襲撃の後
オルミアの長、エイベルを襲撃――その大事件は翌日になって里の中を駆け巡り、とんでもないことになったと異様な雰囲気に包まれた。
捕まえたエルフは取り調べが行われ、どういう結末であれオルミア側の法律で裁かれることになるだろう……ここは俺が感知できる部分ではないので置いておくとして――
「まずは、感謝を」
昼頃になって俺はエイベルの屋敷に呼ばれ、話をすることに。ちなみに傍にはメルなどもおらず、一対一だ。
「トキヤ殿の手助けがなければ、最悪の事態になっていただろう」
「エイベルなら危機を脱せたような気もするけど……」
「奇襲、ということであればどうなるかわからなかった。トキヤ殿は魔王を討った実力があるからこそ、対処できたと言えるだろう」
エイベルは語ると、小さく息をついた。
「さて、騒動から一夜明けての状況だが……オルミア内では動揺が広がっている」
「刺客達は指示されただけだろう。指揮をした者が誰なのか検討はついているのか?」
――この時点でファグに関してはまだ話していない。今回の襲撃と彼の行動がどこまで関連しているのか、俺の判断ではわからないためだ。
「取り調べを行っているが、誰も詳細を話してはいない……ただ、既に彼らの自宅などは調べ、色々と情報を得た」
「……首謀者がわかったのか?」
「ミスト、という同胞だ。簡単に言うと、メルと共に仕事をする男性で、オルミアの未来を担うであろう存在だ」
ふむ、メルと同僚か……。
「メルとは仲も良く、仕事上の問題はなかったはずだ」
「今回、エイベルを狙った理由は?」
「不明だ……そもそも、私を狙う理由がない。例えばの話。私が族長を引退するというのなら、いずれミストが引き継ぐだろう。自分の立場を狙うとしても、破滅する可能性を考慮してこんな行動を起こすようなことは考えにくい」
「なるほど、な……」
エイベルの言う通り、狙う理由としてはおかしいような気がする。
「ミストの名が出たことについては、まだ公にはしていない」
と、エイベルはさらに話を続ける。
「夜襲した者達がわざとミストの名を残しているという可能性を考慮している」
「つまり、そのエルフに罪をなすりつけているかもしれないと」
「その通りだ」
「……例えば、両者の部下なんかはどうだ?」
今度は俺が問い掛ける。エイベルは眉をひそめ、
「部下?」
「安直な筋書きだが、例えばミスト、あるいはメルの部下が何か目的があって行動を起こした……というのは――」
「あり得ない話ではないな。メルとミストの仲は良好だが、時に双方の陣営が対立していたこともあった。ただ」
と、エイベルは神妙な顔つきとなり、
「メルは今後トキヤ殿と旅をする以上、いずれミストが族長としてオルミアを引っ張っていく形になる。私の後継、という点で争うことはない」
「その点については、メルも了承しているのか?」
「そもそもメルは族長になる意思など元々持っていない……それはメルからも聞いている」
「でも、彼女の部下はそうじゃない……と」
俺の言及にエイベルは眉をひそめる。
「どういうことだ?」
「……正直、今回のことと関係しているかはわからないけど、報告はしておくよ――」
ファグの一件について話をする。エイベルは俺の説明に耳を傾け、一聴した後、
「ふむ、彼がか……」
「エイベルは彼のことを知っているんだよな?」
「無論だ。彼については十年前の戦争後より、メルの部下となった。その役割は大きいものではあったが……」
「悪い噂もあったと」
「彼はメルのことを優先する結果、色々と無茶をしているようだからな。メル自身がフォローを入れており、それで今までは問題なかったようだが……」
「俺とメルが再会したことにより、何か思うところがあった……ということか?」
「かもしれん。現時点では彼とこの事件に関連性があるのかは不明だが……」
エイベルは口元に手を当て、
「メルの方に危害が及ぶ可能性もゼロではないな」
「……どうするんだ?」
「そうだな……」
エイベルは一考した後、
「ならば、トキヤ殿に私から依頼を行おう。そしてその仕事にメルを帯同させる」
「口実を作って、オルミアから一時的に出すと」
「そうだ……その間に事件解決のために調査を続ける」
「そっちは大丈夫か?」
「身の危険についてか? 警戒はするから心配はするな」
「……わかった。ならメルの方から何か聞いた方がいいか?」
俺が問うとエイベルは難しい顔をした。
「仮にファグが事件の首謀者であっても、メルが事情を知っているはずはないが……ファグの言動に関して何か情報があるかもしれん」
「なら、メルにも色々と話をしておくよ」
「すまないな」
「俺としてはメルとオルミアにいるエルフ達、双方が納得する形にしたいと思っている。その方が俺もすっきりとした気持ちで旅ができるからな。だからまあ、俺がそうしたいからやっているし、謝ったり礼を言う必要はないよ」
そう述べた俺にエイベルは微笑し、
「……トキヤ殿が騒動に関わってしまうのは少しばかり申し訳ないが、事件の早期解決のために、是非とも手を貸してほしい――」




