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三度目勇者の異世界紀行  作者: 陽山純樹


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空しさ

 俺はエイベルの屋敷を出て、オルミアの通りを歩く。ここを訪れた人間の行商人などもいて、メインの通りは活気に包まれている。

 それを横目で見ながら、俺は少し考える……メルと共に旅をする大義名分みたいなものはできた。ある意味、今回の騒動に対しメルなりに責任を取るという形ではある。部下の失態に対し役職を下りて、勇者の旅に同行する……口実としてはそれなりだし、俺としても納得はしている。


 ただこういう形……メルの方はどう思っているのか……と、胸中で呟いたところで俺はメルを発見。向こうも俺の姿に気付いて近寄ってくる。


「仕事は片付いたのか?」


 顔を合わせると共に問い掛けると、彼女は少し疲れた表情を見せつつ、


「ある程度はまとまりました。ファグ達もいなくなってしまったため、当面は混乱するかもしれませんが、時間が解決してくれるでしょう」

「そうか……エイベルから話は聞いたよ。俺の旅に同行する理由を」

「実質、私は贖罪の旅という形になりますね。トキヤとしては不本意と思うかもしれませんが、多くの同胞が納得してくれました」

「なら、俺からは何も言わない……ちょっと、歩こうか」

「はい」


 俺達は並んで歩く。今後は共に旅をする仲間となるため、こうして隣同士で歩を進めるなんてことはいくらでもあるのだが――


「メルとしては納得しているのか?」

「ファグ達が首謀者であると分かった時点で、私自身も責任を取る必要があると思っていましたので、特段不満はありません」

「……勇者と旅をする、と言っても実質オルミアから追い出されるようなものだ」

「けれど、またここに帰ってくることはできますし」


 笑いながら話すメル。その表情は俺に心配させまいと気丈に振る舞っている様子が窺える。


 ……かといって、俺は彼女を抱き寄せて「今くらいは泣いてもいい」なんてキザなセリフを言えるほどできた人間ではない。そもそもメルがそんなことを望んでいるのかどうかもわからないし……。


「何か言いたそうですね」


 俺の心の声を聞いているかのようにメルは言う。そこで、


「……辛くはないか?」

「辛い、とか苦しいという感情はありませんね。悲しさもありません……意外に思われるかもしれませんが。家に帰ってワンワン泣き続けるといったこともありませんので」

「それなら良いけど……」

「ただ、なんというか空しさはあります」


 彼女は俺に向け、言葉を漏らす。


「ファグ達への取り調べなどは今からで、その経過くらいは教えて欲しいとエイベル様にも伝えていますが……魔族と手を組んでしまった以上、動機なんて調べても合理的な内容であるかも疑わしいですし」

「魔族の力は人格を大きく歪めるからな」

「はい……ただ、ファグ達は復興に尽力してくれたのは事実です。密かにオルミアを支配しようと企んでいたことは許されませんが、それでも動機がどうあれ、復興のために汗をかいてくれたのは事実です」

「その事実は無下にしたくないと」

「しかし、彼らは裏切り者ですからね……ファグ達の尽力によって復興した面もありますが、その功績すらも全てが無に帰すというのは、彼らのことを想像すると虚無感が生まれてきます」

「……功績を全て放棄したのは彼らだ。どういう経緯であれ力を求め、暴走した。それらはファグ達が自ら決めたんだ。メルが気に病むようなことじゃないさ」


 俺の言葉にメルはこちらを見返す。

 気付けば大通りを離れて歩く存在がいないような道に差し掛かっていた。双方が見つめ合う中、風により葉擦れの音が聞こえてくる。


 やがて先に口を開いたのは――


「……トキヤの、言う通りかもしれませんね」

「ああ」

「仕事の引き継ぎをする間に、気持ちの整理もします。旅を再開するまでには、きちんと今まで通り動けるようしておきますので」

「旅ができるまで、あとどのくらい掛かりそうだ?」

「十日は必要かと思います」

「十日か……俺としては思った以上に短いな、と思ったんだけど」

「無駄に引き延ばす必要はありませんからね……トキヤとしては長いかもしれませんが」

「いや、旅を再開したら、落ち着いて休むようなこともあまりないだろう。これを最後とばかりにダラダラ過ごさせてもらうよ」


 俺の言葉にメルは小さく笑う。そして、


「……旅の目標は、魔王討伐ですか?」

「現段階ではあくまで調査だ。魔王は本当に復活したのか……そして魔族達の行動の意図は何なのか……今回の旅は、ただ目の前にいる敵を倒すだけじゃない……魔王の拠点に赴く必要もありそうだし、仲間なども探さないといけないだろうな」

「明確な目的地などがないため、協力者を誘いづらいですね」

「この辺りはおいおい考えるとしよう……というわけでメル」

「はい」


 俺は彼女と目を合わせ、


「これからよろしく頼む」

「……お任せください」


 そう述べると共に、メルは太陽の下で似合う微笑を浮かべたのだった。


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