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三度目勇者の異世界紀行  作者: 陽山純樹


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勇者の復活

 俺と王様の側近が辿り着いたのは、王宮内に存在する宝物庫。側近の男性が扉を開けると、魔法の光で照らされた様々な武具や道具が安置された空間が広がっていた。

 そうした中、側近は迷わず宝物庫の一角へ向かう。端に近しいその場所には剣が一本安置されており、彼はそれを手に取って俺へと差し出す。


 鞘が白銀で魔法の明かりによってキラキラと輝いているような綺麗な剣だった……これこそ、俺が最初に召喚されてから使っていた相棒。召喚されて初めてこの剣を手にした時、あまりにも綺麗だったから自分には合わないな、と心の底から思ったのを今でもはっきり憶えている。


 俺は剣を受け取って柄に手を掛け少しだけ引き抜く。現れたのは鞘と同様白銀の刀身――そして次の瞬間、剣から光が溢れると俺の体を包み込んだ。

 それは一瞬の出来事であり、気付けば俺の姿は一変していた。さえないスーツ姿から、青を基調とした戦闘服に……この剣は使用者に力を付与し、その影響で武装することができる。


 所有者によって格好が変わるのだが、俺の場合は鎧などを身につけるのではなく、あくまで衣服……とはいえ、全身を刃が通らないような強固な素材の衣服に変わる。その代償として、今まで来ていた衣服は消え去るのだが……まあ、こればかりは仕方がない。


「勇者トキヤ、完全復活ですね」


 王の側近が言う。俺は無言で剣を収め直し、腰のベルトに差し込んだ。


「……期待に添えるかはわからないと、王様に伝えておいてください」

「このまま城を出ますか?」

「そのつもりですが……以前は支度金くらいはもらっていましたけど、今回は?」

「無論、用意していますよ。旅をするのに必要な荷物に加え、十年で各国の情勢がどう変わったかについて記した資料もあります」


 用意周到というわけだ……そこについてちゃんと準備しているのなら、召喚魔法で最初から俺を呼び寄せるつもりだったのは間違いないだろう。

 この国の王様は結構強引で、俺の意見など聞きやしない御仁。いくら文句を言っても平然としている上に、目的遂行のためなら――つまり、魔王を討伐し平和をもたらすためなら、いかなる手段も用いるという正義感を併せ持っている。


 この世界の人にとっては民を守る良い王様なのかもしれないが、俺にとってはいい迷惑である……と、考えていても仕方がない。こうなってしまった以上、俺にはやるしか道はない。


「では、その荷物を持って城の外へ。ちなみに、俺を召喚することは公になっているんですか?」

「召喚が失敗する可能性を考慮し、公表してはいません」

「……その辺りのリスクは管理はさすが。なら、王様に一つ依頼を」

「何でしょうか?」


 問い掛けに俺は側近へこう答えた。


「勇者トキヤが再度召喚されたと……その情報を流してもらえないかって――」






 俺は城の外へ出た。綺麗な青空が広がり、城下町からは人々の話し声が風にのって聞こえてくる。


 魔王は復活した……が、どうやらジェノン王国の都には影響なさそうだと感じた。王様の話によると復活しただけだからまだ影響がない、という解釈もできそうだけど。


 さて、どうしようか……頭上を見上げる。この世界の気候や天体の動きなどは元の世界――より具体的に言えば、俺がいた場所と似通っている。さらに太陽は西から東へ移動するし、月だって出る。

 よって、太陽の位置を見れば時刻がおおよそわかる……うん、夕方前くらいかな。


「とりあえず宿をとって、もらった資料を読むか」


 まずは十年経過してこの世界がどうなったのかを確認するところからだ。それが終わったら、改めて旅を開始する。

 そして最初にやるべきなのは、俺がちゃんと戦えるのかどうか確かめること……戦うこと自体に不安はない。というのも、俺が腰に差した剣は最初から戦う技術が封じられており、使用者のその知識をもたらす効果があった。だからこそ戦闘経験などなかった十六歳の俺でも、戦うことができた。


 それに加え、俺が剣を振ったことで得られた戦闘経験も蓄積している……つまり、合計で四年ほど戦った経験がこの剣には眠っており、それを用いて俺は魔王討伐に挑むことができる。

 ただ、問題は三十六の俺がこの剣をちゃんと扱えるのかどうか……剣には魔王を倒すに足るだけの力も封じられているが、今の俺は十年前と比べても体調面が悪化している……仕事を辞めたのもその体調面が問題だったためだ。よって、今この剣を握ってきちんと戦えるのか確かめなければ。


「世界を二度救った勇者がこの体たらくか……ま、年齢には勝てないか」


 ぼやくように呟くと、俺は宿を探すべく歩き出す。王都に留まるなら城に残っても良かったが……まあ城内の雰囲気とか苦手だし、旅に慣れている俺としては宿屋の一室の方が精神的に楽だ。


 ――そうして、三度目の旅が始まった。どうなるんだろうなあ、と心の中で呟きつつも、まあなんとかなるかとどこか楽観的に考える自分がいた。


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