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三度目勇者の異世界紀行  作者: 陽山純樹


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勇者の責務

 騒動は早期に終結し、翌日のオルミアは安堵する声が広がった。

 首謀者が判明したことで嘆く声もあったが、それよりも事件が解決したことによる喜びの声が勝った……そしてエイベルは、同胞達の調査に乗り出すと宣言した。


 魔王が復活したという話だが、ファグ達はそれ以前に活動していた――もし魔王復活に呼応して魔族が戦争を仕掛けてきたら、今回のファグのような存在はオルミアにとって致命的なものとなる。エイベルはそれを危惧し、調査することに決めた。


「――当面は、調査によってオルミア内は騒々しくなるだろう」


 俺はエイベルの部屋で彼の話を聞く……ファグ達を倒してから二日ほど経過した時、俺は彼に呼ばれ屋敷を訪れた。

 部屋には俺とエイベルだけであり、メルはいない。彼女は今、仕事に励んでいることだろう。


 部下が魔族と繋がっていたという事実から、彼女にも疑いの目が向けられてもおかしくなかったが……そういうことにはならなかった。間違いなく二度の魔王討伐を果たした功績によるものだ。


「改めて、礼を言おう」


 そしてエイベルは俺に告げる。


「本当にありがとう、トキヤ殿のおかげでオルミアは救われた」

「勇者だからな。手を貸すのは当然だ。まして仲間のメルのことに関わっているんだ。なおさら手を貸さない理由はなかった」

「トキヤ殿によって被害もなく解決できたことが何よりだ。ファグ達を放置していれば、いずれオルミアに災厄が訪れていた。それを犠牲もなく未然に防げたというだけで、どれだけ礼を重ねても足らない」


 エイベルはそう述べた後、俺の目を真っ直ぐ見据えた。


「オルミア側としては、相応の報酬を持って労いたいところだが」

「過大な要求をするつもりはないよ。冒険者ギルドを通して、それなりの金額を支払えばいい。俺がやったことはエイベルの護衛業務と魔物討伐、作戦の参加だ。それに合わせた金額でいいさ」

「欲がないな、トキヤ殿は」

「……まあ、報酬に要求するものがないわけじゃないけど」


 俺が言うと、エイベルは予想できたらしく、


「元の世界へ帰る手段か」

「まあそうだな……けど、現時点で帰る気はない。魔王に関して気になることもあるからな」

「勇者として、責務を全うするか……帰る手段については調べさせてもらおう」

「本当か? 助かるよ」

「しかし、ジェノン王国が独自に開発した召喚魔法だ。調査するにしてもわからないことが多すぎるため、時間が掛かるのは許してくれ」

「構わないさ。そう根を詰めなくてもいいぞ。俺の方も期待しないで待ってるくらいのつもりだから」


 と、ここで俺は一度言葉を切る。


「メルの話が出てきたが、俺の旅に同行するのは確定なのか?」

「……トキヤ殿としては、オルミアのエルフ達が納得する形で、というのを望んでいたな」

「ああ、メル自身は旅に同行する気でいるが、彼女はこのオルミアで立場がある。それを無理矢理奪った、なんて話になったら嫌だし、ちゃんと認められる形の方が望ましいと思っている」

「……トキヤ殿としてはポジティブな理由で同行してほしいというわけだが、今回の騒動でそうもいかなくなった」

「というと?」


 聞き返した後、エイベルは一度息をついた後、話し始めた。


「メルについてだが、現在の立場を辞めると表明した」

「それは……部下のファグ達がやらかしたことが関係しているか?」

「その通りだ。部下が勝手にやったこととはいえ、メル自身気付くことができなかったという負い目もある。彼らが猟師小屋に施した隠蔽魔法を踏まえれば、相当な技術でありメルですら見抜けないレベルのものだ、という説明はつくのだが」

「他ならぬメル自身、納得がいかないと」

「そういうことだ」


 ……まあ、ファグ達にはしかるべき罪が与えられるわけだが、上司だったメルにも影響が出ないわけがないか。


「よって、メルは現在仕事の引き継ぎ途中で、立場上彼女は自由になった」

「……あんまり良い意味合いじゃないな」

「役職を下ろされたわけだからな。より厳格な同胞は何かしら罰なども必要……と、語るケースもあった」

「エイベルとしてはどうなんだ?」

「私を殺めようとしたという事実から、示しをある程度つけなければならない面もある。厳しい声が上がるのも仕方がないと思っている」


 ま、そうだよな……納得がいかない部分でもあるが――


「そこで、だ」


 そしてエイベルは語る。


「メルに新たな役目を与えた。この不祥事を清算するには……それこそ、復活したという魔王について調べ、陰謀を暴く役目を担うのが良いのではないかと」

「なるほど、そこで俺と共に魔王の調査をするというわけか」


 落とし所としては悪くないのかな? ちょっと後ろ向きな理由ではあるが、俺と旅をする口実にはなる。


「この考えに、大半の同胞は賛成している」

「……エルフ達が同意するのなら、俺から何も言うことはないな」


 そう答えるとエイベルはしかと頷いた。


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