が俺達のいる席周辺に置かれ、話を聞き入っている……そう、まさしく酒場の中、その心は一つになっているのだ――


「トキヤ、事情を説明してください」

「あー、うん。その、彼が俺と決闘がしたいということでこの酒場にやってきたんだが」


 そう言って俺は丸テーブルを挟んで向かい合う男性戦士を手で示す。


「あ、名前はウィルだ」

「初めまして」

「はあ、どうも……それで?」

「年齢的にも戦士として活動するのは限界か……そこで俺のことを聞きつけ、自分の実力を今一度確かめたい……との要望だったが、まずは色々と話をしようじゃないかと提案したわけだ」

「はい」

「そこで、俺は知ったんだ。彼のここまでの半生を」


 と、そこまで語ると周囲にいた者達はうんうんと頷く。中には涙ぐんでいる者さえいる。


「彼は十年前に発生した戦争以降、辛い道を歩んできた。それでも戦士として強くなるために、必死に戦い、抗い続けた。そこで巡り会った多数の悲劇は……筆舌に尽くしがたいものだ」

「……なるほど。しんみりしているのはそのためですね」

「ああ、彼は文字通り戦士一本で戦争も、戦争後も生き抜いた。けれど岐路に立たされている……年齢が積み重なっていけばいずれ訪れる未来だった。けれど、いざ到達してみると立ちすくんで先に進めなくなってしまったんだ」


 俺はウィルへ視線を送る。その瞳には悲しさが宿っている。


「だからこそ、俺と戦い限界をしることで今までの自分を捨てるべく新しい人生を始めるか、それともまだあがき続けるのかを考えたいと……その、彼の話を聞いて俺も、どうしようか悩んでいたところなんだが……」

「絆されているじゃないですか……」


 メルはどこか呆れたように俺へ向け呟いた。


「トキヤは優しいですから情を抱くのはわかりますよ。けれど、その……トキヤ、こうして人と関わるように活動していては、相談する人間が大挙して押し寄せるのでは?」

「……ああうん、そうだな」

「そこは考慮できていなかった。申し訳なかった」


 と、ウィルは反省の弁を口にする。


「こうして話を聞いてもらっただけで感謝している。剣を交えるという話はなしにしてもらって――」

「いやいや、ここまで来たなら兄ちゃんやりなよ!」


 突然、ウィルの横に椅子を置いて座る男性が声を上げた。


「いやあ、兄ちゃんの話、俺からすれば想像を絶するもんだった。その果てに憧れだった存在と遭遇して、一戦交えたいと思ったわけだろ? なら、その願望を叶えてもいいじゃないか」

「勇者トキヤも受け入れていいって雰囲気だしなあ」


 別の男性が口にする。ふむ、こうして話を聞き込んでしまったし、何より彼の生い立ち……その境遇を踏まえると――


「トキヤ、あなたの性格上色々と目を掛けたいのは理解できますが……まあ、こんな状況となってしまった以上は、もうトキヤは見捨てるなんて選択肢はないでしょうけれど、ある程度分別しなければまずいと思いますよ」

「……分別、というと?」

「こうして人生相談に乗ってばかりでは、本来の目的が達成できないというわけです」

「――目的というのは、魔王討伐か?」


 ウィルが尋ねてくる。それに俺は小さく首を振り、


「今の段階では、調査だな。まだ仲間も揃っていないし、今から魔王へ挑むという無謀なことはしない……ただ」


 俺はウィルと目を合わせ、


「十年前のような悲劇は起こさせない……そのつもりではいるよ」


 おお、と周囲から声が漏れた。これは間違いなく事実だし、そこについては全力で応じようという心構えはしている。まあ実際できるかどうかは未知数だけど。


「メルの意見はもっともだ……けどまあ、今回はもうどうしようもない感じだけど……」

「……町中では目を離さないようにすべきでしょうか」


 はあ、と小さく息をつくメル。


「……ウィルさん、でしたっけ。あなたが認めている通り、あなたのような前例を作ってしまうと、後々面倒なことになります」

「そこは申し訳ない」

「かといって、今更全てなしというのも無情ではあります……それで、トキヤと会話をしてまだ剣を合わせたいと思いますか?」

「……その気持ちは残っている」

「なら、条件をつけましょう」


 条件? こちらが彼女へ視線を送ると、


「何でもかんでも受け入れてしまったら、トキヤの身が持ちませんからね……それに、トキヤは世界のために尽くしてくれています。であれば、もしトキヤに頼みをするのであれば、相応の見返りを要求しても文句は言われないでしょう」

「何をすれば?」


 聞き返すウィル。そこでメルは、彼へ向け条件を提示した――


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